翌朝、横浜駅の改札前で美瑛ちゃんと待ち合わせした。
僕は改札から出ると、既に美瑛ちゃんは立っていて、誰だか知らない大人に声を掛けられていた。
「美瑛ちゃん!」
僕は名前を呼びながら走っていくと、美瑛ちゃんも眉間に皺を寄せたまま僕の元へ駆け寄ってきた。
「大丈夫?」
「うん。なんか、こんなの渡された」
美瑛ちゃんの手の中には会社の名前が書いてある名刺があった。
「スカウト?」
「なんかそうみたいだった。幾つーとか、事務所入ってますかーとか。ビックリして大声上げようと思ったら、柚くんに呼ばれた」
芸能事務所だろうか?
美瑛ちゃんはその名刺をくしゃくしゃに握りつぶすと、近くにあったゴミ箱に捨てた。
スカウトされてもおかしくないほど、今日も可愛かった。
オーバーサイズの白いTシャツに、ハーフパンツ。
髪の毛はポニーテールにしていた。
普通のスタイルなのに、キラキラ輝いて見えるのは僕の贔屓目じゃない。
「やっぱりスゴイね、都会って。私みたいな子でも声掛けられるんだね」
「美瑛ちゃんは、自分の可愛さを過小評価し過ぎだよ!」
「そっかな……。でも、あの人私の左側を見てなかったよ。っていうか、あえて見ないようにしていたみたい」
美瑛ちゃんのその言葉に胸が少し苦しくなった。
美瑛ちゃんの声のトーンも言い方も、特に変わってはいないけど、他人が何を見ているかにはやっぱり敏感だった。
それでも、キャップも被らずに隠すことなく、自分自身を見せている美瑛ちゃんの強さが好きだ。
「ねえ、今日ペアルックみたいじゃない?」
「え……そうだね」
いきなり、話題が変わった。
確かに、申し合わせたわけじゃないけど、僕も今日は白Tを着ていた。
しかも、少しオーバーサイズだったりする。
美瑛ちゃんは嬉しそうに笑うと、僕と手を繋いだ。
「デイバックはどうしたの?」
「駅のロッカーに入れた。あれ、重くて」
「僕が持ってあげてようと思ってたけど」
「ホント? じゃあ、出してこようかな~」
「え! もう入れてあるならそのままでいいんじゃないかな……」
「あはっ。焦ったでしょ!」
早速、からかわれた。
サコッシュを斜め掛けにした美瑛ちゃんは身軽そうだった。
「まず、どこ行くの?」
「僕に付いてきて!」
歩きながら、美瑛ちゃんはおばさんの家の快適さと、高校を卒業したら東京の調理師専門学校へ行くために、横浜に住もうかと思っている話をしてくれた。
「横浜ならすぐに会えるね!」
「柚くんが住んでいる町から遠くないの?」
「うん。一つの路線で来られるよ」
十分も歩くと、目的地に着いた。
「え? プラネタリウム?」
「そう。涼しいし、キレイだし、静かだし。どうかな」
「いい! すっごく良い!」
まずは作戦成功。
ワクワクしているように見える美瑛ちゃんのリアクションに僕は大満足だった。
宇宙空間に入ったような、青白い灯りの中を進む施設の中は幻想的だった。
美瑛ちゃんは「わー」とか「キレイ―」とか小さな声を出しながら、その都度僕の腕を両手で掴んだりして、その興奮状態が僕にも伝わってきた。
シアターの中にはそれほどお客さんはいなかった。
僕たちは前方の席に座った。
ゆったりとした広さの座席は、リクライニングされている。
「プラネタリウムって行ったことある?」
「小学校の時に学年で見に行った。スゴイ迫力だったけど、私の友達は寝てた」
「マジで」
「それ以来だよ。しかもこんなにおしゃれなプラネタリウムは初めて」
話している間に、上映時間になった。
約40分。僕はすっかり魅了されて、今自分がどこにいるのかさえわからなくなるくらい、その世界に没入していた。
音楽と映像のコラボレーションに、ゾクゾクして静かに興奮していた。
