心の宝石 ―あなたの宝物は何ですか―

 カイルは、自分に何かできることはないかと真剣に考えていた。

 そして悩んだ末、これまで少しずつ貯めてきた貯金をすべて持って、マナのもとへと走った。

「マナ!」

 勢いよく駆け込んできたカイルに、マナは目を丸くする。

「ど、どうしたの?」

 カイルは乱れた息を整えると、持っていた袋をマナへ差し出した。

「俺の貯金」
「……え?」

 突然のことに、マナはわけがわからないという顔をする。

「俺の貯金も、ナナのペンダントを買う足しにしてくれ」

 そう言って、カイルは袋をマナへ押しつけた。

「待って。どうしたの? 私……こんなの受け取れない」

 マナは慌てて首を横に振る。

「俺だって、ナナの喜ぶ顔が見たいんだ」

 カイルは袋を引っ込めようとはしなかった。

「それに……おまえが苦しんでる姿は、もう見たくない」

 その表情は、いつになく真剣だった。

「カイル……。私、あなたにそんなに心配かけてたんだね。ごめんなさい。でも……」
「受け取ってくれ! でないと、俺は……」

 そこで言葉を詰まらせる。

 カイルはいつもマナのことを気にかけてくれる、優しい人だ。

 そんな彼の気持ちが、マナには素直に嬉しかった。

「……わかった。受け取るね。ありがとう」

 マナは大切そうに袋を受け取った。

「一緒に、ナナを喜ばせてあげよう」
「ああ!」

 マナが微笑むと、カイルの表情もぱっと明るくなった。

 
 次の日、二人はルビーのペンダントを買いに行った。

 けれど、二人のお金を合わせても買えたのは、小さなルビーがついたペンダントだった。

「こんな小さいのしか、買えなかったね……」

 マナは少し残念そうにペンダントを見つめる。

「何言ってんだ。ナナはきっと大喜びするさ」

 カイルが明るく笑う。

 その笑顔につられて、マナも微笑んだ。


「お姉ちゃん……ありがとう」

 マナがペンダントをプレゼントすると、ナナの目から大粒の涙がこぼれた。

 ルビーがどんなに小さくても、ナナには関係なかった。

 そこには、自分のために一生懸命頑張ってくれたマナの想いが詰まっている。

「お姉ちゃんが、私のために無理してるの……わかってた」

 ナナはペンダントを胸元でぎゅっと握りしめた。

「ごめんね。ありがとう……お姉ちゃん、大好き」

「ナナ……」

 泣きながら抱きついてきたナナを、マナもしっかりと抱きしめる。

 気づけば、マナの目からも涙がこぼれていた。

 二人はしばらくそのまま、互いの温もりを確かめるように抱き合っていた。

 少し離れたところでは、カイルがそんな姉妹を静かに見守っている。

 その瞳にも、うっすらと涙が光っていた。

 * * *
 
 それから数日後。

 マナはこの前のお礼にとカイルを自宅へ招き、二人でゆっくりとお茶を楽しんでいた。

「カイル、本当にありがとう。あなたのおかげよ。私一人じゃ、とても……」
「何言ってんだ。マナの気持ちが俺を動かしたんだよ」

 そう言うと、カイルは突然立ち上がった。

「え?」

 マナの後ろへ回り、その首元にそっと何かをかける。

「これ、俺からマナへ」

 マナは胸元へ視線を落とし、驚いた。
 
 ネックレスだった。

「カイル……これ……」

 振り返ると、カイルの顔がほんのり赤くなっている。

「マナは、いつも人のことばっかりだろ」

 照れくさそうに視線をそらしながら、カイルは続けた。

「たまには自分がもらったっていいだろ……受け取ってくれよ」

 マナはあらためて、胸元のネックレスを見る。

 いくつかの小さな飾りを組み合わせて作られていて、少し不揃いだった。
 けれど、その不器用な形からは手作りならではの温かさが伝わってくる。

「もしかして、これ……」
「ああ。俺の手作り。もう買う金なかったからさ。ごめんな」
「ううん」

 マナはネックレスを大切そうに手で包んだ。

「すっごく嬉しい。ありがとう」

 カイルの優しさが胸いっぱいに広がって、心が温かく満たされていく。

「こんな温かい贈り物、初めてよ」

 カイルはますます照れくさそうにそっぽを向いた。

「こらー! 二人でずるいよ。何してるの?」

 突然、ナナが二人の間へ飛び込んできた。

「ナナ、見て。カイルがくれたの」

 マナが嬉しそうにネックレスを見せる。

「ずるーい、私も欲しい」

 ナナは頬を膨らませ、カイルの腕にしがみついた。

「あのなあ、あれ作るの大変だったんだぞ」

 まとわりつくナナを振り払いながら、カイルが声を上げる。

「あれが最初で最後だ」
「えー! ずるい、ずるいー!」

 いつものようにじゃれ合う二人。

 その姿を愛おしそうに眺めながら、マナは今ここにある幸せを噛みしめていた。



 そして今日も――白怪盗は夜の街に現れる。

 今を懸命に生きる人々の味方として。