「今日は何渡そう?」
「随分と浮かれていますね」
「お姫様へのプレゼントだからだ」
晴は和心を連れて今日も八千代の城下町に降りる。
花、流行りのお菓子、旅行記、織物......
これまで渡して来た物はかつて咲空が好きな物だった。
花を含めて植物全般は寄り添ってくれるから
お菓子は甘いものを食べると幸せになれるから
旅行記は知らない場所に行った気分になれるから
織物は
(楠がよく見せてくれたから、だろうな、きっと)
理由は直接聞いたわけではない。
でも咲空ならそう言うだろう。これだ、という証拠はないが、勘がそう言っているから間違いない。
「では、どうして、いつも2つ買っているのですか?」
「......幼馴染みに渡すんだ。いつも人がやっていることを楽しそうに見守っていていたからな」
これで会話は終わりというように足を速く動かしてお目当てのお店に行く。多少雰囲気が変わっても昔の感覚は鈍っていない。かつて4人で見て回った場所だから。歩くだけで記憶が蘇る。
(確かこの辺に雑貨屋さんがあったはずだ)
大通りから少し外れた場所にある小さなお店。そこが今回の目的地だった。
「おや?晴様じゃないか?随分とかっこよくなって......!咲空様への贈り物だろう?咲空様が好きそうな物はこっちに置いといたからゆっくりみてくれ」
「ありがとう」
見知った店主が準備してくれたところには確かに咲空が好きそうな物がきれいに並んでいた。
「晴様のこと知っているような様子でしたけど、お知り合いですか?」
「昔よく行ったお店だからな。それに、この店の店主の娘が城で侍女をやっているし、なによりもここは噂が流れるのが早い。咲空に送る贈り物を探している、なんてとっくに回っているだろう」
「とても楽しかったのですね」
懐かしそうに目を細めて顔を上げる主に和心はそう言った。
自分のことを語らない主について和心が知っていることはほとんどない。婚約者がいたということさえ知らなかった。それでも、主にとって八千代で過ごした日々はとても充実していたことだけは分かった。
「そうだね。今でも昨日のことのようだよ」
いつもより言葉が丸い。いつも一人で全部抱え込んで早く大人になってしまった主がここ最近年相応に見える。それもこれも咲空という婚約者のおかげなのだろう。
「懐かしいですね。あれからもう何年も経ちましたから。咲空様と楠様が真っ先に商品を見て、蓮様がその輪に入って、3人が晴様を誘う。いつもその流れでしたね」
ーみて!この巾着可愛い!ー
ー随分と斬新な刺繍ですね......。どのようになっているのでしょう?ー
ー気になるのなら買ってゆっくりみればいい。この香とか良いんじゃないか?リラックス効果が期待できるー
ー香を見てそんな感想を述べるのは蓮様くらいだと思いますよー
ー晴もおいで!これなんてどう?ー
ー別に感想は人それぞれだろ!てか、もっと前来いよー
ーそうですよ。ここからではよくみえないですよー
昼下がり
小さな店に子ども4人
店内はショーケースから壁まで至る所に商品を並べているが、1か所に4人が固まったせいでとても狭かった気がする。でも、ぎゅうぎゅうになってお互いのことを感じることができる距離が嫌ではなかった。
(たしか咲空が僕に見せたのは)
「この風鈴いただいても良いか?」
手に取ったのは硝子の風鈴。
硝子には桜が描かれて、揺らすとチリンと優しい音を響かせる。
「もちろんですよ。代金は結構ですから、今度皆様でお越しくださいませ」
この店主は晴達の身に何があったのか知っている。それでも、ばらばらになった四人がまた会うことを望んでいた。
「今日はありがとう」
店主の言葉には返事をせず、感謝の言葉だけ述べる。
一人はこの世にいない
一人は行方不明
一人は記憶喪失
ここで生きる間、四人が揃うことはない。
それでも今ある場所を全力で守る。もう二度と悲しみの涙を流さないように。
そして何十年も月日が経って再開した時には晴から声をかけるんだ。
会いたかった、と。
「随分と浮かれていますね」
「お姫様へのプレゼントだからだ」
晴は和心を連れて今日も八千代の城下町に降りる。
花、流行りのお菓子、旅行記、織物......
