広縁へ続く廊下を歩いていくと、灯りを落とした先に、人影がひとつ立っていた。
暁臣様の姿を目に入れた瞬間、足が勝手に止まる。
「……っ」
いつもとは少し違う暁臣様の装いに、目が釘付けになる。
深い藍鼠の浴衣。三つ揃えの、隙のない鉄紺色ではなく。
白い襟もとが素肌の首筋をまっすぐに縁取り、鎖骨の影がのぞいている。
整髪料でいつも後ろへ流されている前髪が、今夜は無造作に額へ落ちていた。
衿から覗く喉が、呼吸のたびにわずかに動く。
その一点から目が離せなくなって、私は慌てて顔を伏せた。
……だ、だめ。見ては、いけない。
「すみれ」
「はいっ」
声が裏返った。
顔が熱い。首の後ろまで熱い。
「……なにを俯いている」
「い、いえ……なんでも……」
「顔を上げろ」
逆らえるはずもなく、恐る恐る目線を上げる。
けれど、視界に入るのは襟もとばかりで、とても正面から見上げることなどできない。
いつも私を包んでくれている、鎧のような肩の線が、今夜は布一枚の向こうにある。それだけのことなのに、心臓が壊れそうなほど鳴っていた。
「……よく似合っている」
「あ、ありがとう、ございます……」
「顔が赤いな。熱でもあるのか」
「ちがっ……ちがいます……!」
違うのだと言いたいのに、では何が違うのかを説明する言葉を、私は持っていない。
困り果てて黙り込んだ私を、暁臣様はしばらく黙って眺めていた。
それから、ふ、と息を吐くように笑う。
「行くぞ。月は出ている」
暁臣様の姿を目に入れた瞬間、足が勝手に止まる。
「……っ」
いつもとは少し違う暁臣様の装いに、目が釘付けになる。
深い藍鼠の浴衣。三つ揃えの、隙のない鉄紺色ではなく。
白い襟もとが素肌の首筋をまっすぐに縁取り、鎖骨の影がのぞいている。
整髪料でいつも後ろへ流されている前髪が、今夜は無造作に額へ落ちていた。
衿から覗く喉が、呼吸のたびにわずかに動く。
その一点から目が離せなくなって、私は慌てて顔を伏せた。
……だ、だめ。見ては、いけない。
「すみれ」
「はいっ」
声が裏返った。
顔が熱い。首の後ろまで熱い。
「……なにを俯いている」
「い、いえ……なんでも……」
「顔を上げろ」
逆らえるはずもなく、恐る恐る目線を上げる。
けれど、視界に入るのは襟もとばかりで、とても正面から見上げることなどできない。
いつも私を包んでくれている、鎧のような肩の線が、今夜は布一枚の向こうにある。それだけのことなのに、心臓が壊れそうなほど鳴っていた。
「……よく似合っている」
「あ、ありがとう、ございます……」
「顔が赤いな。熱でもあるのか」
「ちがっ……ちがいます……!」
違うのだと言いたいのに、では何が違うのかを説明する言葉を、私は持っていない。
困り果てて黙り込んだ私を、暁臣様はしばらく黙って眺めていた。
それから、ふ、と息を吐くように笑う。
「行くぞ。月は出ている」



