『戸谷ってまだいるんだー。あいつ、最悪だよな。なんかトラブル起こしてない? 兄貴が高三の時にあいつが担任で、嫌なことをされたらしい。親は俺も海津に行けって言ったけど、兄貴に絶対止めろって言われて大三附属を受けたんだ。あいつ、かなりヤバいらしいから、萱くんも気をつけたほうがいいよ』
萱が、清水川くんの弟から聞いた話。
塚田先生が言っていた卒業生は。この清水川くんで間違いなさそうだった。
「塚田も外の人から聞いていたってことは、やっぱり噂になるほどのことはしてるんだろうなー。でも、なんでそれが処分されないんだ?」
「そこだよ。だから、やっぱり校長先生が弱みを握られてるんじゃないのかな」
「それか、戸谷の家が多額な寄付を未だに学校にしてるとかかな。私立ではあるあるだろ」
卒業生の被害者はわかった。
でも、塚田先生が言っていたように学校側に何もアクションを起こしてないなら、今更どうしようもない気もしていた。
萱はタブレットで何かを検索していた。
僕はもう少しで手繰り寄せられそうだったのに、一旦放置せざるを得ない状況になったことが悔しかった。
「……清水川くんに直接聞いてみるのはありだよな」
「え? そんなことできるのか? 過去のことをほじくり返されたくないんじゃない?」
「やらずに諦めたくはないなー。当たって砕けろだろ」
萱の自信は僕に勇気を与えてくれる。
言いたいことは言うと決めたはずなのに、躊躇している場合じゃなかった。
萱はスマホで誰かに電話を掛けた。
「もしもし、萱だけど。この間話してくれた戸谷の件。お兄さんに直接話が聞けないかな。うん、かなり重要案件。お、サンキュー!」
萱が晴れやかな顔を僕に向けた。
「清水川くんに連絡とってくれるってさ。第三者の経験談はかなりこっちが有利に働くかもな」
「さすが、萱!」
「もっと言え。俺がいて良かっただろ!」
僕はずっと萱に助けられている。
家出した時も、お母さんに嘘を吐いた時も、塚田先生を守ろうと言った時も。
僕が萱のために何かをしてあげたことはない。
「萱……」
「ん?」
「……萱が困ったり、どうしようもない気持ちになったら、僕に言って。僕が萱を全力で助けるから」
萱は真顔になると、僕の顔を見た。
でも次の瞬間、片方の口角だけを上げて目を細めた。
「おお。その時がきたら全力で助けろ」
そう言うと、両方の口角を上げて満足そうに笑った。
🔸🔸🔸
萱と昼マックをしていると、萱のスマホが鳴った。
「早っ! 清水川くんからだ!」
すかさず、萱はスマホを耳にあてた。
僕はポテトを口に入れながら、じっと耳を傾けた。
「え、マジで! うん大丈夫。ありがとう。すごく助かる。じゃあ、4時に」
「なに? なんだって?」
「今日の4時にお兄さんが会ってくれるってさ! 品川まで行くぞ」
「品川?」
「気持ちいいぐらい、サクサク進んで行くな―」
効率重視の萱は嬉しそうにハンバーガーを齧った。
僕は正直、事の進みが早過ぎてまだ全然整理ができてなかった。
僕以外の被害者に会って、何を聞こうか、何を話そうか、頭の中で筋立てする必要があった。
でも、これが始まりの第一歩になるはずだ。
「俺は、現役の東大生に会えるってことが嬉しかったりするなー」
萱はポテトをバニラシェイクにつけると頬張った。
僕も真似てバニラシェイクにポテトをディップのようにつけて口に入れた。
「うまっ!」
「美味いだろ。絶対フライドポテトにはバニラシェイクなんだよ。これがチョコレートシェイクだと、ポテトの塩味がカカオの苦みで台無しになるからダメなんだよなー」
なんでも理屈をつけて、フライドポテトの食べ方までも熱く語る萱が面白かった。
本当に一緒にいて飽きない奴。
「東大生には整理して、論理的に話を持っていかないとイライラさせちゃうよね」
「……そこまで考えなくてよくね? これは理性よりも感情が大事なんじゃないの? 不快だって生理現象は理屈じゃないだろ」
「うん、確かに」
「まあ、清水川くんは冷静に話しそうだけど、柚はその感性のまま訴えればいいじゃん。答えるか答えないかはあっちの勝手だけどさ」
