「うーん、そうですね。蝶はね、羽の音や周囲の振動を感知することはできるんです。羽ばたく回数が少ないから音はしない。だから、ほとんど聞こえない。人間も身近な音や行動を見ないようにするのは難しい。それでも、音を自分なりの音に変えれば少し生きやすくなるんですよね。ちなみに、私も試してやってるんです。そしたら、前よりはましになったんですよ。あ、では。そろそろ行かないとです。では、また」
栗原さんは左手首にしていた時計を眺めて、早口で言い、その場を去ろうとした。
「あの!」
翔月は栗原さんを呼び止めた。
「はい」
「自分なりの音って、音楽でも消し去れるんですか」
「……はい。音楽には力があります。歌詞や曲調で物語を語ってるから、その世界に入れるんです。だから、私は音が聞こえるようで聞こえなくなったんです。私が私でいられるように。では」
栗原さんは噛むことなく、翔月の質問に答えてから、クレープを食べながら早足で駆けて行った。
翔月は栗原さんの後ろ姿を呆然と立ち尽くして、見続けていた。
「……翔月」
「あ、ゴメン。詩」
栗原さんは左手首にしていた時計を眺めて、早口で言い、その場を去ろうとした。
「あの!」
翔月は栗原さんを呼び止めた。
「はい」
「自分なりの音って、音楽でも消し去れるんですか」
「……はい。音楽には力があります。歌詞や曲調で物語を語ってるから、その世界に入れるんです。だから、私は音が聞こえるようで聞こえなくなったんです。私が私でいられるように。では」
栗原さんは噛むことなく、翔月の質問に答えてから、クレープを食べながら早足で駆けて行った。
翔月は栗原さんの後ろ姿を呆然と立ち尽くして、見続けていた。
「……翔月」
「あ、ゴメン。詩」



