翔澪を故意に穢れさせ邪神にしようとした人間がいる。それを知った翔澪は怒りがおさまらない。そんな翔澪を見て、風神は静かに首を横に振った。
「気持ちはわかる。俺だって許せないよ。でも今はその怒りを収めた方がいい。さすがにそんなに力が溢れ出てしまっては、せっかく隠している神の力も姿もバレてしまうだろう。花嫁が人間たちの好奇の目にさらされてしまってもいいのかい」
風神の言葉に、翔澪はハッとして周囲を見渡し、すぐに水夜を見る。不安げな水夜の表情に、翔澪は目を見開いて水夜を抱きしめた。
「すまない、驚いただろう」
「いえ、私は大丈夫です。そんなことより、翔澪様は大丈夫ですか?」
心配そうに翔澪を見上げる水夜に、翔澪は愛おしさでいっぱいになる。そんな二人を、風神と雷神は微笑ましそうに眺めてから目を合わせ頷いた。
「話は済んだ。俺たちはそろそろ帰るよ」
「今度またゆっくり話をしよう、花嫁殿」
二人が挨拶をして立ち上がったので、水夜は慌てて二人を見る。
「あ、ありがとうございました。またお会いできるのを楽しみにしています」
水夜の言葉に、翔澪はムッとして水夜を隠すように腕の中に囲った。
「もう来なくていい。また何か情報があれば文で寄越せ」
「はいはい、まったく、龍神のくせに嫉妬深いな」
そう言って、苦笑しながら風神と雷神は店を出て行った。
(行ってしまった……)
残された水夜と翔澪は空いた席をただ黙って見つめていたが、翔澪が静かに口を開いた。
「……俺たちも屋敷へ帰ろう」
*
「お帰りなさいませ、翔澪様。水夜様」
屋敷へ戻ると、屋敷の外で由羅が二人を出迎えた。
「おい、ここの結界を強化しろ。街で風神と雷神に会った。あいつら、ここに来るつもりだったらしい。他の神が来る前に、誰も入れないように……」
そこまで言って、翔澪は怪訝な顔をする。それを見て由羅は冷や汗をかきながら笑みを浮かべる。
「翔澪様、あの、実はですね」
由羅がそこまで言うと、由羅の隣に炎の渦巻きが現れる。
「もう神域に入られていたか」
翔澪がげんなりとした顔でそう言うと、炎の渦から一人の女性が現れた。
(わあ、とても綺麗な方!)
日の光に照らされた髪は夕焼けのように鮮やかな色で、瞳は金色、白に橙色の大きな花模様の着物を着た美女が目の前にいる。その女性は、水夜を見た瞬間に目を輝かせて一目散に水夜の前まで歩いてきた。そして、水夜の両手をがっしりと掴む。
(!?)
「そなたが龍神の穢れを祓い、力を戻した花嫁か!確かに美しい清らかさだ。気に入った!私の嫁になれ!」
「……え?」
あまりに突然すぎて水夜はきょとんとしてしまう。水夜の表情に、美女は豪快に笑って言葉を続けた。
「ああ、そう言えば自己紹介がまだだったな、私は火の神だ」
そう言ってにっこりと微笑む火の神の笑顔は眩しいほど美しい。水夜が思わず目を瞑ると、すぐ隣にいた翔澪はこの世の物とは思えないほど恐ろしい形相で美女を睨みつけ、水夜の手を握り締めている手を掴む。
「おい、貴様何を勝手に俺の花嫁に触れている。消すぞ」
そう言って翔澪は火の神を水夜から強引に引き離し、水夜を腕の中に隠した。火の神はにやりと笑い、腰に手を当てる。
「おやおや、あの龍神がこんなにも一人の人間に入れ込むとはね。だが、気持ちはわかる。そう独り占めせずに私にも寄越せ」
「やらん!どうして神というものはどいつもこいつも強欲なのだ!水夜は俺の花嫁だ、誰にもやらん!」
翔澪が怒鳴り声をあげると、風圧で火の神の髪の毛が舞い上がる。だが、火の神自身は揺らぐことなく笑みを浮かべたままだ。人間ならひとたまりもなく風圧でたおれてしまうだろうに、神様というのはなんとも頑丈なものだ。
(翔澪様、とても怒ってらっしゃるわ)
もしかして焼きもちを妬いているのだろうか。そう思うと、水夜の心は嬉しさでいっぱいになる。他の神様に会うたびに翔澪の水夜への独占欲を目の当たりにし、水夜はこんなにも思われているのかと驚いて嬉しくなった。
