『その椅子から完全に腰を浮かせた瞬間、座面に仕込まれた感圧式の起爆スイッチが作動し、あなたは上半身ごと吹き飛ぶことになる。数ヶ月前の屋敷の改装工事の際に、僕が清掃業者に紛れ込んで仕込んでおいたんだ』
佐々木の動きが、ぴたりと止まった。
中腰の姿勢のまま、顔から一瞬で血の気が引き、土気色へ変わっていく。
『……なんてね。嘘ですよ』
「……え?」
『そんなハリウッド映画みたいな爆弾、仕込んであるわけがないでしょう。……まだ、ね』
犯人が、スピーカーの向こうで悪魔のように笑った。
佐々木は中腰のまま、立つことも座ることもできず、顔を引き攣らせている。
『ですが、信じられますか? 今回の第三の大罪のテーマは「虚偽(ウソ)」だ。あなたが十五年間吐き続けてきた嘘に相応しい舞台を用意した。本当に爆弾はないのか。それとも、「爆弾はない」と言った僕の今の言葉そのものが嘘なのか』
犯人は、愉しむように続けた。
『賭けに出て、自分の足で立ち上がって確かめてみますか。佐々木先生』
「う、あ……あぁ……っ」
佐々木は立ち上がることもできず、全身をがたがたと震わせていた。
犯人が本当に爆弾を仕掛けていない保証など、どこにもない。もし立ち上がった瞬間に爆発すれば、それですべてが終わる。
自分の命を賭けて犯人の言葉を試す勇気など、佐々木にはなかった。
額から滝のような脂汗を流しながら、彼は再び、爆弾が仕掛けられているかもしれない漆黒のレザーチェアへ、ゆっくりと深く腰を沈めていった。
「ひぃッ……ば、爆弾……!?」
郷田は応接室の扉へ向かって這うように逃げようとしていたが、スマートホームのロックが掛かっているのか、扉はびくともしなかった。
巨大テレビでは、百万人の大衆が書き込むコメントが、滝のような速度で流れ続けている。
『十五年前の汚職の黒幕って佐々木だろ!』
『第三の大罪ってこいつのことか! 許せねえ!』
『数日後のスキャンダルってなんだ!? その前にこいつを血祭りに上げろ!』
『早く爆発しろ! 裏金ジジイごと消し飛べ!』
大衆も、そしてこの場にいる私たちも、この瞬間の標的が佐々木義泰であると確信していた。
だが、画面の向こうにいる人々は知らない。
いま現実の佐々木が、『爆弾があるのかないのかさえ分からない椅子』へ座らされ、立ち上がることすらできなくなっていることを彼らはネット上へ表示された文字と暴露された事実だけを見て、安全な場所から無邪気に『死刑』の文字を打ち込んでいた。
『さあ、真下刑事。第二問だ』
犯人が、楽しげに私へ語りかけてきた。
『現在、このサイトでは「佐々木を処刑すべきか否か」の最終アンケートが行われている。百万人のうち、過半数が「YES」に達した瞬間、僕の手元にあるマスターキーが作動し、佐々木の椅子の起爆装置のロックが解除される』
「……ロックが解除されるだと?」
『そうだ。ロックが解除されたが最後、佐々木が立ち上がっても爆発するし、そのまま座り続けていても、タイマーがゼロになれば爆発する』
一拍置いて、犯人は愉快そうに付け加えた。
『……まあ、本当に爆弾が仕掛けられていればの話ですが。詰み(チェックメイト)だ』
私はテレビ画面を睨みつけた。
【処刑に賛成:二十三万票】
【処刑に反対:二万票】
賛成票は、凄まじい勢いで伸び続けている。
大衆の狂気は、もはや誰にも止められない。
「貴様の目的は何だ! 佐々木先生を殺すことか! それとも、俺をゲームの駒として試そうというのか!」
私は監視カメラに向かって吠えた。
『目的? 言っただろう。これは鏡だと』
犯人の声が、応接室へ静かに響いた。
『十五年前、佐々木は、自らの保身のために桜という男を見殺しにした。そして今、百万人の大衆が、自分たちの鬱憤を晴らすために佐々木を見殺しにしようとしている。……そして君だ、真下刑事』
画面の赤い波形が、まるで私を指差すように大きく揺れた。
『君は今、目の前にいるその薄汚い嘘つきの命を、本気で救いたいと思っているかい?』
息が詰まった。
目の前では、佐々木が全身を震わせ、額から脂汗を流している。
十五年前、一人の男へすべての罪を押しつけ、その家族を地獄へ突き落とした人間。
その屍の上で、権力の椅子へ座り続けてきた男。
正直に言えば、ここで佐々木が爆死したとしても、同情の余地など欠片もない。
むしろ、桜の遺族の無念を思えば、それこそ因果応報の『正義』なのではないか。そんな考えすら、胸の奥へ浮かんでしまう。
私が黙り込むと、犯人が小さく笑った。
『迷っているね。当然だ。彼を救う義理など、君にはない。だが、もし君が彼を救いたいなら、一つだけ方法がある』
「……なんだ」
『君の手で佐々木先生をその椅子から引きずり下ろし、君自身が代わりに座ることだ』
