『無事に着いたよ。でも、家族へのお土産を買うのを忘れちゃってブツブツ言われちゃった』
美瑛ちゃんから無事に家に着いたと電話があった。
僕はさっきのお父さんたちとのやり取りで、若干疲れていたけど、美瑛ちゃんの声を聞くといきなり復活していた。
「そうだった! 赤レンガとかで買えば良かったね。ミサンガしか買わなかった……」
『いいの。ミサンガを買えたことが一番嬉しかったから。学校にもしていく』
「大丈夫なの? 外せって言われない?」
『派手なものじゃないから大丈夫だよー』
僕も学校に着けているつもりでいた。
絶対に、萱に何か言われそうだけど……
僕はお父さんたちとのことを美瑛ちゃんに話した。
『味方になってくれて良かったね。やっぱり親には理解してもらいたいよね。私も9月から学校へ行くって言ったら、なんかホッとしているみたい』
「そうなんだ。嬉しかったんじゃない? あと、美大に行くって宣言もした」
『え! 美大に行くことにしたの? 絶対応援する! 柚くんなら絶対合格するよ!』
美瑛ちゃんの全てを肯定してくれる言葉が、僕の言動を後押してくれている。
僕も美瑛ちゃんにとって、そういう存在になりたいと思った。
「僕も美瑛ちゃんをずっと応援しているからね。登校して、嫌なことがあったら何でも僕に言って。物理的には離れているけど、声はいつでも届けられるから」
『……ありがとう。染みたー』
「え?」
『柚くんの言葉が胸に染みたの』
僕は、お母さんに夕飯だと呼ばれてもずっと美瑛ちゃんと話続けていた。
何時間か前には一緒にいて、散々話していたのに、それでも話は終わらなかった。
🔸🔸🔸
明日から新学期という、夏休み最後の日に突然そのニュースが流れてきた。
【東京都の私立高校の教諭・戸谷静夫容疑者(39)が不同意わいせつ罪で逮捕されました。戸谷容疑者は22時頃、路上で高校生の下半身を触ったなどとして……】
敵は土俵に上がる前に、自滅した。
🔸🔸🔸
9月1日。学校がある最寄り駅や、校舎の前にはカメラを持った人や、スマホを持った人たちが大勢集まっていた。
僕たちが海津高校の生徒だとわかると、無遠慮にスマホを顔の前に差し出して話を聞こうとする人もいた。
警備の人や、学校の先生たちが、僕たち生徒の登校を守るようにガードしていた。
報道では学校名は出ていなかったのに、SNSでは即、海津だと晒されていた。
美瑛ちゃんが言っていた通り、隠したところでバレるのは時間の問題だ。
戸谷先生が捕まったというニュースが流れた後、すぐに圭くんから連絡がきた。
例の週刊誌の編集者が、僕が持っている録音や写真を使って記事にしたいという話だった。
僕は迷うことなく断った。
もう、この話は終わった。
僕が望む終わり方ではなかったけど、僕が勝ったわけでもなかったけど。
それでも、僕は解放された。
教室に入ると、皆は戸谷先生の話しかしていなかった。
僕に対して、先生に呼び出されて何かされていなかったのかと直接聞いてくる人もいた。
僕が呼び出されているのを知っていたのに、こういう結果になった途端に興味本位で聞いてくる。
見て見ないふりは、自分が当事者にならずにすむ安易な選択だ。
僕の敵は、このクラスの中にもいたみたいだ。
「なんだかなー」
萱が不機嫌な顔で僕の席に来た。
僕も不機嫌な顔で返す。
「なんだかなーだよ、ホントに」
「……圭くんの話、断ったんだろ?」
「うん。もう僕が闘う必要はなくなったからね」
「でも、これでもまだ校長があいつを庇うようなら、柚が持っているネタを使うべきだな」
学校側の判断はまだ明確にはされてなかった。
罪を犯しても、守る価値があるのだろうか……
「それでも週刊誌には提供しないよ」
「どうして?」
「萱以外にも一緒に闘ってくれる人が出来たんだ」
「誰だよ?」
「お父さん」
「へ?」
「お父さんが、今までのことを謝ってくれた。一緒に校長に訴えるって言ってくれた。だから、僕はそれに期待してる」
萱はニンマリと笑った。
僕は話しながら、萱と萱の両親のことが気になった。
「和解できたってことか?」
「まあ、一部はね……萱は?」
「うん? 11月のディベート大会には二人とも見にくるってさ。チケット用意しろって半ば脅迫みたいな言い方されたー」
言葉のチョイスはキツめだけど、萱は嬉しさを隠そうとはしなかった。
「和解したのか?」
「和解っつうか、アメリカで兄さんに二人とも怒られたらしい。弟の頑張りを認めないなら、もう会いに来るなって言ったらしいよ」
「えー! お兄さん格好いいな」
「おー、格好いいんだよ、兄さんは」
萱が家族のことで、こんなに嬉しさを隠さずに話す姿を初めて見た。
萱はもっと認められるべきだ。
僕は本気でそう思っていた。
「まあ、兄さんからの強制って感じもあるけどさ……」
「じゃあ、今回は1位にならないとね」
「今年の夏の経験を活かさない手はないよなー。だから、お前にも感謝してる」
「え……」
教室のドアが開くと、古文の竹ノ内先生が入って来た。
「全校集会をするので体育館に行きなさい」
皆、一斉に席を立って教室を出ていく。
「校長のありがたい言い訳を聞きに行こうぜー」