これまで渡して来た物はかつて咲空が好きな物だった。
花を含めて植物全般は寄り添ってくれるから
お菓子は甘いものを食べると幸せになれるから
旅行記は知らない場所に行った気分になれるから
織物は
(楠がよく見せてくれたから、だろうな、きっと)
理由は直接聞いたわけではない。
でも咲空ならそう言うだろう。これだ、という証拠はないが、勘がそう言っているから間違いない。
「では、どうして、いつも2つ買っているのですか?」
「......幼馴染みに渡すんだ。いつも人がやっていることを楽しそうに見守っていていたからな」
これで会話は終わりというように足を速く動かしてお目当てのお店に行く。多少雰囲気が変わっても昔の感覚は鈍っていない。かつて4人で見て回った場所だから。歩くだけで記憶が蘇る。
(確かこの辺に雑貨屋さんがあったはずだ)
大通りから少し外れた場所にある小さなお店。そこが今回の目的地だった。
「おや?晴様じゃないか?随分とかっこよくなって......!咲空様への贈り物だろう?咲空様が好きそうな物はこっちに置いといたからゆっくりみてくれ」
「ありがとう」
見知った店主が準備してくれたところには確かに咲空が好きそうな物がきれいに並んでいた。
「晴様のこと知っているような様子でしたけど、お知り合いですか?」
「昔よく行ったお店だからな。それに、この店の店主の娘が城で侍女をやっているし、なによりもここは噂が流れるのが早い。咲空に送る贈り物を探している、なんてとっくに回っているだろう」
「とても楽しかったのですね」
懐かしそうに目を細めて顔を上げる主に和心はそう言った。
自分のことを語らない主について和心が知っていることはほとんどない。婚約者がいたということさえ知らなかった。それでも、主にとって八千代で過ごした日々はとても充実していたことだけは分かった。
「そうだね。今でも昨日のことのようだよ」
いつもより言葉が丸い。いつも一人で全部抱え込んで早く大人になってしまった主がここ最近年相応に見える。それもこれも咲空という婚約者のおかげなのだろう。
「懐かしいですね。あれからもう何年も経ちましたから。咲空様と楠様が真っ先に商品を見て、蓮様がその輪に入って、3人が晴様を誘う。いつもその流れでしたね」
ーみて!この巾着可愛い!ー
ー随分と斬新な刺繍ですね......。どのようになっているのでしょう?ー
ー気になるのなら買ってゆっくりみればいい。この香とか良いんじゃないか?リラックス効果が期待できるー
ー香を見てそんな感想を述べるのは蓮様くらいだと思いますよー
ー晴もおいで!これなんてどう?ー
ー別に感想は人それぞれだろ!てか、もっと前来いよー
ーそうですよ。ここからではよくみえないですよー
昼下がり
小さな店に子ども4人
店内はショーケースから壁まで至る所に商品を並べているが、1か所に4人が固まったせいでとても狭かった気がする。でも、ぎゅうぎゅうになってお互いのことを感じることができる距離が嫌ではなかった。
(たしか咲空が僕に見せたのは)
「この風鈴いただいても良いか?」
手に取ったのは硝子の風鈴。
硝子には桜が描かれて、揺らすとチリンと優しい音を響かせる。
「もちろんですよ。代金は結構ですから、今度皆様でお越しくださいませ」
この店主は晴達の身に何があったのか知っている。それでも、ばらばらになった四人がまた会うことを望んでいた。
「今日はありがとう」
店主の言葉には返事をせず、感謝の言葉だけ述べる。
一人はこの世にいない
一人は行方不明
一人は記憶喪失
ここで生きる間、四人が揃うことはない。
それでも今ある場所を全力で守る。もう二度と悲しみの涙を流さないように。
そして何十年も月日が経って再開した時には晴から声をかけるんだ。
会いたかった、と。



