僕は今日も、君に恋をしている

――「好きだよ、若葉ちゃん」――

あの晩から僕は、すっかり彼女に夢中だ。

出会ったばかりの頃は想像もしなかった展開。

あの若葉ちゃんから、僕にキスをして……

「最後まで……して」と、僕を求めてくれたこと。

ヤバい。

ここ数日で、更に妄想が膨らむ。


僕の妄想は結構生々しいので、ここでは自主規制――もとい、割愛させてもらう。



普段は理性で抑えているものの、本能と本能同士が絡み合い、求め合う時間は究極の、愛に満ちた時間でもある。


いずれにしても、彼女が好きすぎて。 大切にしたい気持ちと、淫らにしたい気持ちが同居している。


今日もまた、僕は彼女を求めている。


心の底から、彼女を愛したくてたまらない。


抱きたい。


今すぐにでも。


その衝動的な欲情に苛まれるほど、僕は彼女に夢中だった。



今も。きっと、この先も。

僕は彼女に翻弄されながら、生きていくのだろう。

だが、それもいい。

それでいい。

それが、一番いい。

恋をして、愛を知る。

今日も僕は、彼女に恋をしている。



「なァ、神城ォ」

 山本健太。
 またお前か。

「例の彼女とまだ続いてンの?」

「おかげさまで」

「いいよなあ、あんな可愛くてオッ○イのデカい彼女で」
 
 気色悪い。気分も悪い。 話す価値もないな。

「じゃあね」

 僕はあの合コンでの一件以来、彼をいない者として扱うことにした。実際には存在しているので、音声のみで会話を成立させる。それが僕にできる最低限の義理だ。それ以外はどうでもいい。

 だが、彼女を侮辱するなら容赦しない。

「おい、待てって。まだ話終わってねェからァ」
「僕は特に話すことないから」
「なァ、どこであんなイイ女の子と出会ったんだよォ」
「それ、君に言う必要ある?」
「大ありだってェ。なァ、オレの今の彼女がさァ、オレのこと尻軽過ぎて無理って言ってきてさァ」
「事実だよね」
「はァ? 何だよ、お前まで」

 ああもう。鬱陶しいな。

「もう次の彼女候補の女の子探したいんだけどォ。メンバーが集まんなくてさァ」
「それはご愁傷様」
「お前が来てくれればァ、絶対女の子も来ると思うんだけどォ。お前の会費はオレ出すからさァ。座ってるだけでいいから、きてくんねェ?」

 結局僕は、お前にとって客寄せ要員でしかないってことだ。

 この無自覚な発言が、いかに相手を傷つけるか。

 彼には、それを想像する能力があまりにも欠落している。無自覚なノンデリ発言がどれほど命取りになるか、身をもって知るといい。

「他当たって。僕は大切な彼女がいるから」
「何だよォ、可愛い巨乳の彼女がいるからってマウントかよォ」
 いちいちムカつく男だな。どこまで彼女を愚弄する気だ。

「何とでも言えばいいよ。ただ、下半身に脳みそつけて歩いてるうちは、100%成就することはないから」
「は? ア?」

「君が価値観改めない限り、合コンどころか友だちすらいなくなるだろうね」

  だから参加メンバーすら集まらないんだろう。人望がないくせに幹事気取って、「オレに感謝しろ」とか平気でいう雑魚だし。

「なァ、そんなこと言わずにさァ。あ、何ならその彼女連れでもいいからァ。オレ2人分の会費払うからさァ。参加してくれよォ」
 ちょっと何言っているか、全然わからない。


「悪いけど無理。そんな時間とお金積まれたところで、僕たちに何のメリットもないし」
「いや、タダで飲み食いできるんだぞォ。オレがいいって言ってやってんのにさァ」
 お前の金で飲み食いしたところで、食った気も飲んだ気もしないのは目に見えている。寧ろメシマズ案件だ。したがって、僕たちに何のメリットもない。以上。

