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シロクマ愛ランドの前、俺たちは約束の初雪に目を細めた。
ちらりちらりと、寄り添う肩に舞い降りては、俺と煌人の体温を冷やしきれずに音も立てずに消えていく。
「風太、触れていいですか。」
煌人の真っ黒なまつ毛が、上下しながら近づいてくる。
いいよ。
俺も、お前に触れたい。
返事の代わりに俺も少し背伸びをする。
すぐそこにお互いの温度を感じる。
胸がキュッとなる。
鼓動がリズミカルに走り出す。
「煌人……俺もお前が……」
「――そこ。今すぐ離れて。綺麗なエンディングなど与えない。」
――ピタリ。
二人近づいたまま、声の方へと目線を向ける。
そこには、ドンッと《《シロクマ風》》が立っていた。
またコイツかよ。めんどくせぇ。
「出たなシロクマ風。なんだよ、邪魔すんなよ。」
「……風太っ!ダメです、アイツはダメッ。」
煌人が慌てて俺の口を塞ぐ。
シロクマ風が腰に手を当て、ビシッと俺を指差す。
「おい煌人。このチンチクリンがお前の言ってた“想い人”か?」
「あ、はっ……はい。俺の“想い人”、牙の生えたハムちゃんです。ふふっ♡照れますね♡」
「ふーん、牙の生えたハムね……。看板シロクマをパンダにすると言ったお前を、俺は絶対に認めない。」
なんだ、コイツは。ムカつく野郎だ。
「おい、お前。パンダじゃなくてツキノワでもいいぞ。ちょっとだけ白を残してやんよ。」
――バチバチッ!!
俺とシロクマ風に火花が散る。
「あぁぁ、ダメです。お二人とも仲良くしましょう?」
「うるせぇ。」
「うるさい。」
チッ! ハモっちまった。
ゴソゴソ……バッ!!
シロクマ風が頭をとる。
正直、驚いた。
現れたのは、煌人と同じ顔した茶髪の男。
煌人が額に手を当て大きなため息をつく。
「俺の双子の兄貴です……。」
「ええぇぇーー!?」
ソイツは、俺たちを見てニヤリと笑った。
「よろしくな。俺の《《クラスメイト》》くん。」
なんだと!?
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一夜明けた。
……おい。
ぜんっぜん眠れなかったぞ!!
チュンチュン♫
勢いよく窓を開ける。
「うるせぇ!チュンども!黙れ!」
パタパタパタッ……
腹立つくらいの朝日の中、飛んでいくチュン共を見送る。
ふん。
今朝はチュンチュンの気分じゃねぇんだよ。
「あー、やってらんね!なんだアイツ。」
ムカムカ、ムカムカ、苛立ちが止まらない。
この苛立ちは、キスを寸止めされたからか?
それとも、あのムカつく野郎の態度か?
知るか!!
どっちもだよ!!
「あーっ!ムシャクシャする!!」
髪を掻きむしり、ブレザーに袖を通す。
鏡に映ったボサボサ頭の俺よ、ゆるふわ王子はどこ行った?
「ブハッ!ひでぇな、これは。これ日常にすりゃ悩みも減るんじゃね?」
とはいえ、そんな勇気もなく、ササッと手ぐしを通す。
はい。
いつもの俺、おはようさん。
天パは楽でよろしい。
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教室の入口から、中をそっと覗く。
「……うん、“シロクマ風”居ないな。何がクラスメイト君だ。ビビらせんじゃねぇよ。」
そろっと足を出す。
「おっはよーん!」
――トンッ!!(←富士川)
――トンッ!!(←茄子)
――ドーンッ!!(←鷹野)
ズサァ!!
気持ちいいほど見事に吹っ飛ばされる。
「わぁぁ!!」
「ごめん、大丈夫!?」
「まさか吹っ飛ぶとは!!」
バリケード三人が俺を囲んだ瞬間、お約束のように煌人が走ってくる。
「コォラァァ!!手を離しなさい!!」
バリケード三人が怯む。
「わわわ!ごめんって。」
「俺らをぶたないで!」
「洞、落ち着け!」
ふふん。はたかれろ。
「ぶったりしませんよ。」
ため息をつく煌人。
「え?はたいてしまえよ、こんなゲス共。」
起き上がり、バリケード三人を指差す。
「ハムちゃん、ちょっとごめんなさーい。」
トンッ、煌人の手が俺の胸を押す。
「ぅわわわ。」
トサッ……油断していた俺は、再び床に転がった。
え?
なんで?
なになに?
キョトンとする俺を、煌人の目がウハウハと見ている。
「な、なんだよ……。」
後ろにずずっと下がる。
その俺の傍に煌人が膝まづく。
「風太っ!大丈夫ですか!」
「――は?」
「ほら、こっちへ……」
煌人の腕がテキパキと俺を抱き上げる。
ひょいっ!
――ヒィ……お姫様抱っこぉお……!
