かわいい絶対禁止令! ※ただし、親友は除く

 ある日の昼休み。今日も今日とて四時間目の授業が終わった瞬間、オレはトキの元へ駆けつけようとしたんだけど。席が近い女子ふたりに引き止められてしまった。

「あれ、綿谷(わたや)まーたバッグ派手になってない? なんだっけその猫」

 早くトキのところに行きたいけれど。ペロにゃのことが気になるのだと思ったら、オレはつい話に乗ってしまう。

「ふふん、これはペロにゃな! めっちゃカワイイだろ」
「カワイイより先に、綿谷の好きな猫だってなる」
「それ分かる。街中で見ても綿谷を思い出すよね。てか、どれが増えたヤツ?」
「これこれ! 出たばっかのゲーセンの景品! クレーンゲームって、オレはあんま得意じゃないんだけどさあ。へへ、トキが獲ってくれた」

 そう、おニューの秋仕様のペロにゃは、昨日トキがゲットしてくれたものだ。どうしても、どうしても欲しくって、でも上手くできなくて。貸してみ、と言って交代した途端一発で獲れちゃうんだから、本当にかっこよかった。

「あーあ、顔赤くしちゃって」
「ね。ほーんと、綿谷ってカワイイよね」
「あっ! なあ〜カワイイは言うなって言ってんじゃん! カワイイ絶対禁止令! 絶対絶対禁止!」

 相変わらず、クラスメイトたちからはこんな風にカワイイと言われてしまっている。カワイイの基準がどうかしていると思う。解せない、マジで。

 ふたりにあっかんべーでもお見舞してやろうか。なんてことを考えていたら、突然左の肩が重くなった。右の腰には大きな手が添えられている。トキだ。

「おいお前ら、七世(ななせ)をいじめんな」
「出たー、吉森(よしもり)の過保護。いじめてはないじゃん」
「そうそう。人聞きが悪ーい」
「七世が嫌がること言ってんじゃねえか」
「だーってカワイイんだもん」
「だからやめろって。なあ、七世」
「…………」
「七世?」

 三人の会話はちゃんと聞こえている。聞こえてはいるんだけれど、オレはどうにも返事ができない。トキの顔がオレのすぐ横にあるし体温が滲みこんでくるし、声が直接耳に届くしで、それどころではないのだ。

 屋上の手前で好きだと伝えあって、親友だけじゃなく彼氏と彼氏になって。ファーストキスまでしちゃった日から、二週間が経ったわけだけれど。トキからのスキンシップがすごく増えている。触れる手も声も、すごく甘い。オレは四六時中ドキドキしっぱなし、というわけだ。

「おい、お前ら勝手に見んじゃねえぞ」

 なぜか分からないけれど、顔をトキの手で覆われてしまった。うん、くちびるに手が当たってもっとドキドキしてきた。

「はあ……めんどくさ。はいはい、綿谷がもっと赤くなったとこなんて、私たちは見てませーん」
「吉森がモテてんの、正直言って謎だよね」
「それ。クラスメイトでもないと分かんないのかね、綿谷しか眼中にないってことが」
「俺もそう思う。できれば言いふらしといてほしい。七世、飯食お」
「う、うん。あのトキ、離してもらえると助かるんだけど〜……」
「ああ、ごめんごめん。前見えねえと歩けねえよな」
「いやいや、腰も! 腰もな!?」

 オレの腰を抱いたまま、もう片手でオレのリュックを持つトキと一緒に、トキの席へと向かう。すると原口(はらぐち)と小坂(こさか)に一部始終を見られていたようで、

「吉森、隠す気なくなってきただろ」
「あと、綿谷はすぐ赤くなりすぎな」

 なんて笑われてしまった。

 トキはなんと以前から、原口と小坂にオレを好きなことを相談していたのだそうだ。そんなわけでふたりには、オレたちが晴れて付き合いはじめたことを報告している。特に変わることなく、今まで通りくっつきすぎだとかなんとか茶化してくるふたりが、オレは大好きだ。

 気を取り直して、定位置のトキの前の席に腰を下ろす。トキの机に弁当を広げる。けれど食べはじめる前に、トキに手招かれた。どうやら内緒の話があるらしい。口元に手を添えたトキが、オレの耳元でささやく。

「さっき赤くなってたの、すげー可愛かった」
「っ、は!? なんだよ急に……」

 まさか、内緒話とはいえみんなの前でそんなことを言われるなんて思っても見なかった。オレは一気に熱くなる耳を押さえながら、思わずトキと距離を取る。すると、

「綿谷、また顔赤いじゃん。カーワイイ」
「おーい吉森、イチャイチャはさすがによそでやれー?」

 とふたりが茶々を入れてくる。

「あっ! おい原口! カワイイは禁止だってば!」
「はいはい、ごめんごめん」
「もう〜」

 立ち上がって苦言を呈し、ふんと鼻息を荒くして座りなおす。するとまた、トキが手招いてくる。いやもう、耳元でささやかれると正直、なにを言われても赤面する自信しかないんだけど。かと言ってトキを拒否するなんてしたくなくて、オレはほどほどにしてくれよと願いながら顔を寄せた。

「なあ七世、俺は言っていいんだよな?」
「ん? なにが?」
「七世のこと、可愛いって」
「それは……」

 ふとトキを見れば、得意げな顔で頬杖をついていた。どうやら、オレの答えはもう分かっているらしい。あーあ、憎たらしいくらいにかっこいい。本当に、すげー好き。

「トキ、こっち」
「んー?」

 今度は、オレが耳打ちをする番だ。手を口元に添えて、トキの耳に直接ささやく。

「いいよ。トキだけ特別な。だってトキは、オレの彼氏だもんな」
「……ふっ、特権だな」
「そういうこと」

 綿谷七世、今日も変わらずかわいい絶対禁止令を発令中。ただし、親友兼彼氏は除く。

 だってオレはもう、トキが言う可愛いの意味を知っている。

 愛されている、大好きだって伝えてくれる。トキからの可愛いなら、それこそ一生言われていたいとすら思っている。

「七世、早く飯食お。俺行きたいとこある」
「行きたいとこ? どこ?」
「屋上のところ」
「……っ!」
「はは、七世ほんと可愛い」