青く、淡い、フィルターの向こう側  -あの頃、好きと言えなかった君と大学で再会した-

海に到着すると潮風の独特な香りに身体が震えた。

冬の海は全ての光を柔らかく受け止めてくれるような荘厳な雰囲気に包まれている。

私たちの夢も、ここなら誰にも笑われない、そんな気がした。

海辺での撮影は順調だった。

撮りたいシーンを撮りたい画角で、天気にも恵まれて想定内の光量。

風も問題なく、それどころか冬の海は風が強いと言うがこれも概ね良好だった。

二人で確認しあって、仕草もニュアンスも意思疎通が取りやすい。気心知れた相手だからか共鳴し合っていると錯覚すらした。

中学時代のバスの中。レンタルショップでの会話。とめどなく重ねた言葉のように、あの時と同じようなリズムで刻む。

そしてこだわってこだわって時間をかけた撮影は無事に終わり、由紀は膝の上に置いていた脚本に視線を移した。

「それにしてもさぁ、この脚本ちゃんと恋しとったね。読むと喋るじゃ、やっぱり実感が違うってゆうか……夏希は努力家やなぁ……どんだけ分析したん」

文字で違和感のないものが、音に変わると「あれ?」っと思う時がある。

しかし夏希が作った今回の脚本にそれはなかった。実際に演じたからこそ、その自然な台詞回しに感動して、やっぱり凄いと見つめれば夏希は視線を海に逃した。

それからの爆弾発言。

「別に分析だけやないよ。好きな奴おるし色々参考に書いたし」

「え、あっ……そうなんやぁ」

「うん」

短く切られた言葉に、急に日本語が分からなくなった。

さんこう、すきなやつ。

キャラクターのモデルは由紀だと言っていたのを思い出したが、この脚本は夏希が高校時代に執筆したもので……中学までは他人を寄せ付けなかったし。

高校時代に何かあったというのがきっと夏希の正しい成長ルートで。

「全然気づかんかった。あれ、えっと……もしかしてもう付き合っとる?そのムッキムキの見た目って女の子ウケいいやろ、よく告白されとるようやし……私は前の方はいいと思ったけど」

混乱してしまい気づけば余計なことを口走っていた。

「というか私なんかとこんなことしとって大丈夫やった?映画のためやって言っても、説明してあげた?夏希は昔から言葉足らずなとこあるからなぁ」

饒舌にも程がある。余計な動揺と詮索が同時に始まって、どうして良いか分からない。

自分でも何言っているんだろうと思うが致し方ない、異常発生中なのだから。この感情の出口はどこだろう。

次第に夏希の顔つきも雲行きが怪しくなりはじめ、気づく。

あぁ、やってしまった。

そしてついに夏希にギッと睨まれた。

「……由紀は分かっとらん。ボケてて、言葉足らずはそっちやろ」

それは激情と言っても過言じゃない、強い眼光だった。

しかし怒鳴るわけでなく、あの女の子の時と同じように言葉は平坦に響く。

「見た目やってお前がこういうのが好きって言ったからやん……」

平坦、そう、冷静な口調でそっと得たいの知れない感情が置かれた。

いや、正体は分かる。

ただ、言葉の意味を理解して今までの言動を繋げていいのか勇気がなかっただけ。

「なんかごめん、余計なこと言った。今日は帰ろか」

あまりにも遠回りで、それが夏希だと言われたら別人の何かに見えてしまった。

もしかして、私自身も彼をフィルター越しに見ていたのだろうか。