隣に座っていた美瑛ちゃんは、やっぱり小さな声を出しながら、僕の腕をギュッと掴んだりして興奮しているのがわかった。
「……すごかったね。信じられないぐらいキレイだった」
「うん。自分が宇宙の中にいるような気になっちゃった」
「ホント、ホント! 今ここはどこだろうって、何回も柚くんの腕触っちゃった」
「そうそう。美瑛ちゃんが僕の腕をギュッってする度に、ここはプラネタリウムなんだって意識を戻されたよ」
二人とも興奮して、話が止まらなかった。
同じ場面に感動していたり、同じ感想を抱いたりと、僕と美瑛ちゃんの感性は似ているみたいだ。
「塚さんの絵みたいだった……」
「美瑛ちゃんもそう思った? 塚田先生の描くあの青いような黒いような独特な色の深さは、宇宙の空間と同じように見えた。先生が描く絵は実際には写実的なのに、色の構成で架空なものに見えるんだよね……スゴイよね」
美瑛ちゃんは、歩きながら僕の顔を見ている。
「柚くんは塚さんの絵が大好きなんだね」
「うん。人間的にも大好きだけど、先生の描く絵は僕が到達したい目標でもある。才能にひれ伏すって言い方はオーバーかもだけど、それぐらい尊敬してる」
「塚さんは、学校の先生は辞めても絵を描くのは絶対に止めないと思う。だって、こんなに熱いファンが二人もいるんだよ?」
「そうだよ、農夫さんになってもいいけど、絶対絵は描いてもらわないと」
塚田先生が教師という職から解放されたなら、また自由に絵を描いて欲しいと、少し前向きな気持ちに変わった。
「また、来たいなー」
「うん。他の作品も見たいからまた行こうよ」
「ホント? 約束ね!」
「うん。約束」
美瑛ちゃんと会う約束がまたひとつ出来た。
僕は美瑛ちゃんのキレイな横顔を見ながら、あと二時間で離れ離れになることが信じられなかった。
僕は改札から出ると、既に美瑛ちゃんは立っていて、誰だか知らない大人に声を掛けられていた。
「美瑛ちゃん!」
僕は名前を呼びながら走っていくと、美瑛ちゃんも眉間に皺を寄せたまま僕の元へ駆け寄ってきた。
「大丈夫?」
「うん。なんか、こんなの渡された」
美瑛ちゃんの手の中には会社の名前が書いてある名刺があった。
「スカウト?」
「なんかそうみたいだった。幾つーとか、事務所入ってますかーとか。ビックリして大声上げようと思ったら、柚くんに呼ばれた」
芸能事務所だろうか?
美瑛ちゃんはその名刺をくしゃくしゃに握りつぶすと、近くにあったゴミ箱に捨てた。
スカウトされてもおかしくないほど、今日も可愛かった。
オーバーサイズの白いTシャツに、ハーフパンツ。
髪の毛はポニーテールにしていた。
普通のスタイルなのに、キラキラ輝いて見えるのは僕の贔屓目じゃない。
「やっぱりスゴイね、都会って。私みたいな子でも声掛けられるんだね」
「美瑛ちゃんは、自分の可愛さを過小評価し過ぎだよ!」
「そっかな……。でも、あの人私の左側を見てなかったよ。っていうか、あえて見ないようにしていたみたい」
美瑛ちゃんのその言葉に胸が少し苦しくなった。
美瑛ちゃんの声のトーンも言い方も、特に変わってはいないけど、他人が何を見ているかにはやっぱり敏感だった。
それでも、キャップも被らずに隠すことなく、自分自身を見せている美瑛ちゃんの強さが好きだ。
「ねえ、今日ペアルックみたいじゃない?」
「え……そうだね」
いきなり、話題が変わった。
確かに、申し合わせたわけじゃないけど、僕も今日は白Tを着ていた。
しかも、少しオーバーサイズだったりする。
美瑛ちゃんは嬉しそうに笑うと、僕と手を繋いだ。
「デイバックはどうしたの?」
