「で、島谷くんはどうしたいの?」
圭くんは顔を上げて僕を見るともっともな質問をした。
隣に座っている了くんも、僕をじっと見ている。
「塚田先生の復職と、戸谷先生に学校を辞めてほしいです」
「……ハードル高いね。まずは、二つを切り分ける必要があるね。塚田先生を休職に追い込んだ理由が何なのか。戸谷がセクハラをしているという事実があるのに辞めない理由は何なのか」
「戸谷が柚や校長の前で謝罪をしたということは、セクハラを認めたことにはならないんですかね?」
「でも、その謝罪を島谷くんの親御さんは受け入れてるよね。もうその時点で、議論の余地は無いよ」
圭くんが、冷静に分析を始めた。
僕はずっと感情で動いていたけど、第三者の客観的な視点で物事が整理されることで、正解が導かれるかもしれないと期待していた。
「ひとつ確認だけど」
「はい……」
「塚田先生は本当に復職したいのかな?」
「え……」
萱と顔を見合わせた。
よしかずさんは『彼は先生職が大好きなんだよ』と言っていたし、エスケープしているということは、戻る前提だと思っていた。
でも、確かに僕たちが何度も塚田先生に問いかけても、明確な答えは返って来ていない。
これは、僕や萱、よしかずさんの勝手な願望なのか?
「でも、退職じゃなくて休職しているということは、戻りたいという思いはあるんじゃないんですか?」
「うーん、どうだろうね。様子見で休職にしておいて、時期が来たら辞めるつもりかもしれないし。そもそも、そんな個人的なことで休職に追い込むような職場に戻りたいと思う?」
圭くんの言葉が強く胸に響いた。
塚田先生は僕たち生徒を見捨てるはずがない、休職に追い込まれている塚田先生は不幸だという思い込みで僕や萱は動いていただけかもしれない。
萱も口をつぐんで、俯いた。
「島谷くんや萱くんの感情としては、あんなに生徒思いの先生が不当な扱いを受けているのが許せない、だよね。でも、ここは感情と行動を分けて考える必要がありそうだよ。君たちが動いて塚田先生が復職できたとしても、それで塚田先生を取り巻く学校での環境が良くなるとは限らないよね。前よりも余計に肩身が狭い思いをするかもしれない。それに、君たちはあと一年ちょっとで卒業していく。果たして、塚田先生の味方はいるのかな」
僕はわなわなと震えていた。
圭くんが冷静に話せば、話すほど胸にずしんと重い鉛が積み上がっていく。
僕は圭くんの分析を否定したいのに、片やその分析に納得していたりもする。
胸に積まれた鉛は、僕の浅はかな感情論だった。
「……でも、圭くんが言っていることが正解とは限らないですよね」
萱が絞り出すような声を出した。
「そうだね。僕の一方的な推測に過ぎない。だから、多角的に考えていく必要があると思うよ。感情論で突っ走るのも、推測だけで断定するのも、危ういよね」
僕は、すっかり意気消沈していた。
結局、僕らがどうあがいても正解なんて導き出せないじゃないか……
「島谷くんはショックを受けてる?」
「は? いえ、圭くんの分析に打ちのめされました」
「だから、それが正解じゃないよ、萱くんが言った通り。でもさ、戸谷については物的証拠を集めれば、学校側も有耶無耶には出来なさそうだけどね」
物的証拠……
「会話を録音した音声はあります」
「そうなんだ! それは使えるかもね。今、聞ける?」
僕はスマホを取り出した。
カフェの中にいる人たちには聞かせたくなかったので、圭くんは耳に当てて聞いた。
「うわー、当時のことを思いだして鳥肌が立った。あいつも策士だね。勉強の会話に終始してるから、一見生徒と先生の普通の会話のように思わせておいて、よーく聞くとセクハラしてるっていうね」
「僕も聞きたい!」
圭くんがスマホを、弟の了くんに渡した。
聞いているそばから苦い表情を浮かべると、僕の顔をじっと見た。
「こんなことを担任から言われてるのか? 毎日? 勉強どころじゃないよ!」
「うん。サイテーだよね」
「兄ちゃん、絶対助けようよ! 最低な教師を撲滅しよう!」
急に熱くなっている了くんを見て、僕は嬉しくなってしまった。
「圭くん、大学で忙しいと思いますけど僕たちの仲間になってください!」
僕は深く考える前に、口に出していた。
萱も驚いたような顔で僕を見ている。
今までだったら、僕が言う前に萱がそう言っていたであろう言葉を口にしていたから。
「俺からもお願いします。圭くんの分析力が僕らの糧になります!」
「兄ちゃん、やろう。僕も仲間に入れて」
僕も萱も頷いた。
圭くんは、僕たちの顔を見ると頬を緩めた。
「面白いことになりそうだなー。後輩から頼まれたら断る理由はないよね。やれるところまでやろう!」
新たな展開に、胸に積まれた鉛が少し軽くなった気がした。
圭くんは顔を上げて僕を見るともっともな質問をした。
隣に座っている了くんも、僕をじっと見ている。
「塚田先生の復職と、戸谷先生に学校を辞めてほしいです」
「……ハードル高いね。まずは、二つを切り分ける必要があるね。塚田先生を休職に追い込んだ理由が何なのか。戸谷がセクハラをしているという事実があるのに辞めない理由は何なのか」
「戸谷が柚や校長の前で謝罪をしたということは、セクハラを認めたことにはならないんですかね?」
「でも、その謝罪を島谷くんの親御さんは受け入れてるよね。もうその時点で、議論の余地は無いよ」
圭くんが、冷静に分析を始めた。
僕はずっと感情で動いていたけど、第三者の客観的な視点で物事が整理されることで、正解が導かれるかもしれないと期待していた。
「ひとつ確認だけど」
「はい……」
「塚田先生は本当に復職したいのかな?」
「え……」
萱と顔を見合わせた。
よしかずさんは『彼は先生職が大好きなんだよ』と言っていたし、エスケープしているということは、戻る前提だと思っていた。
でも、確かに僕たちが何度も塚田先生に問いかけても、明確な答えは返って来ていない。
これは、僕や萱、よしかずさんの勝手な願望なのか?
