「晴 さっ」
後ろにいた晴の名前を呼ぼうとすると、鈍器で殴られたような衝撃が頭に襲って来る。
(痛い......!)
意識を手放してしまいそうな痛みで悶絶しているところを晴は見逃すわけがない。
「大丈夫か⁉この人たちになにかされたのか⁉」
「違 う。 違う ん です」
ただ話を聞いただけ。
それ以外何もされていない。
「そういうわけで俺らは帰りますね。失礼いたしました」
「侍女はいるか⁉今すぐ医官を」
「大 丈夫 です」
医官が来ても何もできない。
これは今まで隠して来た扉が空きそうになっていることに対して本能が抑え込もうとしているだけだから。
「大丈夫なわけないだろう⁉」
(ああ、この人ってこんな顔もするのね)
いつもどこか悲しみを纏いながら笑っている青年。
咲空に対してくだけた話し方をしているが、礼儀は崩さず、落ち着いている。
そんな彼が今、動揺して必死になっている。
「本 当 です よ......。わた しは 大丈 夫 で す......か...ら......」
どういうわけか
そんな顔になって欲しくない
彼には笑っていて欲しい
そんな思いが出てくる。
だから、体の状態と反対のことを言ったのだろう。少しでも安心させるために。
必死に咲空の名前を呼ぶ声が聞こえるが、しだいに聞こえくなって心臓の鼓動だけが聞こえる。
視界もぼやけて焦点が合わなくなり、暗くなってしまった。
(この世とお別れ、なのかな)
少し前までは早く向こう側へ行きたかった。
胸にぽっかりとあいた穴を抱えて命が消える瞬間を待ち望んでいた。
それなのにあの少年が来てから穴は徐々に塞がっていく。
ただ流れていた物が徐々に心の中に積もっていく。
それは感情なのか、暖かい何かなのか、どろどろしたものなのか分からない。
だけど、死にたくないと思ってしまった。
生きたいと願ってしまった。
思ってもない願いに自分でも驚きつつ、そんな感情を作ってくれた晴の存在が自分でも大きくなっていることに気づいた。
(早く会いたい)
それに聞きたいこともいっぱいある。
そのためにも早くこの暗闇から出ないといけない。
下手に動くともう二度と戻れないかもしれない。
迂闊に動けない状況にどうしようか考えていると、小さい光が見えることに気づいた。
光を望むことがなかった咲空が手を伸ばすと、何も見えない真っ暗な世界が一瞬で大きな木が生えている草原へ変貌した。
何が起きているのか分からないまま咲空の意識はまっすぐ木の側に立っている少女に向かう。
「咲空」
(この声、わたしは知ってる)
いつも隣で聞いていた声だ。
落ち着いて耳馴染みが良い声の持ち主はいつも隣にいてくれたような気がする。
(いえ、私の周りは一人じゃなかった)
ー咲空、この植物には薬用作用があるんだー
ぶっきらぼうだが、一つ一つ指さしながら丁寧に教えてくれた白衣を来た男の子
ー咲空、そんなに見つめられると少し恥ずかしいですわー
恥ずかしそうに顔を赤らめながらも一針一針丁寧に刺繍を刺す様子を見せてくれた女の子
ー咲空様のことは僕が絶対に守りますー
そして、努力家でこちらが心配になるほど無茶をして、顔を真っ赤にしながら咲空が一番好きな花束を用意してくれた頑張り屋さんの男の子
固く閉じていた扉が開いて、出てきたのはせき止めらた膨大な記憶。
隠しこんでいた記憶のほとんどに三人の姿がある。
(これは......わたしの記憶......)
四人で一緒に過ごしたなんてことない記憶が頭に蘇っていく。
(こんなにも私は楽しくて......愛されていたのね......)
蓮
楠
晴
どうして自分は大切な人の名前も記憶を全部閉ざしてしまったのだろう。
「わたくしの春はきっとこの先も大丈夫ですよ。わたくしを信じてください」
ー咲空ー
自分を呼ぶ声が近くに聞こえる。
楠の側にいる少女がそっと背中を押してくれたような気がする。あたりが白蓮の香りに包まれ白く染まった視界をもう一度開けると、
「咲空!」
「は る」
今にも泣き出しそうな顔の晴がいた。
後ろにいた晴の名前を呼ぼうとすると、鈍器で殴られたような衝撃が頭に襲って来る。
(痛い......!)
