叩かれた後、僕は夕飯を食べないまま自分の部屋に閉じこもった。
美瑛ちゃんが作ってくれたスコーンに、よしかずさんからもらったブルーベリージャムをつけて食べた。
頬はジンジンと痛み、涙もポロポロと流れ続けながらも、食べることは止められなかった。
ブルーベリーをつぶすヘラの動きから目が離せなかったことや、初めてスコーンを頬張った時の感動も、遠い昔のことのように思えて、余計に悲しくなった。
親に叩かれたのは、生まれて初めてだった。
手を出されたショックと、どこまでも僕を理解してくれない絶望と、味方がいない虚しさで、胸が苦しくなった。
美瑛ちゃんや、萱からLINEが届いていた。
今の僕にとっては、それは唯一の拠り所ではあったけど、このボロボロな気持ちのまま読んだら、すがりついてしまいそうで一旦、距離を取った。
泣きながらスコーンを食べていたら、むせた。
あいにく、飲料水はデイバックの中にも紙袋の中にも入ってなかった。
僕は咳をしながら、部屋を出るとキッチンに向かった。
リビングとの間のドアは閉まっていて、僕が入ってきたことには気づかれていない。
咳を我慢して、足音を立てないように冷蔵庫を開けた。
麦茶のペットボトルを取り出し、キッチンから出ようとするとリビングでお父さんたちの声が聞こえた。
『お父さんが叩くなんて、いくらなんでもやり過ぎです』
『さすがに柚には悪いことをしたと思ってる。でも、お前もキツいことを言っていただろ』
『とにかく、明日からはなにもなかったようにしますから。これで不登校にでもなられたら困りますし』
『そうだな……』
僕はそっとキッチンのドアを閉めた。
――無事に家に着いたか? 喧嘩したか?
萱のLINEにどう返信しようか迷っていた。
叩かれたと正直に書くべきか、口喧嘩はしたとだけに留めておこうか……
――着いたよ。萱はお父さんたち何か言ってた?
――『そんなに焼けるほど中身の濃い学習旅行だったんだな』だってさ! 笑える。農作業の実習でもしてきたんだろうぐらいな理解力だったよ
過干渉と無関心。
どっちが幸せなんだろう。
――口ごたえしたら、引っぱたかれた
正直に伝えることにした。
萱に隠す必要なんてないから。
萱からはキャラクターが怯えた顔をしているスタンプが送られてきた
――マジで? 大丈夫かよ。柚が殴られるほど反抗的な態度とるとは
――自分でも驚いた。でも、塚田先生はますます不利な立場になりそうだよ
――とりあえず、来週の水曜日に作戦会議をしよう。あの学校そばの図書館で
――了解
どうにかしないと。
でも、何ができるかわからなかった。
美瑛ちゃんのLINEを開いた。
帰る前に撮った、先生、よしかずさん、美瑛ちゃん、萱、僕が一緒に写っている写真が添付されていた。
手の長いよしかずさんがスマホで撮ってくれた。
――よく撮れてるね。今朝のことなのにもうかなり昔のことみたいだ
――私たち二人のも添付するね
僕と美瑛ちゃんと林の中で自撮りした写真。
真正面を見て微笑んでいる美瑛ちゃんの左側のこめかみには、青い痣がはっきりと写っていた。
でも、僕には小さな青いラインストーンがちりばめられているみたいに見えて、すごくキレイだった。
――美瑛ちゃんはやっぱりキレイだ
――柚くんに褒められた♪ 柚くんも可愛いよ
――僕は可愛いの? カッコ良いって言われたい
僕は拗ねた表情のスタンプを送った。
――拗ねてるの? そういうところが可愛い
――もういいよ! 今、スコーンを食べてた
――夕飯を食べた後に食べたの?
確かに……時間的には夕飯を食べ終わった時間だ。
ここでも、美瑛ちゃんに本当のことを言うべきか迷っていた。
――うん。お腹がすきすぎちゃって
――お母さんたちに怒られなかった?
――怒られた。でも想定内だから問題ないよ
――お母さんたちも心配してたんだよ。喧嘩はしないでね
美瑛ちゃんの優しい言葉に、胸が締め付けられた。
僕のことを心配しつつ、お母さんたちにも寄り添っている。
いっそのこと、本当のことを言ってしまおうかと心が揺れた。
――そうだね。やっぱり美瑛ちゃんが作ったスコーンは美味い!
――今度は何作ろうかな? 冷凍便で柚くんの家に送ればいいんだ
――マジで?