ゾゾゾゾ。全身に鳥肌が立つ。
「下ろせ!今すぐ下ろせ!」
「ノンノンノン♡これだけ言わせてください。」
「なんだよ。」
煌人がじっと俺の瞳を覗き込む。
うっ……その目に俺は、弱い。
「な、なんだよ。」
「風太、俺が来るまでよく耐えた。もう安心だ。」
――キリッ。
すぐさま、俺を抱えたままブンブンと振り回す。
「ぎゃぁぁぁ♡言っちゃった!言っちゃった!仮面ドライバーの名セリフーッ♡」
相変わらず……コイツ、バカだ。
ん?あれ?
「煌人、お前、戻りました~みたいな挨拶は?」
「んー。ちょっと嫌なんでやめました。」
「え。やめるとか有りなの?」
「まぁ、有りにしました。」
はいはい。
そうだ。コイツはそういう奴だ。
それがまかり通る奴だ。
うっかり忘れてた。
「ふーん。……で、おろせ?」
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「おはよう。みんな揃ってるかぁ?」
担任が入ってくる。
「揃ってまーーーーす!」
「うむ。元気でよろしい!!」
笑顔の担任が、ドアの向こうに声をかける。
「おーい。入っていいぞー。」
――カタッ……
すらっとした長い足が教室へと伸びる。
ザワッ……
「えー、洞くんそっくり!」
「どういうこと?」
「はいはい、みんな、静かに。今日からこのクラスの仲間になった“洞遥人”君だ。」
シレッとした顔で黒板の前に立つソイツ。
あのムカつく目つきは――……

「あーっ!!シロクマ風!!」
思わず叫んで立ち上がる。
一斉にみんなが俺を振り返る。
やべ……思わず……
「風太っ……」
煌人が立ち上がろうとする。
遮るように同じトーンの声が響いた。
「あの、そこのキミ、ちょっと話したいんですけど?」
――うわ、最悪だ。
「ん?洞遥人、光星と知り合いか?」
担任が俺とシロクマ風を交互に見る。
「ええ、ちょっと。急ぎなので少し話しても?」
シロクマ風がにこやかに担任に伝える。
首を傾げながら、担任が頷く。
「戻ったら、席は洞煌人の横な。」
「わかりました。ありがとうございます。」
カツカツカツ……
乾いた足音が俺に近づいてくる。
カツ……
「光星くん、ちょっと廊下までいいかな?」
俺の頭めがけて、煌人そっくりの声が容赦なく落ちてきた。
「うん、いいよ。何かな?」
ニコッと笑い、立ち上がる。
視界の端に、今にも飛び出してきそうな煌人の顔が見える。
目だけで合図する。“大丈夫だから”
シロクマ風の後ろについてドアを出る。
カラカラカラ……後ろ手でドアを閉める。
「こっちに来てくれる?」
「ああ……。」
階段の踊り場に向かう俺たち。
周りには誰もいない。
「うん。光星くん、この辺でいいよ。」
ゴクッ……なんだよ。
何かあんのか?こないだの続きか?
――ダンッ!!
驚く間もなく、俺は踊り場の壁に全身を押し付けられていた。
脚の間にはシロクマ風の膝が入っている。
身動きが取れない。
「何すんだよ!!離せよ!!」
精一杯噛み付く俺を、シロクマ風のギラギラとした目が睨みつける。
「――おい。」
――ビクッ。
煌人と同じ声なのに、全然、違う……。
「なんだよ。さっさと言いたいこと言えよ。」
「――お前。」
「だから、何だよ。」
「シロクマ舐めてんのか?」
「は……い?」
この状況で“お前、シロクマ舐めてんのか?”だと?
「プッ……あ、ごめんなさい。」
うっかり笑ってしまった。
ギリギリギリッ……
掴まれた襟元、そして俺の股間が押し上げられる。
「ちょっ……お前っ……下はやめろ!!」
「黙れ。あんな大勢の前で俺の事“シロクマ”って呼ぶな。」
「は?」
「シロクマの中の人が俺だって、バレるだろうが。」
「あ、はい……。え?言いたいことはそれ?」
「それ以外に何があるんだよ。」
「いや……はい。うん。」
ギリギリギリッ……
ぐわー!また押し上げてきやがる!!
「だから、下はやめろって!」
「シロクマ舐めてんのか?」
「舐めてない舐めてない!だからもうやめろ!!」
「じゃぁ――いい。」
パッ。開放される。
なんなんだ、コイツは。
「どけよ。お前っ……さぁ……同じ男として最低だぞ。」
「ふん、知るかよ。」
シロクマ風は何事もなかったかのように俺の前を通り過ぎ、教室へと歩き出した。
その背中に向かって言葉を投げる。
「おい。聞いてんのかよ。」
――ピタ。
シロクマ風の足が止まる。
チラッと俺を振り返る奴の口が、クスッと笑った。
「ロックしただけなのに。牙ハムちゃんはウブだねぇ。」
ヒラヒラと手を振ると、静かにドアを開け、教室の中へ消えていった。
なっ……!!
なんだ!?
アイツ、絶対危ないヤツだ!!



