実際、何かの呪いでは無いかと思ったくらいだ。
でも呪われるほど、糾弾されるような事はした覚えがない。と、ここ何日かを振り返ってみる。
「じゃあ、またね。またあとでLINEしてね。帰ったらタブレットからすぐ見るから」
「ていうか、早く新しいスマホ買えって」
駅の改札の前で、わたしたちは、人目を憚ることなくキスをして別れた。
トールと付き合い始めたのは、わたしがこうなってしまう、だいたい一ヶ月前だ。
これからラブ度を深めようって時に、ありがた迷惑な世界が、わたしを訪れた。
いや、新世界の扉を開いたのか。
それはもう、ほんと不意打ちも良いところで、何日かは、暫くすれば元に戻るんじゃないかと、考えていたのだけど、なかなか甘かった。
壊れたと嘘をついていたスマートフォンを、スクールバッグから取り出す。
電源を入れると、直ぐにセンターにメッセージを取りに行ったようで、わたしのスマホが、まるで文句でも言うように、いくつかのメッセージの通知を伝えて来た。
風邪■■■無■?塾■冬期講習■申込■■■■■? 母
日常生活に支障をきたしているわけでは無いと思う。
漢字しか認識できなくても、意味はなんとなく読み取れる。
コレは母からのLINEで、わたしがひいている風邪がどんな感じなのか、塾の冬期講習はもう申し込んだのかと云う事を聞いているのだ。
共働きで忙しい親とは、家の中で顔を合わせるよりLINEで会話する時間の方が多い。
上海に旅行した友達が、筆談で買い物をしたという話を思い出したけれど、なるほど、どうにか理解できるもんだ。と感心してしまった。
返事をしようと一瞬思って、やめた。
あの作業は恐ろしく時間がかかる。
面倒だから家に帰ってから話をしよう。
その方が早い。
ひらがなとカタカナが認識できない状態では『大丈夫』と打つだけでも、かなり大変な作業となる。
わたしの世界には今、漢字しか無い。
すこし言いすぎかな。
数字とかマークとかスタンプの絵は判るけれど、ある日突然、ひらがなとカタカナがその存在を消したのだ。



