さようならの先に

 『咲空

 この手紙を咲空が読んでいる頃にはわたくしはもうこの世にいないのでしょう。
 まずは側にいると約束したのに何も言わず、あなたの元から去ってしまい、申し訳ございませんでした。
 わたくしは最後の瞬間まで日常のままでいたかった。
 咲空に最後まで笑って欲しかった。
 自分のためについた嘘を抱え込みながら命を落としたわたくしのことを咲空が一生許さなくても構いません。
 
 そして、わたくしに居場所をくださって心から感謝しています。
 わたくしとお兄様は三春を治める当主である父と先代の奥方との間に生まれました。
 しかし、わたくしのお母様はわたくしを産んですぐになくなってしまい、お父様は愛人であった方を後妻にしました。お父様と新しいお母様はわたくしとお兄様に関心を示さなかったため、お兄様が領地の医者として働き、わたくしは作った小物を売ったり、異母妹に教養を教えることで生活していました。そして、わたくしが養女になりかけた時、お兄様がわたくしを連れてお母様の実家がある八千代へ避難しました。後は咲空が知っての通りです。お互い兄妹しかいなかったわたくし達に咲空は友人になろうと声をかけていただきました。お兄様しかいない世界に初めて現れたのが咲空で、どこに行っても安らぐことができなかったわたくしにあなたの隣という安心できる場所を作ってくれました。その後、晴が来て静かだったわたくしの周りが次第に賑やかになっていきました。咲空が繋げてくれた場所で幸せに過ごす日常は夢のようでした。しかし、わたくしに縁談が来たことで夢が終わりに向かっていきました。お父様が拒否することができないほどの方だったそうでわたくしは都へ行きました。すると、わたくしの夫となる方が反逆を働いて婚約を結んだわたくしも処刑されることになりました。
 元々禍にならないように消されていてもおかしくなかった身なので処刑はさほど問題ではありません。
 ですが、何も挨拶を告げなかった咲空と晴とお兄様のことが心残りです。それだけ、わたくしの中で存在が大きくなっていたのでしょう。
 わたくしが側で一緒に見ることができないことはとても悔しいです。お兄様と一緒にお二人の晴れ姿を送りたかったです。
 
 最後に、これまでお世話になったお礼にささやかながら、贈り物を置いてきました。場所はわたくしの屋敷で一番織物が多いお部屋で
す。
 咲空が歩む道が輝かしいものになるよう祈って
 楠』