「でも、これはエスケープじゃない。俺なりに決着をつけたということだ。ただ、島谷や萱を失望させたのなら、申し訳ない」
「……闘う前に白旗を上げたわけではないということですか?」
萱が俯いたまま、言葉を吐いた。
「主導権を握っているのはあくまでも俺だ。俺が『辞める』という選択をしたまでだ」
「……でも、島谷くんたちにとっては辛い選択のはずだよ」
「そういう、よしかずもずっと避けていた香港に『行く』という選択をしただろ。同じだよ」
塚田先生は、いつものような飄々とした受け答えをした。
ずっと知りたいと思っていた先生の『正解』を知ることが出来た。
でも、それを受け止める、僕たちとの温度差を嫌というほど感じてしまった。
気まずい空気のまま、お店を出た。
塚田先生が奢ってくれたことに対して、僕と萱、美瑛ちゃんはお礼を言った。
塚田先生との縁はこれで切れてしまうのだろうか……
僕はそれが無性に寂しかった。
「塚田先生が、先生を辞めても僕はまた会いたいです」
「俺も、生徒じゃなくなったとしても、先生とよしかずさんの所へ行きたいです」
「おお、先生と生徒の関係じゃなくなったらもっと気軽に俺たちと交流できるだろ。いつでも来いよ、俺たちはどこへも行かないから」
先生たちと僕たちとの間を繋ぐ糸は、まだ切れることはなくそこにあった。
挨拶をして、お店の前で別れた。
僕は横浜のおばさんの家に行く美瑛ちゃんを送ることにした。
「ここは、最後まで送ってやれよ。東京にも横浜にも不慣れなんだし、せっかく二人きりになるんだからな」
萱のおせっかいをウルさく思いながらも、僕は美瑛ちゃんと離れたくなかった。
上野から横浜までは30分。
僕たちは電車に乗り込むと、二人並んで座った。
「大丈夫?」
「うん? なにが?」
「塚さんのこと……」
「うん。ショックだけど、でも先生が決めたことだから」
美瑛ちゃんは僕と手を繋いだ。
電車の中で、他の人に見られるのが恥ずかしいと思ったけど、でも美瑛ちゃんと手を繋いでいると安心している僕がいた。
「……柚くんはどうするの? 塚田先生という味方が学校にいなくなっちゃって」
「どうしよう。先生のあんな学校捨ててやるって言葉はキツいと思ったけど、その通りだなって納得もしちゃった。でも、高校生である僕はそんな簡単には捨てられないよ」
「そうだよね……大人は選択肢があるけど、私たちは難しいよね。でも、柚くんの選択を私は支持するよ。柚くんはもう何も隠さないでしょ」
「え……」
美瑛ちゃんの言葉は僕を強くする。
僕が言って欲しい言葉を、さりげなくかけてくれる。
どうして、こんなに気持ちが通じるんだろう……
僕は繋いだ指にギュッと力を込めた。
「私ね、高校を卒業したらパティシエになるために専門学校に行くことに決めたの」
「ホントに? スゴい! 美瑛ちゃんはお菓子作りを極めるんだね!」
「うん。柚くんたちが美味しい、美味しいって言ってくれたのが自信になった。好きなことを極めたいなって」
好きなことを極める……僕の心に何かが刺さった。
「……だから、柚くんも絵が好きなら、塚さんがいなくなっても絵を描くことは止めないでね。ファンの私が言うことは絶対だよ!」
「……うん。ありがと……」
僕は刺さった何かを、ゆっくりと掘り下げていこうと思った。
それは、この先僕が決断すべき何かのはずだから。
🔸🔸🔸
横浜駅に着き、一緒に改札を出た。
おばさんと待ち合わせをしたという、近くの公園まで一緒に歩いた。
時間は9時を回っている。
ずっと手を繋いでいた。
「明日は、朝10時に横浜駅のさっきの改札のところでね」
「わかった。帰りの電車は何時だっけ?」
「特急は2時ぐらい」
明日は、美瑛ちゃんと帰りの電車の時間までデートをする。
横浜で何をしようかずっと考えていた。
「明日が楽しみ」
「うん。僕も」
「あ、おばさんがいた。送ってくれてありがとう」
「気をつけてね」
二人とも繋いだ手を離そうとしなくて、笑ってしまった。
僕が諦めて手を離すと、美瑛ちゃんがバイバイと手を振って別れた。