悲しみや虚しさが、美瑛ちゃんとのやりとりで薄れていく。
僕たちの会話は途切れることなく続いた。
美瑛ちゃんが作ってくれたスコーンに、よしかずさんからもらったブルーベリージャムをつけて食べた。
頬はジンジンと痛み、涙もポロポロと流れ続けながらも、食べることは止められなかった。
ブルーベリーをつぶすヘラの動きから目が離せなかったことや、初めてスコーンを頬張った時の感動も、遠い昔のことのように思えて、余計に悲しくなった。
親に叩かれたのは、生まれて初めてだった。
手を出されたショックと、どこまでも僕を理解してくれない絶望と、味方がいない虚しさで、胸が苦しくなった。
美瑛ちゃんや、萱からLINEが届いていた。
今の僕にとっては、それは唯一の拠り所ではあったけど、このボロボロな気持ちのまま読んだら、すがりついてしまいそうで一旦、距離を取った。
泣きながらスコーンを食べていたら、むせた。
あいにく、飲料水はデイバックの中にも紙袋の中にも入ってなかった。
僕は咳をしながら、部屋を出るとキッチンに向かった。
リビングとの間のドアは閉まっていて、僕が入ってきたことには気づかれていない。
咳を我慢して、足音を立てないように冷蔵庫を開けた。
麦茶のペットボトルを取り出し、キッチンから出ようとするとリビングでお父さんたちの声が聞こえた。
『お父さんが叩くなんて、いくらなんでもやり過ぎです』
『さすがに柚には悪いことをしたと思ってる。でも、お前もキツいことを言っていただろ』
『とにかく、明日からはなにもなかったようにしますから。これで不登校にでもなられたら困りますし』
『そうだな……』
僕はそっとキッチンのドアを閉めた。
――無事に家に着いたか? 喧嘩したか?
萱のLINEにどう返信しようか迷っていた。
叩かれたと正直に書くべきか、口喧嘩はしたとだけに留めておこうか……
――着いたよ。萱はお父さんたち何か言ってた?
――『そんなに焼けるほど中身の濃い学習旅行だったんだな』だってさ! 笑える。農作業の実習でもしてきたんだろうぐらいな理解力だったよ
過干渉と無関心。
どっちが幸せなんだろう。
――口ごたえしたら、引っぱたかれた
正直に伝えることにした。
萱に隠す必要なんてないから。
萱からはキャラクターが怯えた顔をしているスタンプが送られてきた
――マジで? 大丈夫かよ。柚が殴られるほど反抗的な態度とるとは
――自分でも驚いた。でも、塚田先生はますます不利な立場になりそうだよ
――とりあえず、来週の水曜日に作戦会議をしよう。あの学校そばの図書館で
――了解
どうにかしないと。
でも、何ができるかわからなかった。
美瑛ちゃんのLINEを開いた。
帰る前に撮った、先生、よしかずさん、美瑛ちゃん、萱、僕が一緒に写っている写真が添付されていた。
手の長いよしかずさんがスマホで撮ってくれた。
――よく撮れてるね。今朝のことなのにもうかなり昔のことみたいだ
――私たち二人のも添付するね
僕と美瑛ちゃんと林の中で自撮りした写真。
真正面を見て微笑んでいる美瑛ちゃんの左側のこめかみには、青い痣がはっきりと写っていた。
でも、僕には小さな青いラインストーンがちりばめられているみたいに見えて、すごくキレイだった。
――美瑛ちゃんはやっぱりキレイだ
――柚くんに褒められた♪ 柚くんも可愛いよ
――僕は可愛いの? カッコ良いって言われたい
僕は拗ねた表情のスタンプを送った。
――拗ねてるの? そういうところが可愛い
――もういいよ! 今、スコーンを食べてた
――夕飯を食べた後に食べたの?
確かに……時間的には夕飯を食べ終わった時間だ。
ここでも、美瑛ちゃんに本当のことを言うべきか迷っていた。
――うん。お腹がすきすぎちゃって
――お母さんたちに怒られなかった?
――怒られた。でも想定内だから問題ないよ
――お母さんたちも心配してたんだよ。喧嘩はしないでね
美瑛ちゃんの優しい言葉に、胸が締め付けられた。
僕のことを心配しつつ、お母さんたちにも寄り添っている。
いっそのこと、本当のことを言ってしまおうかと心が揺れた。
――そうだね。やっぱり美瑛ちゃんが作ったスコーンは美味い!
――今度は何作ろうかな? 冷凍便で柚くんの家に送ればいいんだ
――マジで?
悲しみや虚しさが、美瑛ちゃんとのやりとりで薄れていく。
僕たちの会話は途切れることなく続いた。