「じゃあ、一生涯無意味な合コンやる男のギネス記録でも目指したら? それなら世界記録保持者になれると思うよ」
  知らんけどね。


 後ろで色ボケ変態猿が何か言っているが、僕は聞こえないふりをして帰路につく――ふりをして、若葉ちゃんと合流。


 今日は内緒で、芹山駅近くの駐車場に車をとめている。

 たまにはこういうのもアリだろう。

 彼女に会ったら、先ほどの妄想も相まって……秒で押し倒す自信しかない。

 ダメだ。
 それだと、さっきの色ボケ変態猿とやってることはほぼ変わらない……。

 理性と本能の狭間で揺らぐ、彼女への恋心。

 今日は二人ともバイトが休みで、いわゆる放課後デートだ。

 若葉ちゃん。

 今、ものすごく……

「抱きたい」




「エディさん?」
「うわっ!」

 しまった。やらかした。

「どうしたの?」
「あ、ああごめん。つい、ぼんやりしちゃって」

 車で来たのは、間違いだったかな。


 いや、今は運転に集中だ。

「ねぇ、若葉ちゃん」
「何?」

 以前彼女と訪れた、夕日の絶景スポットとして有名だったカフェ。
 どうやら補強工事が終わったらしい。

「少し前に一緒に行った海辺のカフェだけど、行かない?」

 夕日を見ながら告白する予定が、まさかの補強工事で仮囲いの板があって、外が見えなかったというヘマをしたあの日。

 諦めの悪い僕は、その先にあった恋愛成就の鐘の近くへ彼女を連れ出し、そこで思いが溢れて――結果的に告白大成功をおさめた、思い出の場所。

 初めてのキスも。抱擁も。鐘の音も。

 すべては、あの場所で始まったんだ。

 ほんの少し前のことなのに、もう遠い昔の出来事のようにも思える。

 仮囲いの外れた景色は、当時彼女に見せたかった景色。

「綺麗……」

 その言葉が聞きたくて、ここまで連れてきた。

「若葉ちゃんの方が、綺麗だよ」

 そんなベタな台詞しか言えないけど。

 でも、僕は知っている。

 この先に、もっと美しい景色があることを。


「ねぇ、若葉ちゃん」

「うん?」

「あの場所にも、行ってみない?」
 
 君との時間が、始まった場所へ。

「うん、行きたい」

 彼女も、同じ気持ちでいてくれるのだろうか。


 僕は今日、再び彼女とこの場所を訪れた。
 今度は、恋人同士として。


 恋人つなぎをしながら、その場所へ向かう足取りは、以前よりも軽い。

 それでも、歩幅は彼女に合わせて歩く。

 はやる気持ちと、彼女を思う気持ちが交錯する。


 夕日はもう沈んでしまった後だったが、まだ少し、オレンジの暖かな空間が残っている。

「ありがとう、エディさん」

「え?」

「私を、ここまで連れてきてくれて」



 彼女の、絹のように艶のある黒い髪が潮風に揺れて――当時の情景と重なる。

「若葉ちゃん」

 僕はたまらなくなって、以前よりももっと強く、彼女を抱きしめた。

 そして、深く、深く――口づけた。

「エディ、さん」


 抱きしめるたびに、もっと君が欲しくなる。


 欲張りで、恋煩いをこじらせた19の男が――君との未来を想像するだけで、また恋を煩う。


 それでも、この先何年、何十年と続いていく未来に、僕の隣にいて欲しいのは――

君だけだ。


 君の言葉を借りるとすれば……。

 キスから始まった恋だから。
 キスで終わる未来もまた、悪くないと思える。




「若葉ちゃん、大好きだ」

「私も、大好き」


鐘の音が、また聞こえた。



何度も、何度も、思いを重ねて。

何度も、何度も、誓う。



僕は、今も、これからも。

君を好きで居続けたい。



僕は今日も、これからも。




君に恋をしていく。