明日も会えるのに、もう僕はどうしようもなく寂しくなっていた。
「……闘う前に白旗を上げたわけではないということですか?」
萱が俯いたまま、言葉を吐いた。
「主導権を握っているのはあくまでも俺だ。俺が『辞める』という選択をしたまでだ」
「……でも、島谷くんたちにとっては辛い選択のはずだよ」
「そういう、よしかずもずっと避けていた香港に『行く』という選択をしただろ。同じだよ」
塚田先生は、いつものような飄々とした受け答えをした。
ずっと知りたいと思っていた先生の『正解』を知ることが出来た。
でも、それを受け止める、僕たちとの温度差を嫌というほど感じてしまった。
気まずい空気のまま、お店を出た。
塚田先生が奢ってくれたことに対して、僕と萱、美瑛ちゃんはお礼を言った。
塚田先生との縁はこれで切れてしまうのだろうか……
僕はそれが無性に寂しかった。
「塚田先生が、先生を辞めても僕はまた会いたいです」
「俺も、生徒じゃなくなったとしても、先生とよしかずさんの所へ行きたいです」
「おお、先生と生徒の関係じゃなくなったらもっと気軽に俺たちと交流できるだろ。いつでも来いよ、俺たちはどこへも行かないから」
先生たちと僕たちとの間を繋ぐ糸は、まだ切れることはなくそこにあった。
挨拶をして、お店の前で別れた。
僕は横浜のおばさんの家に行く美瑛ちゃんを送ることにした。
「ここは、最後まで送ってやれよ。東京にも横浜にも不慣れなんだし、せっかく二人きりになるんだからな」
萱のおせっかいをウルさく思いながらも、僕は美瑛ちゃんと離れたくなかった。
上野から横浜までは30分。
僕たちは電車に乗り込むと、二人並んで座った。
「大丈夫?」
「うん? なにが?」
「塚さんのこと……」
「うん。ショックだけど、でも先生が決めたことだから」
美瑛ちゃんは僕と手を繋いだ。
電車の中で、他の人に見られるのが恥ずかしいと思ったけど、でも美瑛ちゃんと手を繋いでいると安心している僕がいた。
「……柚くんはどうするの? 塚田先生という味方が学校にいなくなっちゃって」
「どうしよう。先生のあんな学校捨ててやるって言葉はキツいと思ったけど、その通りだなって納得もしちゃった。でも、高校生である僕はそんな簡単には捨てられないよ」
「そうだよね……大人は選択肢があるけど、私たちは難しいよね。でも、柚くんの選択を私は支持するよ。柚くんはもう何も隠さないでしょ」
「え……」
美瑛ちゃんの言葉は僕を強くする。
僕が言って欲しい言葉を、さりげなくかけてくれる。
どうして、こんなに気持ちが通じるんだろう……
僕は繋いだ指にギュッと力を込めた。
「私ね、高校を卒業したらパティシエになるために専門学校に行くことに決めたの」
「ホントに? スゴい! 美瑛ちゃんはお菓子作りを極めるんだね!」
「うん。柚くんたちが美味しい、美味しいって言ってくれたのが自信になった。好きなことを極めたいなって」
好きなことを極める……僕の心に何かが刺さった。
「……だから、柚くんも絵が好きなら、塚さんがいなくなっても絵を描くことは止めないでね。ファンの私が言うことは絶対だよ!」
「……うん。ありがと……」
僕は刺さった何かを、ゆっくりと掘り下げていこうと思った。
それは、この先僕が決断すべき何かのはずだから。
🔸🔸🔸
横浜駅に着き、一緒に改札を出た。
おばさんと待ち合わせをしたという、近くの公園まで一緒に歩いた。
時間は9時を回っている。
ずっと手を繋いでいた。
「明日は、朝10時に横浜駅のさっきの改札のところでね」
「わかった。帰りの電車は何時だっけ?」
「特急は2時ぐらい」
明日は、美瑛ちゃんと帰りの電車の時間までデートをする。
横浜で何をしようかずっと考えていた。
「明日が楽しみ」
「うん。僕も」
「あ、おばさんがいた。送ってくれてありがとう」
「気をつけてね」
二人とも繋いだ手を離そうとしなくて、笑ってしまった。
僕が諦めて手を離すと、美瑛ちゃんがバイバイと手を振って別れた。
明日も会えるのに、もう僕はどうしようもなく寂しくなっていた。