「あの、翔澪様」
翔澪の腕の中で水夜が翔澪を呼ぶと、翔澪は慌てて少しだけ腕の力を緩めた。
「どうした?すまない、苦しかったか?」
心配そうに覗き込む翔澪に、水夜は微笑んで小さく首を横に振った。
「いえ、大丈夫です。あの、火の神様にお話があるんですが」
「火の神に?水夜がこいつとわざわざ会話する必要はない」
翔澪がムッとしてそう言うと、水夜はフフッと笑う。
「私の翔澪様への気持ちを、火の神様にお伝えしたいんです。そしたら、火の神様も諦めてくださるかもしれませんから」
「水夜……!」
翔澪は水夜の言葉を聞いて目を輝かせる。それから、しぶしぶと言った顔で水夜を腕の中から解放した。だが、それでも後ろから水夜をしっかり抱きしめている。そんな二人を見て、火の神はクスリと小さく笑った。
「火の神様、私を気に入ってくださりありがとうございます。でも、私は翔澪様ただ一人の花嫁です。他の神様の花嫁になるつもりはありません。私はこの身が無くなるその日まで、翔澪様と一生添い遂げたい、そう思っています」
「水夜……!」
水夜の言葉を聞いて、翔澪は嬉しさのあまり頭を水夜の肩へ擦りつける。
「翔澪様ったら、くすぐったいですよ」
クスクスと笑う水夜、そしてそれに甘えるような仕草を見せる翔澪。そんな二人を由羅はほほえましいという表情で見つめ、火の神は呆れたような顔で見ていた。
「あの龍神がこんなに骨抜きにされているとは、むしろ気持ち悪ささえ感じるな。そう目の前でべたべたされてはかなわん。今日は諦めるとしよう」
「今日は?」
火の神の言葉に、翔澪はドスの効いた声で聞き返す。だがそんな恐ろしい声に臆することなく、火の神は挑戦的な視線を向けた。
「そんなに相思相愛なくせに、花嫁にはまだお前の力が完全には定着していないように見える。それでは隙を見て他の神が横恋慕できてしまうぞ。お前だってわかっているだろう。さっさと定着させてしまえばいいものを」
(力が完全に定着していない?)
水夜が不思議そうな顔をすると、翔澪の水夜を抱きしめる力が強くなった。
「私にその花嫁を横取りされたくないなら、さっさと力を定着させてしまえ。まさかお前、男神のくせに不能なわけではあるまいな」
「はあ!?貴様、ふざけるなよ」
翔澪が怒鳴ると、火の神は鼻で笑い、手を振る。
「それではまたな、龍神の花嫁。次会う時は、龍神の力が完全に定着しているかもしれん。そうなれば、もうお前に気安く触れることもできぬかもしれんな」
そう言って豪快に笑うと、火の神は炎の渦に囲まれて消えていった。
(あっという間にいなくなってしまったわ……)
「由羅、今すぐ結界を強化しろ。どんな神もこの神域に入らせるな。水夜に会わせてはならん」
「かしこまりました」
由羅の返事を聞くと、翔澪は水夜の手を取って屋敷の中へ入る。そして玄関先で翔澪はすぐに水夜を抱きしめた。まだ部屋にも向かっていないのに、突然で水夜は驚く。
「翔澪様?」
「すまない、立て続けに他の神に会って、あんな風に言われて嫌だったろう。せっかくの街での買い物も台無しだ」
そう言って体を離し水夜の顔を覗き込む翔澪の表情はどこか悲しげだ。
「翔澪様、気にしないでください。私は翔澪様と街に行けて嬉しかったですし、あんみつもとっても美味しかったから台無しなんかじゃありません。それに、翔澪様が古くから知っている他の神様にもご挨拶ができて、私は嬉しかったですよ」
「……嬉しかった?」
急に翔澪の纏う空気が変化する。少し怒気をはらむような声に、水夜は驚いて肩を揺らした。
「他の神に会えて嬉しかった?俺は水夜を奪われまいと必死だったのに」
「それは……」
「まだ他の神たちも水夜を狙うかもしれない」
ギリ、と水夜の肩を掴む翔澪の手が食い込む。翔澪の様子に水夜は目を見張り、すぐにハッとして翔澪を見つめた。