「その言い方」
僕と萱は並んで教室を出た。
美瑛ちゃんから無事に家に着いたと電話があった。
僕はさっきのお父さんたちとのやり取りで、若干疲れていたけど、美瑛ちゃんの声を聞くといきなり復活していた。
「そうだった! 赤レンガとかで買えば良かったね。ミサンガしか買わなかった……」
『いいの。ミサンガを買えたことが一番嬉しかったから。学校にもしていく』
「大丈夫なの? 外せって言われない?」
『派手なものじゃないから大丈夫だよー』
僕も学校に着けているつもりでいた。
絶対に、萱に何か言われそうだけど……
僕はお父さんたちとのことを美瑛ちゃんに話した。
『味方になってくれて良かったね。やっぱり親には理解してもらいたいよね。私も9月から学校へ行くって言ったら、なんかホッとしているみたい』
「そうなんだ。嬉しかったんじゃない? あと、美大に行くって宣言もした」
『え! 美大に行くことにしたの? 絶対応援する! 柚くんなら絶対合格するよ!』
美瑛ちゃんの全てを肯定してくれる言葉が、僕の言動を後押してくれている。
僕も美瑛ちゃんにとって、そういう存在になりたいと思った。
「僕も美瑛ちゃんをずっと応援しているからね。登校して、嫌なことがあったら何でも僕に言って。物理的には離れているけど、声はいつでも届けられるから」
『……ありがとう。染みたー』
「え?」
『柚くんの言葉が胸に染みたの』
僕は、お母さんに夕飯だと呼ばれてもずっと美瑛ちゃんと話続けていた。
何時間か前には一緒にいて、散々話していたのに、それでも話は終わらなかった。
🔸🔸🔸
明日から新学期という、夏休み最後の日に突然そのニュースが流れてきた。
【東京都の私立高校の教諭・戸谷静夫容疑者(39)が不同意わいせつ罪で逮捕されました。戸谷容疑者は22時頃、路上で高校生の下半身を触ったなどとして……】
敵は土俵に上がる前に、自滅した。
🔸🔸🔸
9月1日。学校がある最寄り駅や、校舎の前にはカメラを持った人や、スマホを持った人たちが大勢集まっていた。
僕たちが海津高校の生徒だとわかると、無遠慮にスマホを顔の前に差し出して話を聞こうとする人もいた。
警備の人や、学校の先生たちが、僕たち生徒の登校を守るようにガードしていた。
報道では学校名は出ていなかったのに、SNSでは即、海津だと晒されていた。
美瑛ちゃんが言っていた通り、隠したところでバレるのは時間の問題だ。
戸谷先生が捕まったというニュースが流れた後、すぐに圭くんから連絡がきた。
例の週刊誌の編集者が、僕が持っている録音や写真を使って記事にしたいという話だった。
僕は迷うことなく断った。
もう、この話は終わった。
僕が望む終わり方ではなかったけど、僕が勝ったわけでもなかったけど。
それでも、僕は解放された。
教室に入ると、皆は戸谷先生の話しかしていなかった。
僕に対して、先生に呼び出されて何かされていなかったのかと直接聞いてくる人もいた。
僕が呼び出されているのを知っていたのに、こういう結果になった途端に興味本位で聞いてくる。
見て見ないふりは、自分が当事者にならずにすむ安易な選択だ。
僕の敵は、このクラスの中にもいたみたいだ。
「なんだかなー」
萱が不機嫌な顔で僕の席に来た。
僕も不機嫌な顔で返す。
「なんだかなーだよ、ホントに」
「……圭くんの話、断ったんだろ?」
「うん。もう僕が闘う必要はなくなったからね」
「でも、これでもまだ校長があいつを庇うようなら、柚が持っているネタを使うべきだな」
学校側の判断はまだ明確にはされてなかった。
罪を犯しても、守る価値があるのだろうか……
「それでも週刊誌には提供しないよ」
「どうして?」
「萱以外にも一緒に闘ってくれる人が出来たんだ」
「誰だよ?」
「お父さん」
「へ?」
「お父さんが、今までのことを謝ってくれた。一緒に校長に訴えるって言ってくれた。だから、僕はそれに期待してる」
萱はニンマリと笑った。
僕は話しながら、萱と萱の両親のことが気になった。
「和解できたってことか?」
「まあ、一部はね……萱は?」
「うん? 11月のディベート大会には二人とも見にくるってさ。チケット用意しろって半ば脅迫みたいな言い方されたー」
言葉のチョイスはキツめだけど、萱は嬉しさを隠そうとはしなかった。
「和解したのか?」
「和解っつうか、アメリカで兄さんに二人とも怒られたらしい。弟の頑張りを認めないなら、もう会いに来るなって言ったらしいよ」
「えー! お兄さん格好いいな」
「おー、格好いいんだよ、兄さんは」
萱が家族のことで、こんなに嬉しさを隠さずに話す姿を初めて見た。
萱はもっと認められるべきだ。
僕は本気でそう思っていた。
「まあ、兄さんからの強制って感じもあるけどさ……」
「じゃあ、今回は1位にならないとね」
「今年の夏の経験を活かさない手はないよなー。だから、お前にも感謝してる」
「え……」
教室のドアが開くと、古文の竹ノ内先生が入って来た。
「全校集会をするので体育館に行きなさい」
皆、一斉に席を立って教室を出ていく。
「校長のありがたい言い訳を聞きに行こうぜー」
「その言い方」
僕と萱は並んで教室を出た。