「駅のロッカーに入れた。あれ、重くて」
「僕が持ってあげてようと思ってたけど」
「ホント? じゃあ、出してこようかな~」
「え! もう入れてあるならそのままでいいんじゃないかな……」
「あはっ。焦ったでしょ!」
早速、からかわれた。
サコッシュを斜め掛けにした美瑛ちゃんは身軽そうだった。
「まず、どこ行くの?」
「僕に付いてきて!」
歩きながら、美瑛ちゃんはおばさんの家の快適さと、高校を卒業したら東京の調理師専門学校へ行くために、横浜に住もうかと思っている話をしてくれた。
「横浜ならすぐに会えるね!」
「柚くんが住んでいる町から遠くないの?」
「うん。一つの路線で来られるよ」
十分も歩くと、目的地に着いた。
「え? プラネタリウム?」
「そう。涼しいし、キレイだし、静かだし。どうかな」
「いい! すっごく良い!」
まずは作戦成功。
ワクワクしているように見える美瑛ちゃんのリアクションに僕は大満足だった。
宇宙空間に入ったような、青白い灯りの中を進む施設の中は幻想的だった。
美瑛ちゃんは「わー」とか「キレイ―」とか小さな声を出しながら、その都度僕の腕を両手で掴んだりして、その興奮状態が僕にも伝わってきた。
シアターの中にはそれほどお客さんはいなかった。
僕たちは前方の席に座った。
ゆったりとした広さの座席は、リクライニングされている。
「プラネタリウムって行ったことある?」
「小学校の時に学年で見に行った。スゴイ迫力だったけど、私の友達は寝てた」
「マジで」
「それ以来だよ。しかもこんなにおしゃれなプラネタリウムは初めて」
話している間に、上映時間になった。
約40分。僕はすっかり魅了されて、今自分がどこにいるのかさえわからなくなるくらい、その世界に没入していた。
音楽と映像のコラボレーションに、ゾクゾクして静かに興奮していた。
隣に座っていた美瑛ちゃんは、やっぱり小さな声を出しながら、僕の腕をギュッと掴んだりして興奮しているのがわかった。
「……すごかったね。信じられないぐらいキレイだった」
「うん。自分が宇宙の中にいるような気になっちゃった」
「ホント、ホント! 今ここはどこだろうって、何回も柚くんの腕触っちゃった」
「そうそう。美瑛ちゃんが僕の腕をギュッってする度に、ここはプラネタリウムなんだって意識を戻されたよ」
二人とも興奮して、話が止まらなかった。
同じ場面に感動していたり、同じ感想を抱いたりと、僕と美瑛ちゃんの感性は似ているみたいだ。
「塚さんの絵みたいだった……」
「美瑛ちゃんもそう思った? 塚田先生の描くあの青いような黒いような独特な色の深さは、宇宙の空間と同じように見えた。先生が描く絵は実際には写実的なのに、色の構成で架空なものに見えるんだよね……スゴイよね」
美瑛ちゃんは、歩きながら僕の顔を見ている。
「柚くんは塚さんの絵が大好きなんだね」
「うん。人間的にも大好きだけど、先生の描く絵は僕が到達したい目標でもある。才能にひれ伏すって言い方はオーバーかもだけど、それぐらい尊敬してる」
「塚さんは、学校の先生は辞めても絵を描くのは絶対に止めないと思う。だって、こんなに熱いファンが二人もいるんだよ?」
「そうだよ、農夫さんになってもいいけど、絶対絵は描いてもらわないと」
塚田先生が教師という職から解放されたなら、また自由に絵を描いて欲しいと、少し前向きな気持ちに変わった。
「また、来たいなー」
「うん。他の作品も見たいからまた行こうよ」
「ホント? 約束ね!」
「うん。約束」
美瑛ちゃんと会う約束がまたひとつ出来た。
僕は美瑛ちゃんのキレイな横顔を見ながら、あと二時間で離れ離れになることが信じられなかった。



