さようならの先に

 「咲空!今日は町できれいな花があったから見せようと思って持って来たよ」

 「町で今流行っている羊羹(ようかん)だって。一緒に食べない?」

 「今日は本を持って来たんだけど、どんな本だと思う?」

 「呉服屋さんにカタログ貰ったんだけど、咲空ならどんな着物を着ても似合うと思う」


 それからというものの毎日のようにあの少年が咲空の部屋に足を通わせるようになった。片手にものを持って。
 植物
 甘いお菓子
 外に出て各地について記録した紀行文
 職人が細部まで工夫を施した極彩色の反物
 それらは晴が持って来てくれた後、もれなく咲空が好きになるものだった。ずっと見つめたり、実際に手に取ったりするほど。
 咲空が好きになるものを毎回持って来てくれることは楽しみであることと同時に咲空以上に咲空のことを知っている少年に不気味さを覚えていた。


 「どう して あな たは わたし が 好き に なる もの 知って るん です か?」


 はじめて咲空が少年より言葉が先に飛び出た日だった。


 「......咲空のことを考えて選んでいるからだ」


 晴は一拍置いた後、困ったように指を顔に触れながらそう答えた。
 相変わらず、その言葉の裏に何が入っているのか読み取れない。


 「ほん とう に 不思議 な 人で......」


 (なんでこんなにわたしの胸が痛くなるの......?)
 もうよく分からない。理由が知りたくて深層に触れようとすると、手が震えて結局知ることはできないまま。


 「僕に興味をもってくれた?」
 「そう です ね」


 あくまで調べる対象にすぎないが。
 一般人の枠は超えたが、知りたい人以上友達未満という感じだろう。


 「そっか。......ずっと先でもいいから......いつか僕のことも知って欲しいな」
 「そう」


 (今知りたいけど......)
 相手はいつでも待ってくれる。
 だから咲空は次に話そうと思っていた言葉を戻した。
 ーあなたはこれまでどのような人生を歩んできたのですか?ー