「そういえば翔澪様、火の神様がおっしゃっていた、翔澪様の力がまだ完全に定着していないというのはどういうことですか?」
「気持ちはわかる。俺だって許せないよ。でも今はその怒りを収めた方がいい。さすがにそんなに力が溢れ出てしまっては、せっかく隠している神の力も姿もバレてしまうだろう。花嫁が人間たちの好奇の目にさらされてしまってもいいのかい」
風神の言葉に、翔澪はハッとして周囲を見渡し、すぐに水夜を見る。不安げな水夜の表情に、翔澪は目を見開いて水夜を抱きしめた。
「すまない、驚いただろう」
「いえ、私は大丈夫です。そんなことより、翔澪様は大丈夫ですか?」
心配そうに翔澪を見上げる水夜に、翔澪は愛おしさでいっぱいになる。そんな二人を、風神と雷神は微笑ましそうに眺めてから目を合わせ頷いた。
「話は済んだ。俺たちはそろそろ帰るよ」
「今度またゆっくり話をしよう、花嫁殿」
二人が挨拶をして立ち上がったので、水夜は慌てて二人を見る。
「あ、ありがとうございました。またお会いできるのを楽しみにしています」
水夜の言葉に、翔澪はムッとして水夜を隠すように腕の中に囲った。
「もう来なくていい。また何か情報があれば文で寄越せ」
「はいはい、まったく、龍神のくせに嫉妬深いな」
そう言って、苦笑しながら風神と雷神は店を出て行った。
(行ってしまった……)
残された水夜と翔澪は空いた席をただ黙って見つめていたが、翔澪が静かに口を開いた。
「……俺たちも屋敷へ帰ろう」
*
「お帰りなさいませ、翔澪様。水夜様」
屋敷へ戻ると、屋敷の外で由羅が二人を出迎えた。
「おい、ここの結界を強化しろ。街で風神と雷神に会った。あいつら、ここに来るつもりだったらしい。他の神が来る前に、誰も入れないように……」
そこまで言って、翔澪は怪訝な顔をする。それを見て由羅は冷や汗をかきながら笑みを浮かべる。
「翔澪様、あの、実はですね」
由羅がそこまで言うと、由羅の隣に炎の渦巻きが現れる。
「もう神域に入られていたか」
翔澪がげんなりとした顔でそう言うと、炎の渦から一人の女性が現れた。
(わあ、とても綺麗な方!)
日の光に照らされた髪は夕焼けのように鮮やかな色で、瞳は金色、白に橙色の大きな花模様の着物を着た美女が目の前にいる。その女性は、水夜を見た瞬間に目を輝かせて一目散に水夜の前まで歩いてきた。そして、水夜の両手をがっしりと掴む。
(!?)
「そなたが龍神の穢れを祓い、力を戻した花嫁か!確かに美しい清らかさだ。気に入った!私の嫁になれ!」
「……え?」
あまりに突然すぎて水夜はきょとんとしてしまう。水夜の表情に、美女は豪快に笑って言葉を続けた。
「ああ、そう言えば自己紹介がまだだったな、私は火の神だ」
そう言ってにっこりと微笑む火の神の笑顔は眩しいほど美しい。水夜が思わず目を瞑ると、すぐ隣にいた翔澪はこの世の物とは思えないほど恐ろしい形相で美女を睨みつけ、水夜の手を握り締めている手を掴む。
「おい、貴様何を勝手に俺の花嫁に触れている。消すぞ」
そう言って翔澪は火の神を水夜から強引に引き離し、水夜を腕の中に隠した。火の神はにやりと笑い、腰に手を当てる。
「おやおや、あの龍神がこんなにも一人の人間に入れ込むとはね。だが、気持ちはわかる。そう独り占めせずに私にも寄越せ」
「やらん!どうして神というものはどいつもこいつも強欲なのだ!水夜は俺の花嫁だ、誰にもやらん!」
翔澪が怒鳴り声をあげると、風圧で火の神の髪の毛が舞い上がる。だが、火の神自身は揺らぐことなく笑みを浮かべたままだ。人間ならひとたまりもなく風圧でたおれてしまうだろうに、神様というのはなんとも頑丈なものだ。
(翔澪様、とても怒ってらっしゃるわ)
もしかして焼きもちを妬いているのだろうか。そう思うと、水夜の心は嬉しさでいっぱいになる。他の神様に会うたびに翔澪の水夜への独占欲を目の当たりにし、水夜はこんなにも思われているのかと驚いて嬉しくなった。
「あの、翔澪様」
