7月になり、テストの結果が出たが僕は良くもなく、悪くもなく、中間テストとほぼ変わらなかった。
心配していた、個別指導は免れた。
このまま、何も起こらずに夏休みを迎えられるはずだった。
「柚、明日、お父さんとお母さん、学校に行くから」
「え! どうして」
家に帰ると、お母さんにそう言われた。
もしかして、塚田先生が動いてくれたから?
「校長先生と戸谷先生に呼ばれたからよ。あなたも一緒にってことだったけど」
「僕も? 聞いてない……」
「何かあったの? お母さん、柚から何も聞いてないからビックリしちゃって。でも、あなたは問題起こすような子じゃないから」
「うん……」
僕は何も言わずに自分の部屋に入った。
お母さんは、僕を責めるような言い方はしなかった。
部活を辞めなさいと言った時のような、剣幕でもなかった。
本当に何も聞かされてないのだろうか……
子供の学校に二人して呼び出されたのに、あんなに冷静でいられるのだろうか?
僕は、ゾワゾワしてきて部屋の中をウロウロと歩き回った。
その場に、塚田先生も居てくれたらいいのに……
僕は味方が欲しかった。
制服も脱がずに、そんなことばかり考えていた。
🔸🔸🔸
校長室には、校長先生、教頭先生、二年生の学年主任、両親と僕がいた。
当事者である戸谷先生の姿はない。
僕はまだ、何も話していないのに既に汗が額から流れそうになっていた。
僕は何も悪くない。僕は被害者だ。
そう心の中でつぶやいていないと、自分を保つことができなかった。
「お忙しいところ、お越しいただきまして恐れ入ります。島谷くんも、時間もらって申し訳ないね。昨日、お電話でお伝えしたことです」
校長先生が話しはじめた。
え、やっぱり電話で詳細は聞いていたってこと?
「学年主任の葛西先生にも確認してもらいましたが、戸谷先生としては意図したことではないと。自分の熱意が間違った方向で捉えられてしまい、申し訳ないと謝っているようで。私と話した時と同じ説明をもらいました」
白髪頭で、小太りな校長先生は、口を閉じていても笑っているように見える顔をしている。
でも、話しはじめてから、ずっと笑顔で話している。
どうして? 笑顔で話すことなの? ここに被害者がいるのに!
「ちょ、ちょっと待ってください」
「柚、校長先生がお話されているでしょ。待ちなさい」
「で、でも」
「島谷くんも、驚いたんだろうね。でも、戸谷先生は昔からああいう指導の仕方をする人でね。熱心がゆえに、生徒にとってはプレッシャーに感じてしまい、悪い捉え方をしてしまうみたいだね。島谷くんも、そうでしょう?」
校長先生の話し方はプロだ。
周りにいる人の顔を見ながら話すと、説得力がある。
聞いている方はそれが間違っていることだとはいう考えには及ばない。
自ずと、正しいことを聞かされていると同調してしまう。
「柚、なにか具体的なことをされたの?」
「ぐ、具体的なことって?」
「その……身体を触られたとか、逆にひどいことを言われたとか……。具体的な行為がないなら、あなたが過剰に捉え過ぎているだけじゃないの? 戸谷先生に、あなたの部活について相談した際には、とても丁寧に相談にのってくださったのよ。それに、この学校を卒業された方だし、後輩の面倒を見るように温かく指導されているでしょ? あなたは敏感な方だから、オーバーに思い過ぎじゃない?」
僕は肩を撫でられたことや、耳元で囁かれそうになったこと、帰りに校舎の前で待ち伏せされていたことなど、口元まで出かかっていた。
でも、お母さんの僕を見る目は氷のように冷たく、諭すように話しながらも、威圧感に溢れていた。
僕は実の親からも見放されているんだ。
それを嫌でも感じてしまい、僕は口を閉じた。
「それに、本当にそんなセクハラを受けていたなら、お父さんたちにも訴えていただろう? 毎日、学校から帰ってきてもお前はなにひとつ変わっていなかったぞ?」
「それは……」
「まあ、まあ。息子さんを責めないであげてください。ご両親は唯一の味方でなくては。島谷くん、戸谷先生も謝りたいそうだから、ここに呼んでもいいかな?」
「え! どうして! い、嫌です」
「柚! いい加減にしなさい。高校生にもなって、子供みたいなこと言わないの。校長先生、お願いします。私たちも失礼があったことを謝罪させていただきたいです」
僕は席を立とうとするが、隣に座っているお父さんに腕を強く引っ張られた。
おかしい、絶対にこの状況はおかしい!
どうして、塚田先生がいないんだ……
どうして、僕の味方が誰もいないんだ……
その後のことは、僕の意思は全て無視された。
戸谷先生が殊勝な顔で、部屋に入ってくると土下座をしようとして、皆に止められていた。
僕はそれすらも茶番だと思ったし、謝罪の内容もとってつけたような言い訳に終始して、見苦しい以外の感想が出なかった。
それでも、両親も含め僕以外の大人全員が、無事に解決したとばかりに満足そうに頷き合っていた。
被害者である僕は、蚊帳の外のまま茶番劇は幕を閉じた。
僕は、戸谷先生からの報復を恐れると同時に、訴えることに動いてくれた塚田先生の今後が気になっていた。
心配していた、個別指導は免れた。
このまま、何も起こらずに夏休みを迎えられるはずだった。
「柚、明日、お父さんとお母さん、学校に行くから」
「え! どうして」
家に帰ると、お母さんにそう言われた。
もしかして、塚田先生が動いてくれたから?
