「……悪かったな」
「え?」
お父さんの言葉に、耳を疑った。
僕に謝っている?
「一方的に、お前の勘違いだとお父さんたちの見解を押し付けて。お父さんは、根拠のない信頼を学校に置いていた。都内有数の進学校、東大や京大への進学率が一位、それなりに高い授業料。そういう側面でしか価値を計れなかった」
それはお母さんもだ。
二人とも、本当の姿を見ようとしなかった。
それは、学校に対しても、僕に対しても。
お父さんは、辛そうな顔をしながら話を続けた。
「だからどうして柚はそこに馴染めないのか、どうして素直にお父さんたちの話を聞かないのかと、ずっと我々の尺度でしか物事を見ていなかったみたいだな。そんなにお前が苦しんでいるのを知らなかったじゃ済まされない。申し訳なかった」
お父さんが深く頭を下げた。
僕はその姿が軽くショックだった。
謝って欲しかったわけじゃない、ただ理解して欲しかっただけ。
お母さんも、そんなお父さんの姿を見て、驚いていた。
「お父さんも、柚と一緒に校長先生に訴えるよ。自分の息子がセクハラされているのを黙って見過ごしていた罰も受ける。もうお前のお父さんに対する信頼は地に落ちているかもしれないが、それでも挽回はしたい」
お父さんの瞳は揺れていた。
涙が溜まっているようにも見えた。
そんなお父さんの顔を見て、僕は鼻の奥がツンとすると目元が熱くなった。
「理解してくれたの?」
「ああ。お父さんたちが誤っていたことも、柚が苦しんでいたことも、学校がろくでもないことも、まだ全部とは言えないが理解した」
「じゃあ、大学のことは」
「それは話が違うでしょ……昔から言ってるでしょ……」
「黙りなさい!」
お父さんがお母さんに対して、声を荒げたのを初めて見た。
お母さんは唖然としている。
「もう、我々の流儀を押し付けることは出来ないんだよ。柚が自分で答えを出したんだ。親はそれを見守るべきだ。柚、頑張りなさい」
「うん……ありがとう」
お母さんは納得できないのか、ぶつぶつと何かを言っている。
「お母さんは僕に言いたいことはないの?」
「あるわよ! 柚が苦しんでいたことを知らなくてごめんなさい。これは本当にお母さんも悪かったと思う。でもね、大学はやっぱり違うと思うのよ。絵なんかで食べていけないでしょう。おじいちゃんもそう言っていたでしょ。先人の教えは聞くべきでしょ」
「食べていけるか、いけないかは僕自身の話でしょ。食べていけないとしても、僕は違う仕事をしても絵は続ける。それに美大に入るのが反対なら、大学の授業料も自分で出す。奨学金制度を使ったっていい。僕は本気だから。『執迷不悔』だよ」
「ちゃ? な、なに言っているの柚? お父さんも美大に入るのは反対していたじゃないですか!」
「もういい加減にしなさい。柚は自分で考えて自分で行動できるんだ。それを尊重すべきだろう」
お母さんに僕を理解してもらうハードルはまだまだ高そうだ。
でも、和解はできたような気がしていた。
少なくとも、お父さんは味方になってくれる。
ずっと言い合いをしている二人を前に、僕は頬に流れた涙を指ではらった。
「え?」
お父さんの言葉に、耳を疑った。
僕に謝っている?
「一方的に、お前の勘違いだとお父さんたちの見解を押し付けて。お父さんは、根拠のない信頼を学校に置いていた。都内有数の進学校、東大や京大への進学率が一位、それなりに高い授業料。そういう側面でしか価値を計れなかった」
それはお母さんもだ。
二人とも、本当の姿を見ようとしなかった。
それは、学校に対しても、僕に対しても。
お父さんは、辛そうな顔をしながら話を続けた。
「だからどうして柚はそこに馴染めないのか、どうして素直にお父さんたちの話を聞かないのかと、ずっと我々の尺度でしか物事を見ていなかったみたいだな。そんなにお前が苦しんでいるのを知らなかったじゃ済まされない。申し訳なかった」
お父さんが深く頭を下げた。
僕はその姿が軽くショックだった。
謝って欲しかったわけじゃない、ただ理解して欲しかっただけ。
お母さんも、そんなお父さんの姿を見て、驚いていた。
「お父さんも、柚と一緒に校長先生に訴えるよ。自分の息子がセクハラされているのを黙って見過ごしていた罰も受ける。もうお前のお父さんに対する信頼は地に落ちているかもしれないが、それでも挽回はしたい」
お父さんの瞳は揺れていた。
涙が溜まっているようにも見えた。
そんなお父さんの顔を見て、僕は鼻の奥がツンとすると目元が熱くなった。
「理解してくれたの?」
「ああ。お父さんたちが誤っていたことも、柚が苦しんでいたことも、学校がろくでもないことも、まだ全部とは言えないが理解した」
「じゃあ、大学のことは」
「それは話が違うでしょ……昔から言ってるでしょ……」
「黙りなさい!」
お父さんがお母さんに対して、声を荒げたのを初めて見た。
お母さんは唖然としている。
「もう、我々の流儀を押し付けることは出来ないんだよ。柚が自分で答えを出したんだ。親はそれを見守るべきだ。柚、頑張りなさい」
「うん……ありがとう」
お母さんは納得できないのか、ぶつぶつと何かを言っている。
「お母さんは僕に言いたいことはないの?」
「あるわよ! 柚が苦しんでいたことを知らなくてごめんなさい。これは本当にお母さんも悪かったと思う。でもね、大学はやっぱり違うと思うのよ。絵なんかで食べていけないでしょう。おじいちゃんもそう言っていたでしょ。先人の教えは聞くべきでしょ」
「食べていけるか、いけないかは僕自身の話でしょ。食べていけないとしても、僕は違う仕事をしても絵は続ける。それに美大に入るのが反対なら、大学の授業料も自分で出す。奨学金制度を使ったっていい。僕は本気だから。『執迷不悔』だよ」
「ちゃ? な、なに言っているの柚? お父さんも美大に入るのは反対していたじゃないですか!」
「もういい加減にしなさい。柚は自分で考えて自分で行動できるんだ。それを尊重すべきだろう」
お母さんに僕を理解してもらうハードルはまだまだ高そうだ。
でも、和解はできたような気がしていた。
少なくとも、お父さんは味方になってくれる。
ずっと言い合いをしている二人を前に、僕は頬に流れた涙を指ではらった。