萱は僕の気持ちを整理してくれた。
余計なことを考えることは止めた。
僕の気持ちは固まった。
萱が、清水川くんの弟から聞いた話。
塚田先生が言っていた卒業生は。この清水川くんで間違いなさそうだった。
「塚田も外の人から聞いていたってことは、やっぱり噂になるほどのことはしてるんだろうなー。でも、なんでそれが処分されないんだ?」
「そこだよ。だから、やっぱり校長先生が弱みを握られてるんじゃないのかな」
「それか、戸谷の家が多額な寄付を未だに学校にしてるとかかな。私立ではあるあるだろ」
卒業生の被害者はわかった。
でも、塚田先生が言っていたように学校側に何もアクションを起こしてないなら、今更どうしようもない気もしていた。
萱はタブレットで何かを検索していた。
僕はもう少しで手繰り寄せられそうだったのに、一旦放置せざるを得ない状況になったことが悔しかった。
「……清水川くんに直接聞いてみるのはありだよな」
「え? そんなことできるのか? 過去のことをほじくり返されたくないんじゃない?」
「やらずに諦めたくはないなー。当たって砕けろだろ」
萱の自信は僕に勇気を与えてくれる。
言いたいことは言うと決めたはずなのに、躊躇している場合じゃなかった。
萱はスマホで誰かに電話を掛けた。
「もしもし、萱だけど。この間話してくれた戸谷の件。お兄さんに直接話が聞けないかな。うん、かなり重要案件。お、サンキュー!」
萱が晴れやかな顔を僕に向けた。
「清水川くんに連絡とってくれるってさ。第三者の経験談はかなりこっちが有利に働くかもな」
「さすが、萱!」
「もっと言え。俺がいて良かっただろ!」
僕はずっと萱に助けられている。
家出した時も、お母さんに嘘を吐いた時も、塚田先生を守ろうと言った時も。
僕が萱のために何かをしてあげたことはない。
「萱……」
「ん?」
「……萱が困ったり、どうしようもない気持ちになったら、僕に言って。僕が萱を全力で助けるから」
萱は真顔になると、僕の顔を見た。
でも次の瞬間、片方の口角だけを上げて目を細めた。
「おお。その時がきたら全力で助けろ」
そう言うと、両方の口角を上げて満足そうに笑った。
🔸🔸🔸
萱と昼マックをしていると、萱のスマホが鳴った。
「早っ! 清水川くんからだ!」
すかさず、萱はスマホを耳にあてた。
僕はポテトを口に入れながら、じっと耳を傾けた。
「え、マジで! うん大丈夫。ありがとう。すごく助かる。じゃあ、4時に」
「なに? なんだって?」
「今日の4時にお兄さんが会ってくれるってさ! 品川まで行くぞ」
「品川?」
「気持ちいいぐらい、サクサク進んで行くな―」
効率重視の萱は嬉しそうにハンバーガーを齧った。
僕は正直、事の進みが早過ぎてまだ全然整理ができてなかった。
僕以外の被害者に会って、何を聞こうか、何を話そうか、頭の中で筋立てする必要があった。
でも、これが始まりの第一歩になるはずだ。
「俺は、現役の東大生に会えるってことが嬉しかったりするなー」
萱はポテトをバニラシェイクにつけると頬張った。
僕も真似てバニラシェイクにポテトをディップのようにつけて口に入れた。
「うまっ!」
「美味いだろ。絶対フライドポテトにはバニラシェイクなんだよ。これがチョコレートシェイクだと、ポテトの塩味がカカオの苦みで台無しになるからダメなんだよなー」
なんでも理屈をつけて、フライドポテトの食べ方までも熱く語る萱が面白かった。
本当に一緒にいて飽きない奴。
「東大生には整理して、論理的に話を持っていかないとイライラさせちゃうよね」
「……そこまで考えなくてよくね? これは理性よりも感情が大事なんじゃないの? 不快だって生理現象は理屈じゃないだろ」
「うん、確かに」
「まあ、清水川くんは冷静に話しそうだけど、柚はその感性のまま訴えればいいじゃん。答えるか答えないかはあっちの勝手だけどさ」
萱は僕の気持ちを整理してくれた。
余計なことを考えることは止めた。
僕の気持ちは固まった。



