かわいい絶対禁止令! ※ただし、親友は除く

 放課後。教室を出る間際に担任の先生が、ひとりの男子に「ちょっと頼みたいことがあるから、職員室に来てくれ」と声をかけた。ソイツは戸惑った顔をしたのに、気づかなかったのか先生はそのまま行ってしまった。

「ええ、この後予定あんのに……」
「なあ、よかったらオレ代わりに行くよ」

 放っておけなくて、オレは声をかけた。だって予定があるのに急にあんなこと言われたら、誰だって困るじゃん。

「えっ。いいの?」
「もちろん」
「ありがとう、マジで助かる……今度お礼させて」
「気にしなくていいって。でもまあ、飴ちゃん一個もらえたら嬉しいかもな」
「はは、分かった。用意しとく」

 ほっとしたような顔をして、教室を飛び出していくクラスメイトを見送る。トキに伝えておこうと振り返ると、すぐそばにトキが立っていた。

「うお、びっくりしたあ」
「七世(ななせ)はマジで優しいよな」

 どうやら、一部始終を見ていてくれたらしい。

「そんなことないって。こういうの、お互い様だろ。えっと、そういうことだから行ってくる」
「うん、ここで待ってる。帰りになんか美味いもんでも食い行こ」
「っ、マジ?」
「マジ。七世の好きなもんにしような」
「ん、分かった」

 恋に気づいてしまった胸はドキドキとうるさい。それをどうにか抑えつつ、トキに手を振る。トキと一緒に帰って、トキと一緒にオレの好きなものを食べる。なんだかんだでオレたちの定番コースではあるけれど、トキとだったら何度だって嬉しい。

 そうと決まれば、先生の用はさっさと済ますべし。教室を走って出て、出入り口で振り返ってもう一度トキに手を振る。振り返してくれたトキに、女子たちが「綿谷にほんとゲロ甘だよね」なんて言っているのが聞こえた。オレは得意になって鼻を鳴らしながら、職員室へと急いだ。

 担任に声をかけると、オレが来たことに驚いた様子だった。

「先生、こういうの誰かに頼むのはいいけどさあ。ちゃんと用事ないかとか確認したほうがいいっすよ」
「たしかにそうだな。今度から気をつけるよ」
「よろしくお願いしまーす」

 先生の頼み事は、明日のホームルームの資料作りの手伝いだった。先生の席のそばに小さな椅子を借りて座り、先生から回ってくる紙をホッチキスでまとめていく。簡単な作業だけど、話しながらやっていたら十五分ほどかかってしまった。

「よし、これで終わりだ。ありがとうな綿谷、助かった」
「どういたしまして。ホッチキスすんの結構楽しかったっす!」
「そう言ってくれると助かる」
「へへ。それじゃあオレ帰ります、失礼します!」

 職員室を出る時に出入り口のところで一礼をしたら、他の先生たちまでほほ笑ましそうにこちらを見ていた。不思議に思いつつ、オレは教室へと急ぐ。職員室出てすぐだから、走れないのだけが厄介だ。

 廊下を早足で歩いて、教室のある隣の棟へと移動する。そこからはもう、先生も見てなんかいないだろうと走り出す。階段を二階分上がれば、二年の教室だ。オレのクラスは五組で、扉の近くで慌ててストップする。窓に顔を写して、髪が乱れてないかチェックするためだ。こんなこと今まではしたことなかったけれど、トキに会えると思ったら整えたくなった。

「んー、あんまり写んないな。あ、スマホのカメラがあんじゃん」

 ポケットからスマホを取り出す。挟んであるペロにゃのステッカーを見る度、トキとおそろいなんだよなってニヤけてしまう。今もしっかりニヤけているだろうなと思いつつ、カメラを起動した時だった。五組の教室の中から、聞き馴染みのある声が聞こえてきた。原口(はらぐち)と小坂(こさか)だ。