「校長先生と戸谷先生に呼ばれたからよ。あなたも一緒にってことだったけど」
「僕も? 聞いてない……」
「何かあったの? お母さん、柚から何も聞いてないからビックリしちゃって。でも、あなたは問題起こすような子じゃないから」
「うん……」
僕は何も言わずに自分の部屋に入った。
お母さんは、僕を責めるような言い方はしなかった。
部活を辞めなさいと言った時のような、剣幕でもなかった。
本当に何も聞かされてないのだろうか……
子供の学校に二人して呼び出されたのに、あんなに冷静でいられるのだろうか?
僕は、ゾワゾワしてきて部屋の中をウロウロと歩き回った。
その場に、塚田先生も居てくれたらいいのに……
僕は味方が欲しかった。
制服も脱がずに、そんなことばかり考えていた。
🔸🔸🔸
校長室には、校長先生、教頭先生、二年生の学年主任、両親と僕がいた。
当事者である戸谷先生の姿はない。
僕はまだ、何も話していないのに既に汗が額から流れそうになっていた。
僕は何も悪くない。僕は被害者だ。
そう心の中でつぶやいていないと、自分を保つことができなかった。
「お忙しいところ、お越しいただきまして恐れ入ります。島谷くんも、時間もらって申し訳ないね。昨日、お電話でお伝えしたことです」
校長先生が話しはじめた。
え、やっぱり電話で詳細は聞いていたってこと?
「学年主任の葛西先生にも確認してもらいましたが、戸谷先生としては意図したことではないと。自分の熱意が間違った方向で捉えられてしまい、申し訳ないと謝っているようで。私と話した時と同じ説明をもらいました」
白髪頭で、小太りな校長先生は、口を閉じていても笑っているように見える顔をしている。
でも、話しはじめてから、ずっと笑顔で話している。
どうして? 笑顔で話すことなの? ここに被害者がいるのに!
「ちょ、ちょっと待ってください」
「柚、校長先生がお話されているでしょ。待ちなさい」
「で、でも」
「島谷くんも、驚いたんだろうね。でも、戸谷先生は昔からああいう指導の仕方をする人でね。熱心がゆえに、生徒にとってはプレッシャーに感じてしまい、悪い捉え方をしてしまうみたいだね。島谷くんも、そうでしょう?」
校長先生の話し方はプロだ。
周りにいる人の顔を見ながら話すと、説得力がある。
聞いている方はそれが間違っていることだとはいう考えには及ばない。
自ずと、正しいことを聞かされていると同調してしまう。
「柚、なにか具体的なことをされたの?」
「ぐ、具体的なことって?」
「その……身体を触られたとか、逆にひどいことを言われたとか……。具体的な行為がないなら、あなたが過剰に捉え過ぎているだけじゃないの? 戸谷先生に、あなたの部活について相談した際には、とても丁寧に相談にのってくださったのよ。それに、この学校を卒業された方だし、後輩の面倒を見るように温かく指導されているでしょ? あなたは敏感な方だから、オーバーに思い過ぎじゃない?」
僕は肩を撫でられたことや、耳元で囁かれそうになったこと、帰りに校舎の前で待ち伏せされていたことなど、口元まで出かかっていた。
でも、お母さんの僕を見る目は氷のように冷たく、諭すように話しながらも、威圧感に溢れていた。
僕は実の親からも見放されているんだ。
それを嫌でも感じてしまい、僕は口を閉じた。
「それに、本当にそんなセクハラを受けていたなら、お父さんたちにも訴えていただろう? 毎日、学校から帰ってきてもお前はなにひとつ変わっていなかったぞ?」
「それは……」
「まあ、まあ。息子さんを責めないであげてください。ご両親は唯一の味方でなくては。島谷くん、戸谷先生も謝りたいそうだから、ここに呼んでもいいかな?」
「え! どうして! い、嫌です」
「柚! いい加減にしなさい。高校生にもなって、子供みたいなこと言わないの。校長先生、お願いします。私たちも失礼があったことを謝罪させていただきたいです」
僕は席を立とうとするが、隣に座っているお父さんに腕を強く引っ張られた。
おかしい、絶対にこの状況はおかしい!
どうして、塚田先生がいないんだ……
どうして、僕の味方が誰もいないんだ……
その後のことは、僕の意思は全て無視された。
戸谷先生が殊勝な顔で、部屋に入ってくると土下座をしようとして、皆に止められていた。
僕はそれすらも茶番だと思ったし、謝罪の内容もとってつけたような言い訳に終始して、見苦しい以外の感想が出なかった。
それでも、両親も含め僕以外の大人全員が、無事に解決したとばかりに満足そうに頷き合っていた。
被害者である僕は、蚊帳の外のまま茶番劇は幕を閉じた。
僕は、戸谷先生からの報復を恐れると同時に、訴えることに動いてくれた塚田先生の今後が気になっていた。



