心の宝石 ―あなたの宝物は何ですか―

 翌日、マナは店番をしながら深いため息をついた。

「……どうしよう」

 マナが見つめる先には、昨夜、白怪盗が置いていったルビーのペンダントがあった。

 ナナのために、どうしても欲しかったもの。
 今の自分の稼ぎでは、いつ手に入れられるかわからない。それが今、こうして自分の手の中にある。

 けれど、これは白怪盗が誰かから盗んだものだ。

 いくら欲しくても、素直に受け取ることはできなかった。

「どうやって返せばいいのかなあ……」
「何が?」

 突然、背後からカイルが顔を覗かせた。

「っ、カイル! お、驚かせないでよ」

 マナは慌てて、ペンダントをポケットに隠す。

「そんなに驚くなよ。傷つくなあ」

 カイルは大げさに肩を落としてため息をついたあと、マナのポケットを指差した。

「ねえ、それ……ルビーのペンダント?」

 どうやら、しっかり見られていたらしい。

 マナは観念して、昨夜の出来事をカイルに打ち明けた。

「ふーん……よかったじゃん」
「え?」
「だって、ナナにペンダントをプレゼントできるだろ。それに、マナはこれ以上無理して働かなくて済むしさ」

 カイルは嬉しそうだったが、マナの表情は晴れなかった。

「どうした? 嬉しくないのか?」
「……返そうと思ってるの」

 マナがそう呟いた途端、カイルが声を上げた。

「はあ? なんでだよ!」

 驚いたようにマナを見ると、すぐに何かに気づいたような顔をする。

「あ、もしかして。……マナのことだから、盗んだ物だから嫌だとか?」

 マナは黙ったままだった。

「そりゃ、白怪盗がくれたんだから、盗んだ物かもしれないけどさ。いいじゃん! どうせどっかの大金持ちが、たくさん持ってる中の一つだろ。金があるんだから、また買うって」

 カイルは止まることなく続ける。

「でもマナは、妹のために朝から晩まで働いて、それでもなかなか手に入らない。白怪盗はきっとさ、マナみたいに一生懸命生きてる人たちの味方なんだよ」

 そして、マナをまっすぐに見つめた。

「だから……受け取れよ!」

 一気にまくし立てたカイルは、ぜえぜえと肩で息をしていた。

 そんな姿を見て、マナは思わず笑ってしまった。

「ふふっ。カイルって、白怪盗が好きだったの?」
「おまえなあ……」
「さ、仕事、仕事」

 マナはそう言って、仕事へ戻っていく。
 
 その背中を見つめながら、カイルはどうしたものかと考えていた。


 それからも、マナは昼も夜も休むことなく働き続けた。

 日に日に疲れは溜まり、眠る時間も十分には取れていない。
 それでもマナは、ナナのためだからと無理を重ねていた。

 そしてある日、とうとう身体が限界を迎えた。

 仕事の途中で、マナが疲労のため倒れてしまったのだ。

 知らせを聞いたカイルは、すぐにマナの家へ走った。

「マナ!」

 部屋へ入ると、マナはベッドで眠っていた。
 そのそばには、心配そうな顔をしたナナが座っている。

「カイル……。お姉ちゃん、私のために無理してたよね」

 ナナは俯き、自分を責めているようだった。

 カイルはそんなナナを慰めるように、優しく肩に手を置いた。

「ナナ……マナは、ナナの喜ぶ顔が見たかっただけさ。そんな顔してたら、姉ちゃんが悲しむぞ」
「うん……」

 ナナは目元の涙を拭うと、なんとか笑顔を作った。
 
 ナナとカイルの看病もあり、マナの身体は順調に回復していった。

 けれど、二人の心配をよそに、少し元気になるとマナはまた働き始めてしまうのだった。

 
 そしてある夜。

 マナは白怪盗からもらったルビーのペンダントを、窓辺にそっと置いた。

 その隣には、一通の手紙を添えて。
 
 その晩、カイルはマナの身体が心配になり、家の前まで来ていた。

 ふと窓辺を見ると、そこにペンダントと手紙が置かれているのに気づく。
 
「……あれは」

 気になったカイルは窓を開け、置かれていた手紙を手に取った。

『白怪盗さんへ。
 あなたの心遣いはすごく嬉しかったです。ありがとう。
 でも、これはお返しします。
 私は自分の力で、ルビーのペンダントを手に入れます』

 読み終えたカイルは、ペンダントと手紙を強く握りしめた。

 悔しそうに唇を噛む。

「俺は……何もしてあげられないのか……」

 月明かりが、そんなカイルの背中を静かに照らしていた。



 翌朝。

 マナが目を覚まして窓辺を見ると、置いてあったはずのペンダントは消えていた。

 代わりに、一通の手紙が残されている。

『君の気持ちはわかった。
 私は、懸命に生きる人の味方だ。
 困ったことがあったら、また窓辺に手紙を置いてくれ』

 最後まで読み終えたマナは、手紙を大切そうに胸に当てた。