誰も来ない空席をずっと待っている少女はもう涙を流さなくなった。そして誰かに頼ることがなくなった。
八千代に住む花の精はこれからやって来る人達を迎えるために生活していた。
あの時たてた誓いのために。友達の背中を追うのではなく一緒に歩くために。隣にいる少年が胸を張れるように。
「随分と変わりましたね」
「そう?」
「ええ。一日一日で姿が変わっています。固い蕾の花が花びらを広げ咲こうとするようにみえます」
自分が変わっていることに自覚はない。ただ、約束を果たすだけに生きているにすぎない。でも、憧れる自分に近づいている気がして嬉しい。
「そっか。そういえば祭りまであと少しよね?もっと頑張らなきゃ!」
「気を付けて下さいよ?また、力を出し過ぎて庭で倒れているところを回収なんて嫌ですから」
「......善処するよ」
気を付けてと言われても前科があっても咲空が止まることはない。久しぶりに友人が帰って来るのである。頑張らない理由などない。
扇を広げてもう一度踊ろうとした時だった。
「咲空様、楠様から手紙です」
「⁉」
友人からの手紙は練習を放り出しても見たいものである。使者から白い手紙を受け取って焦る気持ちを押さえながらゆっくりと広げる。
(珍しいわね。随分と筆跡が荒れているだなんて)
目に入った文字の羅列は彼女の字である。いつもなら時間をかけて書いたことが分かるような墨一滴もこぼさず、先生が書くような整えられた字を書く少女なのに、今回の手紙はところどころに墨が跳ねた形跡もあるし、墨がなくなったのかかすれた字もある。
短時間で済まさなければならない事情があったのかもしれない。
心臓の鼓動がばくばくと徐々に大きくなっていく中、一行目を読んだ。
『この手紙を咲空が読んでいる頃にはわたくしはもうこの世にいないのでしょう』
「嘘でしょ......」
見間違いだ。きっと。
そう思って何度も読み返しても文字は変わることはない。
「......楠様はとある武将の後継者争いに巻き込まれてしまって」
いやだ。聞きたくない。
耳を押さえたいが、手紙を持つ両手は震えているばかりで言うことを聞かない。
「処刑されました」
「やだやだやだやだやだやだやだ......!どうして?なんで楠なの?楠が何かやったの?誰か......教えてよ......。なんで......楠なのかも......」
(さよならさえ言っていないのに......)
ー咲空ー
母が子を慈しむようにいつも優しくて隣で見守ってくれた温かく安心できる場所が一つ消えてしまった。
空席にもう二度とその人が来ることはない。
(もう嫌......)
誰かと別れることも失うことももう耐えられない。
人のぬくもりがない場所でずっと来ることを待ち望んでいたが、もう誰も訪れないのかもしれない。
来ないのなら咲空が守る必要もない。
これ以上咲空が期待しないように。傷つかないように。
過去の記憶も思い出も全部放り投げて何もかもなくなってほしい。
(そうすれば楽になれる......)
そう願った瞬間体が熱くなる。普段体に眠っていた力が外へ出るように。
「咲空様⁉」
「大丈夫ですか⁉」
駆け寄って来る侍女と使者を最後に瞳の中へ捕らえると、全てを出し切った咲空の意識は現世から切り離された。
八千代に住む花の精はこれからやって来る人達を迎えるために生活していた。
あの時たてた誓いのために。友達の背中を追うのではなく一緒に歩くために。隣にいる少年が胸を張れるように。
「随分と変わりましたね」
「そう?」
「ええ。一日一日で姿が変わっています。固い蕾の花が花びらを広げ咲こうとするようにみえます」
自分が変わっていることに自覚はない。ただ、約束を果たすだけに生きているにすぎない。でも、憧れる自分に近づいている気がして嬉しい。
「そっか。そういえば祭りまであと少しよね?もっと頑張らなきゃ!」
「気を付けて下さいよ?また、力を出し過ぎて庭で倒れているところを回収なんて嫌ですから」
「......善処するよ」
気を付けてと言われても前科があっても咲空が止まることはない。久しぶりに友人が帰って来るのである。頑張らない理由などない。
扇を広げてもう一度踊ろうとした時だった。
「咲空様、楠様から手紙です」
「⁉」
友人からの手紙は練習を放り出しても見たいものである。使者から白い手紙を受け取って焦る気持ちを押さえながらゆっくりと広げる。
(珍しいわね。随分と筆跡が荒れているだなんて)
目に入った文字の羅列は彼女の字である。いつもなら時間をかけて書いたことが分かるような墨一滴もこぼさず、先生が書くような整えられた字を書く少女なのに、今回の手紙はところどころに墨が跳ねた形跡もあるし、墨がなくなったのかかすれた字もある。
短時間で済まさなければならない事情があったのかもしれない。
心臓の鼓動がばくばくと徐々に大きくなっていく中、一行目を読んだ。
『この手紙を咲空が読んでいる頃にはわたくしはもうこの世にいないのでしょう』
「嘘でしょ......」
見間違いだ。きっと。
そう思って何度も読み返しても文字は変わることはない。
「......楠様はとある武将の後継者争いに巻き込まれてしまって」
いやだ。聞きたくない。
耳を押さえたいが、手紙を持つ両手は震えているばかりで言うことを聞かない。
「処刑されました」
「やだやだやだやだやだやだやだ......!どうして?なんで楠なの?楠が何かやったの?誰か......教えてよ......。なんで......楠なのかも......」
(さよならさえ言っていないのに......)
ー咲空ー
母が子を慈しむようにいつも優しくて隣で見守ってくれた温かく安心できる場所が一つ消えてしまった。
空席にもう二度とその人が来ることはない。
(もう嫌......)
誰かと別れることも失うことももう耐えられない。
人のぬくもりがない場所でずっと来ることを待ち望んでいたが、もう誰も訪れないのかもしれない。
来ないのなら咲空が守る必要もない。
これ以上咲空が期待しないように。傷つかないように。
過去の記憶も思い出も全部放り投げて何もかもなくなってほしい。
(そうすれば楽になれる......)
そう願った瞬間体が熱くなる。普段体に眠っていた力が外へ出るように。
「咲空様⁉」
「大丈夫ですか⁉」
駆け寄って来る侍女と使者を最後に瞳の中へ捕らえると、全てを出し切った咲空の意識は現世から切り離された。