「な……っ!」
佐々木が息を呑み、逃げ腰になっていた郷田も絶句した。
佐々木の動きが、ぴたりと止まった。
中腰の姿勢のまま、顔から一瞬で血の気が引き、土気色へ変わっていく。
『……なんてね。嘘ですよ』
「……え?」
『そんなハリウッド映画みたいな爆弾、仕込んであるわけがないでしょう。……まだ、ね』
犯人が、スピーカーの向こうで悪魔のように笑った。
佐々木は中腰のまま、立つことも座ることもできず、顔を引き攣らせている。
『ですが、信じられますか? 今回の第三の大罪のテーマは「虚偽(ウソ)」だ。あなたが十五年間吐き続けてきた嘘に相応しい舞台を用意した。本当に爆弾はないのか。それとも、「爆弾はない」と言った僕の今の言葉そのものが嘘なのか』
犯人は、愉しむように続けた。
『賭けに出て、自分の足で立ち上がって確かめてみますか。佐々木先生』
「う、あ……あぁ……っ」
佐々木は立ち上がることもできず、全身をがたがたと震わせていた。
犯人が本当に爆弾を仕掛けていない保証など、どこにもない。もし立ち上がった瞬間に爆発すれば、それですべてが終わる。
自分の命を賭けて犯人の言葉を試す勇気など、佐々木にはなかった。
額から滝のような脂汗を流しながら、彼は再び、爆弾が仕掛けられているかもしれない漆黒のレザーチェアへ、ゆっくりと深く腰を沈めていった。
「ひぃッ……ば、爆弾……!?」
郷田は応接室の扉へ向かって這うように逃げようとしていたが、スマートホームのロックが掛かっているのか、扉はびくともしなかった。
巨大テレビでは、百万人の大衆が書き込むコメントが、滝のような速度で流れ続けている。
『十五年前の汚職の黒幕って佐々木だろ!』
『第三の大罪ってこいつのことか! 許せねえ!』
『数日後のスキャンダルってなんだ!? その前にこいつを血祭りに上げろ!』
『早く爆発しろ! 裏金ジジイごと消し飛べ!』
大衆も、そしてこの場にいる私たちも、この瞬間の標的が佐々木義泰であると確信していた。
だが、画面の向こうにいる人々は知らない。
いま現実の佐々木が、『爆弾があるのかないのかさえ分からない椅子』へ座らされ、立ち上がることすらできなくなっていることを彼らはネット上へ表示された文字と暴露された事実だけを見て、安全な場所から無邪気に『死刑』の文字を打ち込んでいた。
『さあ、真下刑事。第二問だ』
犯人が、楽しげに私へ語りかけてきた。
『現在、このサイトでは「佐々木を処刑すべきか否か」の最終アンケートが行われている。百万人のうち、過半数が「YES」に達した瞬間、僕の手元にあるマスターキーが作動し、佐々木の椅子の起爆装置のロックが解除される』
「……ロックが解除されるだと?」
『そうだ。ロックが解除されたが最後、佐々木が立ち上がっても爆発するし、そのまま座り続けていても、タイマーがゼロになれば爆発する』
一拍置いて、犯人は愉快そうに付け加えた。
『……まあ、本当に爆弾が仕掛けられていればの話ですが。詰み(チェックメイト)だ』
私はテレビ画面を睨みつけた。
【処刑に賛成:二十三万票】
【処刑に反対:二万票】
賛成票は、凄まじい勢いで伸び続けている。
大衆の狂気は、もはや誰にも止められない。
「貴様の目的は何だ! 佐々木先生を殺すことか! それとも、俺をゲームの駒として試そうというのか!」
私は監視カメラに向かって吠えた。
『目的? 言っただろう。これは鏡だと』
犯人の声が、応接室へ静かに響いた。
『十五年前、佐々木は、自らの保身のために桜という男を見殺しにした。そして今、百万人の大衆が、自分たちの鬱憤を晴らすために佐々木を見殺しにしようとしている。……そして君だ、真下刑事』
画面の赤い波形が、まるで私を指差すように大きく揺れた。
『君は今、目の前にいるその薄汚い嘘つきの命を、本気で救いたいと思っているかい?』
息が詰まった。
目の前では、佐々木が全身を震わせ、額から脂汗を流している。
十五年前、一人の男へすべての罪を押しつけ、その家族を地獄へ突き落とした人間。
その屍の上で、権力の椅子へ座り続けてきた男。
正直に言えば、ここで佐々木が爆死したとしても、同情の余地など欠片もない。
むしろ、桜の遺族の無念を思えば、それこそ因果応報の『正義』なのではないか。そんな考えすら、胸の奥へ浮かんでしまう。
私が黙り込むと、犯人が小さく笑った。
『迷っているね。当然だ。彼を救う義理など、君にはない。だが、もし君が彼を救いたいなら、一つだけ方法がある』
「……なんだ」
『君の手で佐々木先生をその椅子から引きずり下ろし、君自身が代わりに座ることだ』
「な……っ!」
佐々木が息を呑み、逃げ腰になっていた郷田も絶句した。