「でもさ、吉森(よしもり)そんななのに、よく耐えられるじゃん」
「それは俺も思う」

 トキの名前に、オレの体はぴくんと跳ねる。それにしても、なんだか気になる話だ。なにかトキに嫌なことでもあったのだろうか。

「耐えられてるように見える?」

 トキの声だ。どこか辛そうな声に、オレの胸までぎゅっとなる。オレも一緒に話を聞いてやりたい。オレにできることならなんでもしたい。立ち止まっていた体を、トキに向かって走らせようとした次の瞬間。オレは一ミリも動けなくなってしまった。

「俺は正直、もう限界。七世は俺と一生親友だって嬉しそうに言うけど、そんなん無理だろ」

 今、トキはなんて言った? 頭にぐわんと響くほど衝撃的だったのに、咄嗟には意味が分からなかった。

 もう限界? オレと一緒にいることが?

 一生親友は無理って、どういう意味? オレのこと、嫌いになっちゃった?

「……っ!」

 数秒をかけて、ようやく理解できた。すると動けなくなっていた体が、今度はふらふらとぐらつきはじめる。咄嗟に近くの壁に体を預けると、思いのほか大きな音が鳴ってしまった。あっ、と思った時はもう遅かった。教室の中から誰かの立ち上がる音が聞こえて、近づいてくる足音。顔を上げたらそこには、トキがいた。今いちばん会いたかったはずなのに、トキの顔が見られない。すごく怖い。

「七世……いつからそこに」
「あ……えっと……」
「もしかして、俺らの話聞いてた?」
「っ、ごめ……オレ、トキに、嫌なこと……」
「え? 七世?」
「……か、帰る、ひとりで、帰る、いつもごめ……じゃあな」

 体が動かないとかふらつくとか、そんなことを言ってられる状況じゃない。オレは渾身の力を振り絞って走り出した。

「七世! 待て! なあ頼む!」

 トキの叫ぶ声が聞こえるけど、それでもオレは走った。トキに逆らうなんて、オレ初めてじゃないかな。だってトキの言うことはなんだって叶えたかったし、そもそもオレの嫌がることは言わないヤツだから。

 がむしゃらに走っていたら、今自分がどこにいるのか分からなくなった。それでも止まらずにいたら、とうとう捕まってしまった。荒々しい息を整えながら、

「やっと追いついた。七世、早すぎ」

 なんてトキが言うけれど。オレはなにも答えられない。だって口を開いたら、ボロボロに泣いてるってバレてしまうから。

 振り向かずに、鼻もすすらずに、くちびるはぎゅっと結んだけど。トキが前に回りこんできてしまった。こんなカッコ悪いところ、見られたくなかったのに。

「七世……」
「もー、最悪……」

 見られちゃったなら、もういいか。シャツの袖で目元をゴシゴシと拭くと、

「七世、ダメ。目赤くなんぞ」

 と手を握られてしまった。

「っ、いいよそんなのどうでも。てか、手離して」
「絶対に離さねえ。七世、こっち行こ」
「っ、もー……なんでほっといてくれねえんだよお」

 子どもみたいにグズるオレの腕を引いて、トキは階段を上がった。ついていくことしか、オレにはできない。

「ここどこ?」
「屋上に出る扉みたいだな。鍵はかかってるけど。七世ほら、ここ座って」
「ん……」

 どうしても帰らせてはもらえないらしい。それならば、トキの言う通りにするしかない。屋上への扉横にはちょっと開けたスペースがあって、トキはオレを壁に寄りかかるように座らせてくれた。かと思えばトキも目の前に腰を下ろして、あろうことか立てた両足でオレの体を挟んできた。

「トキ? ちょ、っとこれは……近すぎるって」
「七世が逃げないようにしてるからな」
「もう逃げないって……」
「ほんとに? でも離れたくないから、このままな」
「っ、なんだよそれえ……」

 こんなに近いの、耐えられるわけがない。俯いて少しでも逃げようとしたけれど、トキの両手に顔を包まれてしまった。親指がそっと目の下を撫でてきて、まつ毛に当たる感覚に震えてしまう。心の中は引き裂かれたように痛いのに、トキの手が優しくて混乱しそうになる。

