さようならの先に

 神社での奉納と言っても準備することはほとんどない。
 いつも通り力を使うだけ。
 違うところは扇子を用いて舞い踊ることだろう。
 人気がない神域で佇んでいると待ち人が訪れた。


 「お待たせしました」
 「では、旅立った者に幸多からんことを祈って」


 胸に差し込んだ舞扇子を開いて高く上げる。

 ー不毛な大地よ緑に染まれー
 ー千紫万紅咲き乱れー
 ー新たな命に祝福をー
 ーひと時の春を見参ー
 ー東雲照らす朝露をー
 ー散りゆく間まで清らげなりー

 一斉に草木が芽吹く瞬間はこの世の春。
 大輪の花を咲かせたのなら、残るは散るのみ。
 永遠ではなく終わりがあるからこそ美しいのである。
 それは植物に限った話ではなく人間も一緒。

 新緑の力で周囲に淡い緑の光が灯る中、咲空は1人歌い踊る。
 その姿は現世に降り立った花の精の如く神秘的な美しさを放っていた。
 笛も太鼓もなく、唄と舞のみの静かな舞踊はあっという間に終わる。


 「どうだった?」
 「本当に綺麗ですね。さすがわたくしの春。見事です」
 「本当⁉良かった!楠が見たいって言ったらいつでもやるよ!」


 呼ばれたらいつだってどこにでも駆けつける。
 たとえ楠ではなく蓮、そして晴だったとしても。


 「わたくしだけではなく、その力は他の方のために使ってくださいませ。あなたの力は彩を与えてくれますから」
 「本当?皆のために役に立ってる?」


 隣にいる楠は現実と見間違えるほど精巧な刺繍を施し、女性達の晴れの日に着るための着物を作っている。
 都で勉強中の蓮はその手で運命を変えて、生きることができなかった者の明日を生み出している。
 そして、晴は長年の努力で一国の主を手にしようとしている。
 でも、咲空は?
 (植物の力があっても、わたしは皆ほどすごくない)
 近くにいるから分かってしまう。
 自分がここにいて良い存在ではない。
 眩しい光の世界に三人がいるなら、咲空は一人真っ暗な夜の道を歩いている。届きそうもない光に必死で手を伸ばしながら。


 「何言っているんですか!咲空は役に立っていますよ!昔も今も未来だって!あなたは居場所がなかった晴やお兄様、わたくしに居場所を作ってくれました。何もなかった心に消えることのない花々を咲かせてくれて......。生きる希望を下さったんですよ。自分で自分のことを悪く思わないで下さい。咲空が自分のことを悪く言うのなら、わたくしが引き揚げますよ。あなたは誰よりも優しくて素敵な女の子と」
 「楠......!いつも、いつもありがとね。明日もこれからもよろしくね」
 「......こちらこそ」


 2人の安全のためでもあったが、ここ最近顔色が悪い楠を元気にしようと頑張ったが、これではあべこべである。
 いつか咲空が誰かを元気にしてあげられるような存在になりたい。
 涙を拭いて前を向けるように。
 木漏れ日が差し込む昼下がりの神社、悲しみを胸に抱えながらまだ来ない明日へ向かって前へ進もうとする1人の少女と友人に悲しみの涙を流せないように嘘を背負って茨の道に進もうとする少女の姿がいた。