「でも、退職じゃなくて休職しているということは、戻りたいという思いはあるんじゃないんですか?」
「うーん、どうだろうね。様子見で休職にしておいて、時期が来たら辞めるつもりかもしれないし。そもそも、そんな個人的なことで休職に追い込むような職場に戻りたいと思う?」
圭くんの言葉が強く胸に響いた。
塚田先生は僕たち生徒を見捨てるはずがない、休職に追い込まれている塚田先生は不幸だという思い込みで僕や萱は動いていただけかもしれない。
萱も口をつぐんで、俯いた。
「島谷くんや萱くんの感情としては、あんなに生徒思いの先生が不当な扱いを受けているのが許せない、だよね。でも、ここは感情と行動を分けて考える必要がありそうだよ。君たちが動いて塚田先生が復職できたとしても、それで塚田先生を取り巻く学校での環境が良くなるとは限らないよね。前よりも余計に肩身が狭い思いをするかもしれない。それに、君たちはあと一年ちょっとで卒業していく。果たして、塚田先生の味方はいるのかな」
僕はわなわなと震えていた。
圭くんが冷静に話せば、話すほど胸にずしんと重い鉛が積み上がっていく。
僕は圭くんの分析を否定したいのに、片やその分析に納得していたりもする。
胸に積まれた鉛は、僕の浅はかな感情論だった。
「……でも、圭くんが言っていることが正解とは限らないですよね」
萱が絞り出すような声を出した。
「そうだね。僕の一方的な推測に過ぎない。だから、多角的に考えていく必要があると思うよ。感情論で突っ走るのも、推測だけで断定するのも、危ういよね」
僕は、すっかり意気消沈していた。
結局、僕らがどうあがいても正解なんて導き出せないじゃないか……
「島谷くんはショックを受けてる?」
「は? いえ、圭くんの分析に打ちのめされました」
「だから、それが正解じゃないよ、萱くんが言った通り。でもさ、戸谷については物的証拠を集めれば、学校側も有耶無耶には出来なさそうだけどね」
物的証拠……
「会話を録音した音声はあります」
「そうなんだ! それは使えるかもね。今、聞ける?」
僕はスマホを取り出した。
カフェの中にいる人たちには聞かせたくなかったので、圭くんは耳に当てて聞いた。
「うわー、当時のことを思いだして鳥肌が立った。あいつも策士だね。勉強の会話に終始してるから、一見生徒と先生の普通の会話のように思わせておいて、よーく聞くとセクハラしてるっていうね」
「僕も聞きたい!」
圭くんがスマホを、弟の了くんに渡した。
聞いているそばから苦い表情を浮かべると、僕の顔をじっと見た。
「こんなことを担任から言われてるのか? 毎日? 勉強どころじゃないよ!」
「うん。サイテーだよね」
「兄ちゃん、絶対助けようよ! 最低な教師を撲滅しよう!」
急に熱くなっている了くんを見て、僕は嬉しくなってしまった。
「圭くん、大学で忙しいと思いますけど僕たちの仲間になってください!」
僕は深く考える前に、口に出していた。
萱も驚いたような顔で僕を見ている。
今までだったら、僕が言う前に萱がそう言っていたであろう言葉を口にしていたから。
「俺からもお願いします。圭くんの分析力が僕らの糧になります!」
「兄ちゃん、やろう。僕も仲間に入れて」
僕も萱も頷いた。
圭くんは、僕たちの顔を見ると頬を緩めた。
「面白いことになりそうだなー。後輩から頼まれたら断る理由はないよね。やれるところまでやろう!」
新たな展開に、胸に積まれた鉛が少し軽くなった気がした。