「七世。なにから言えばいいのか難しいんだけど……さっき、どこから話聞いてた?」
「それは……小坂と原口が、よく耐えられるなって言ってて。そしたらトキが、オレと一生親友は無理だ、って……」
「マジか……」

 ああ、やばい。思い返しながら口にしたら、また涙がこみ上げてきた。見られたくないのに、トキの手がそうはさせてくれない。

「なあ七世、聞いて」
「っ、やだ!」

 両手で耳を塞いで、思い切り首を横に振る。でもこんなにくっついていては、トキの声はオレの中に届いてしまう。

「大丈夫だから」
「やだ、絶対無理」
「七世、勘違いしてる」
「してない、この耳で聞いた」
「うん、でも七世が思ってるような意味じゃないから」
「……本当に?」

 どんなに聞きたくないからって、オレの今の態度が酷いことは分かっている。それでもトキは怒鳴ったりせず、優しく言い聞かせるようにしてくれている。もしかして、本当に勘違いなのだろうか。そんな気がしてきて、オレはそろそろと耳から手を下ろした。

「聞いてくれんだな、ありがとう」
「……うん。変な態度取ってごめんな」
「そんなことねえよ」

 ふう、と息を吐いたトキは、肩から力を抜いて笑った。そのくせ眉間がくしゅっと寄っていて、ああ、トキも今オレのために心を砕いてくれてたんだなって。すごく、すごく好きだなって。そう思ったらくちびるが震えてきた。どうか気づかれないようにと願いながら、下くちびるをそっと噛む。

「じゃあ、さっきの話な」
「うん」
「あー……はは。やば」
「トキ?」
「七世にさっきの聞かれてて、勘違いでもショック受けさせたって分かって、覚悟決めたつもりだったんだけど。やっぱ緊張するわ」
「緊張? って?」

 口元に手の甲を当てて、伏し目がちにオレを見ては視線を逸らす。ずっと一緒にいるのに、こんなトキは初めてだ。呼応するように、オレの心臓も早くなってくる。少し経って深呼吸をしたトキは、まっすぐにオレを見つめてきた。もう逸らされることはないんだろうな、そう思える強い眼差しだ。クラクラするけれど、オレもちゃんと受け止めたい。

「七世のこと、一生親友じゃ無理って言ったのはさ。親友じゃ足りない、って意味」
「親友じゃ、足りない?」
「うん。俺さ、七世のことがすげー好きなの」
「……っ、好き?」
「そう。意味分かる?」
「わ、分かるかもしんない。オ、オレと同じ好きってこと? 違う?」
「っ、七世も? 俺のこと好き?」
「……うん。オレ、トキに言われた通り、なんでトキに彼女ができたら嫌なのか、掘り下げたよ。ただの親友じゃなくて、運命の親友なのかなって思った。でも違うのかな、って。トキと同じかは分かんないけど……」
「七世……はは、マジで?」

 親友じゃ足りない好きって、もしかしてもしかしなくても、オレと同じ気持ちってことなんじゃないかな。そう思えるのにこんな言い方、弱いオレの逃げなのだろう。でも、確信がほしい。トキにだって、オレの好きを確信してほしい。

「すげーマジだよ」
「……じゃあ、確かめてみる? 同じ好きか」
「確かめるって、どうやって?」
「こうやって」

 壁際に閉じこめられて、これでもかってくらい既にくっついていたのに。トキはもっとオレのほうに体を寄せてきた。オレの思ってること、心音やまばたきの音まで、全部届いちゃいそうなくらいに近い。