翔澪の腕の中で水夜が翔澪を呼ぶと、翔澪は慌てて少しだけ腕の力を緩めた。
「どうした?すまない、苦しかったか?」
心配そうに覗き込む翔澪に、水夜は微笑んで小さく首を横に振った。
「いえ、大丈夫です。あの、火の神様にお話があるんですが」
「火の神に?水夜がこいつとわざわざ会話する必要はない」
翔澪がムッとしてそう言うと、水夜はフフッと笑う。
「私の翔澪様への気持ちを、火の神様にお伝えしたいんです。そしたら、火の神様も諦めてくださるかもしれませんから」
「水夜……!」
翔澪は水夜の言葉を聞いて目を輝かせる。それから、しぶしぶと言った顔で水夜を腕の中から解放した。だが、それでも後ろから水夜をしっかり抱きしめている。そんな二人を見て、火の神はクスリと小さく笑った。
「火の神様、私を気に入ってくださりありがとうございます。でも、私は翔澪様ただ一人の花嫁です。他の神様の花嫁になるつもりはありません。私はこの身が無くなるその日まで、翔澪様と一生添い遂げたい、そう思っています」
「水夜……!」
水夜の言葉を聞いて、翔澪は嬉しさのあまり頭を水夜の肩へ擦りつける。
「翔澪様ったら、くすぐったいですよ」
クスクスと笑う水夜、そしてそれに甘えるような仕草を見せる翔澪。そんな二人を由羅はほほえましいという表情で見つめ、火の神は呆れたような顔で見ていた。
「あの龍神がこんなに骨抜きにされているとは、むしろ気持ち悪ささえ感じるな。そう目の前でべたべたされてはかなわん。今日は諦めるとしよう」
「今日は?」
火の神の言葉に、翔澪はドスの効いた声で聞き返す。だがそんな恐ろしい声に臆することなく、火の神は挑戦的な視線を向けた。
「そんなに相思相愛なくせに、花嫁にはまだお前の力が完全には定着していないように見える。それでは隙を見て他の神が横恋慕できてしまうぞ。お前だってわかっているだろう。さっさと定着させてしまえばいいものを」
(力が完全に定着していない?)
水夜が不思議そうな顔をすると、翔澪の水夜を抱きしめる力が強くなった。
「私にその花嫁を横取りされたくないなら、さっさと力を定着させてしまえ。まさかお前、男神のくせに不能なわけではあるまいな」
「はあ!?貴様、ふざけるなよ」
翔澪が怒鳴ると、火の神は鼻で笑い、手を振る。
「それではまたな、龍神の花嫁。次会う時は、龍神の力が完全に定着しているかもしれん。そうなれば、もうお前に気安く触れることもできぬかもしれんな」
そう言って豪快に笑うと、火の神は炎の渦に囲まれて消えていった。
(あっという間にいなくなってしまったわ……)
「由羅、今すぐ結界を強化しろ。どんな神もこの神域に入らせるな。水夜に会わせてはならん」
「かしこまりました」
由羅の返事を聞くと、翔澪は水夜の手を取って屋敷の中へ入る。そして玄関先で翔澪はすぐに水夜を抱きしめた。まだ部屋にも向かっていないのに、突然で水夜は驚く。
「翔澪様?」
「すまない、立て続けに他の神に会って、あんな風に言われて嫌だったろう。せっかくの街での買い物も台無しだ」
そう言って体を離し水夜の顔を覗き込む翔澪の表情はどこか悲しげだ。
「翔澪様、気にしないでください。私は翔澪様と街に行けて嬉しかったですし、あんみつもとっても美味しかったから台無しなんかじゃありません。それに、翔澪様が古くから知っている他の神様にもご挨拶ができて、私は嬉しかったですよ」
「……嬉しかった?」
急に翔澪の纏う空気が変化する。少し怒気をはらむような声に、水夜は驚いて肩を揺らした。
「他の神に会えて嬉しかった?俺は水夜を奪われまいと必死だったのに」
「それは……」
「まだ他の神たちも水夜を狙うかもしれない」
ギリ、と水夜の肩を掴む翔澪の手が食い込む。翔澪の様子に水夜は目を見張り、すぐにハッとして翔澪を見つめた。
「そういえば翔澪様、火の神様がおっしゃっていた、翔澪様の力がまだ完全に定着していないというのはどういうことですか?」