意識を手放してしまいそうな痛みで悶絶しているところを晴は見逃すわけがない。
「大丈夫か⁉この人たちになにかされたのか⁉」
「違 う。 違う ん です」
ただ話を聞いただけ。
それ以外何もされていない。
「そういうわけで俺らは帰りますね。失礼いたしました」
「侍女はいるか⁉今すぐ医官を」
「大 丈夫 です」
医官が来ても何もできない。
これは今まで隠して来た扉が空きそうになっていることに対して本能が抑え込もうとしているだけだから。
「大丈夫なわけないだろう⁉」
(ああ、この人ってこんな顔もするのね)
いつもどこか悲しみを纏いながら笑っている青年。
咲空に対してくだけた話し方をしているが、礼儀は崩さず、落ち着いている。
そんな彼が今、動揺して必死になっている。
「本 当 です よ......。わた しは 大丈 夫 で す......か...ら......」
どういうわけか
そんな顔になって欲しくない
彼には笑っていて欲しい
そんな思いが出てくる。
だから、体の状態と反対のことを言ったのだろう。少しでも安心させるために。
必死に咲空の名前を呼ぶ声が聞こえるが、しだいに聞こえくなって心臓の鼓動だけが聞こえる。
視界もぼやけて焦点が合わなくなり、暗くなってしまった。
(この世とお別れ、なのかな)
少し前までは早く向こう側へ行きたかった。
胸にぽっかりとあいた穴を抱えて命が消える瞬間を待ち望んでいた。
それなのにあの少年が来てから穴は徐々に塞がっていく。
ただ流れていた物が徐々に心の中に積もっていく。
それは感情なのか、暖かい何かなのか、どろどろしたものなのか分からない。
だけど、死にたくないと思ってしまった。
生きたいと願ってしまった。
思ってもない願いに自分でも驚きつつ、そんな感情を作ってくれた晴の存在が自分でも大きくなっていることに気づいた。
(早く会いたい)
それに聞きたいこともいっぱいある。
そのためにも早くこの暗闇から出ないといけない。
下手に動くともう二度と戻れないかもしれない。
迂闊に動けない状況にどうしようか考えていると、小さい光が見えることに気づいた。
光を望むことがなかった咲空が手を伸ばすと、何も見えない真っ暗な世界が一瞬で大きな木が生えている草原へ変貌した。
何が起きているのか分からないまま咲空の意識はまっすぐ木の側に立っている少女に向かう。
「咲空」
(この声、わたしは知ってる)
いつも隣で聞いていた声だ。
落ち着いて耳馴染みが良い声の持ち主はいつも隣にいてくれたような気がする。
(いえ、私の周りは一人じゃなかった)
ー咲空、この植物には薬用作用があるんだー
ぶっきらぼうだが、一つ一つ指さしながら丁寧に教えてくれた白衣を来た男の子
ー咲空、そんなに見つめられると少し恥ずかしいですわー
恥ずかしそうに顔を赤らめながらも一針一針丁寧に刺繍を刺す様子を見せてくれた女の子
ー咲空様のことは僕が絶対に守りますー
そして、努力家でこちらが心配になるほど無茶をして、顔を真っ赤にしながら咲空が一番好きな花束を用意してくれた頑張り屋さんの男の子
固く閉じていた扉が開いて、出てきたのはせき止めらた膨大な記憶。
隠しこんでいた記憶のほとんどに三人の姿がある。
(これは......わたしの記憶......)
四人で一緒に過ごしたなんてことない記憶が頭に蘇っていく。
(こんなにも私は楽しくて......愛されていたのね......)
蓮
楠
晴
どうして自分は大切な人の名前も記憶を全部閉ざしてしまったのだろう。
「わたくしの春はきっとこの先も大丈夫ですよ。わたくしを信じてください」
ー咲空ー
自分を呼ぶ声が近くに聞こえる。
楠の側にいる少女がそっと背中を押してくれたような気がする。あたりが白蓮の香りに包まれ白く染まった視界をもう一度開けると、
「咲空!」
「は る」
今にも泣き出しそうな顔の晴がいた。