「ち、近すぎるって」
「嫌?」
「……っ、嫌じゃない」

 そう、嫌じゃないから困るのだ。体が火照るくらいに恥ずかしいのに、今簡単に離れられたら、宇宙にひとり放り出されたくらいに寂しくなると思う。

 トキのシャツの腰のところをぎゅっと握りこんで、長いまつ毛の先を見つめる。

「俺は七世に、こんな風に触りたいってずっと思ってた」

 トキの右手が、オレの頬に添えられる。親指の先が触れるのは、くちびるだ。端から端までゆっくりと辿られて、オレの息は途切れ途切れになってしまう。

「七世は? 違う?」
「オ、オレは……」

 トキの指がオレのくちびるの真ん中で止まって、ふにふにと押してくる。恥ずかしいことをされているのはオレのはずなのに。見上げた先のトキの顔も、やっぱり火照ったような赤をしていて。もっとそういう顔、見せてほしいって思う。

「トキのことが好きなんだって気づいて、正直それでいっぱいいっぱいで」
「うん」
「触るとかは、正直そこまで考えられてなかった」
「ん、だよな」
「あっ、待って」

 離れてしまいそうになった手を、慌てて掴んで引き止める。

「トキに触られて、めっちゃドキドキしてる。やめないでほしいって、もっとって、思ってる。同じ好き、だよな?」
「っ、うん、そうだな。同じ好きだ」
「へへ、やった」
「はあ〜、七世……」
「うおっ」

 抱きしめられたかと思ったら、オレの肩にトキの額が乗せられた。ぐりぐりと揺らされるとくすぐったくて、それでいてひどく愛おしい。ああ、なんだ、オレ本当にすごくすごく、トキのこと好きじゃん。なんで気づかなかったんだろう。見る角度で色が違うだけで、トキを想う心はずっとここにあったのに。

 堪らなくなって、トキの頭を撫でつつ片手で抱きしめ返す。するとトキが頭をもたげたと思ったら、今度は額同士が重なった。

「七世」
「……うん」

 トキの吐息がくちびるに当たる。じゃあオレのも、トキに届いてるってことかな。そう思ったら、もっと近づきたくなる。

「キス、していい? まだ早い?」
「あ……オレも、したいなって思ってた」
「っ、マジで?」
「ん。なあ、早く」

 背中に回していた手で、シャツをぐいぐいと引っ張る。離れている一秒がもったいなく思えてくる。嫌われているとすら思いこんだ数分前が嘘みたいに、こんなにそばにいられている。それをもっとちゃんと、感じたい。

「はっ、堪んな……七世」
「んっ」

 あまりの近さにトキの顔がぼやけたら、左の頬にちゅって短いキスが落ちてきた。それから右の頬、それから鼻の頭。やばいくらい嬉しいけど、もっとしてほしいところがある。

「トキ、ちがう」
「んー? なにが?」
「っ、絶対分かってんじゃん。さっき、触ってくれたとこにしてよ」

 もどかしくて、焦れったくて、オレはものの数秒で音を上げる。トキの手を取って、さっきオレのくちびるをふにふにともてあそんだ指をひっかく。するとトキは絶句していて。伝わらなかったのかな。乱されてばかりで悔しくて、オレはその指に今度はそっと歯を立てた。

「っ、七世〜……」
「トキぃ、早くしろってぇ」
「っ、知らねえからな」
「ん……っ」

 ああ、ようやくくちびるにキスしてもらえた。悪態をついたくせに、トキがくれるキスはやわらかくて、あったかくて優しい。それが妙に、オレの涙を誘ってしまう。鼻を啜って、トキのくちびるにかじりつく。

「トキ、好き、大好き」
「ん、オレも。オレもすげー好き。ずっと、こうしたかった」
「トキぃ、もっと……」


 オレたちは、初めてのキスを何度も何度もくり返した。そろそろ帰らなきゃなって頭の端っこでは分かっているのに、トキの顔を見たらもう一回をねだってしまう。それでもどうにか振り切って、オレたちはようやく立ち上がった。それじゃあ行くか、と先を歩くトキの服を、けれどオレは無意識にまた掴んでしまう。

「七世? どうした?」
「え? うわ、ごめん。めっちゃ無意識だった。あー、なんか……」
「なんか?」
「……今、いっぱいくっついてたから。少しでも離れるの寂しい、っていうか……」
「はあ〜……」
「っ、トキ!? どうした?」

 どうにか自分の気持ちを言葉にしてみたら、トキがその場にうずくまってしまった。頭を手で抱えていて、なんだかデジャヴだ。心配でオレもしゃがみこめば、トキは手のすき間からオレを見上げ、とんでもない言葉を言い放った。

「ずっと我慢してたんだけどさ」
「えっ、なに? 怖いんだけど」
「七世お前、マジで可愛すぎる」
「は? ……っ、はあ〜!?」

 かわいいというワードは、オレのいちばん言われたくない言葉だ。かわいい絶対禁止令を、みんなに発令するくらいには。それなのに、まさかトキから言われるなんて。トキは、トキだけは絶対に言わないって分かっているから、発令対象はトキ以外だったのに!

「七世が言われたくないのはよく分かってる。あと、かっこいいって思ってんのもマジだから。七世の自分の好きなものにまっすぐなところとか、当たり前みたいに他人を助けるところとか、真剣にかっこいいって思ってる」
「っ、じゃあなんで言うんだよお!」
「うーん、でもできれば言わせてほしいんだよな。オレ、ずっと思ってたから」
「……うう、マジでショックなんだけど」

 立ち上がって後ずされば、その分だけトキがこちらに近づいてくる。いよいよ壁に背がついたら、そっと頭の両サイドに手をつかれてしまった。

「そうだよな、でも聞いて。他のヤツらが言うかわいいと、俺の言う可愛いは意味が全然違えから」
「違わないだろ」
「いーや、違うね。可愛いって漢字でどう書くか、七世知ってる?」
「そんくらい分かるよ。可能性の可に、愛だろ。バカにすんな!」
「バカになんかしてねえよ。でも、そういう意味だよ」
「どういう意味だよ」
「愛することが可能、愛おしい、愛でたい。つまり好きってこと。あいつらのかわいいはまあ、言ってもカタカナのカワイイだな」
「…………? よく分かんねえ」
「ほんとに分からねえ? 俺はいつも、毎日毎秒、七世を可愛い、好きだって思ってる」
「……っ」
「七世、可愛い。マジで。世界一可愛いよ。本当に嫌? 俺に可愛いって言われるの。だったらもう、絶対に言わない」

 漢字がどうとか、そんなのはオレにはやっぱりイマイチ分からない。でも今ひとつだけ、分かってしまったことがある。トキに可愛いって言われる度、体中がきゅんきゅん鳴り響いて、トキを好きだって思ってしまう自分がいる。

 だって、オレはやっぱりちっとも可愛くなんかない。背丈はトキと変わらないし、もろ男の体つきで、オレにとってかわいいナンバーワンのペロにゃには似ても似つかない。それなのにトキがオレに言う可愛いは、愛情なんだろうなって思えてくる。たぶん、オレの胸にあるトキを愛おしく想う心を、可愛いって言ってるんじゃないかな。そんなの、嫌な訳がないって話で。

「どうしようトキ……嫌じゃなくなってきた」
「マジ?」
「むしろ、嬉しいかも。うう、あんなに嫌だったのに……トキのせいで、オレ変わっちゃったじゃん」
「っ、はあ、堪んな……なあ、もう一回だけキスしていい?」
「……ん、してほしい」

 薄暗くて、少しほこりっぽい屋上へ続く踊り場。鍵がかかった扉から射す日差しはオレンジ色。でもトキがいるから今オレは、この場所がいちばん好き。告白はあそこだったよなって、ファーストキスもしたよなってここを思い出す時、この光や匂いも一緒に思い出すのだろう。それならば、もっともっと味わっていたい、トキのくちびるの感触と一緒に。

「七世、可愛い。すげー可愛いよ」
「っ、トキ……もっと」

 キスの合間に見上げて、オレはねだる。キスをなのか可愛いという言葉をなのか、自分で言ったのにどちらだか分からないけれど。早く、早くちょうだいと鳴くみたいに、オレはトキにしがみついた。