後片付けをしていると、萱が僕の肩をポンと叩いた。
「何?」
「後は俺がやっておくから、美瑛ちゃんと最後の別れをしてこい」
「え、な、何言ってるんだよ」
「だって、ずっとソファで待ってるぞ」
「え、えー?」
僕は知っていながら、わざと気づいていないふりをしていた。
夕飯を一緒に食べても、美瑛ちゃんはテーブルの上を片付けるとすぐに家に帰っていたから、今日に限って残っているのが珍しいとは思っていた。
でも、こういうことに慣れていない僕は、どうしたらいいのか本当にわからなかった。
「恋愛初心者のお前に、上級者の俺がアドバイスをしてやる。今は盛り上がってるから、離れても大丈夫だと思ってるかもしれないが、人の心は移ろいやすい。だから、本気で好きだという意思表示をしておけ。美瑛ちゃんなしでは生きていけないぐらいアピールしておけ」
「そ、そんなこと……お前に言われなくても……」
エラそうに言われて頭に来つつ、自分の声がフェードアウトしていく。
確かに、この先物理的な距離が、心の距離にも影響をきたす恐れは十分考えられる。
ずっと両思いでいられるかの確証はない。
でも、僕はずっと好きでいられる自信はあった。
「っていうか、恋愛ってそんなに理路整然と考えなきゃいけないことなのか? もっと理性よりも感情が動くものなんじゃないのか?」
「だったら、それで推し進めろよ。俺はただ、お前が悶々と考えていることを表面に出してやったまでだ」
どこまでも、理性で片付けようとする萱にイライラしながらも、この面倒なアドバイスがなければ確かに、僕は待っている美瑛ちゃんの横に座ることさえ躊躇しただろう。
「わかった。ありがと」
「素直でよろしい」
満足そうな顔をして、萱は食器を片付けた。
僕は、キッチンから出ると美瑛ちゃんがいるリビングに向かった。
僕が近づくと、美瑛ちゃんはスマホから顔を上げて口角を上げた。
美瑛ちゃんの横に座り、気づかれないように小さく息を吐いた。
「LINEも交換したし、一応住所も聞いたし、連絡は取れるよね」
「うん。大丈夫だよ。東京に来ることがあったら即連絡して」
「毎日LINEするかも……」
「うん」
「そのうち電話に変えるかも……」
「うん」
「気づいたらビデオ通話してるかも……」
「うん」
「いきなり、柚くんの家のインターホンを鳴らしてるかも……」
「えっ!」
「やっと反応したー」
「え、え、どういうこと」
美瑛ちゃんは呆れた表情をすると、顔を左右に振った。
「私って面倒くさいかな? 私ばっかり柚くんに連絡したいみたいじゃない?」
「そんなことないよ! 僕はその……どうしたらいいかわからなくて。でも、多分僕のほうが美瑛ちゃんのことを好きだと思う」
「私のほうが好きだよ」
「僕だよ!」
「私!」
お互いに顔を見合わせると、吹き出してしまった。
好きを競い合ってどうするんだ。
悲しい別れのはずが、ヘンな方向へ流れていく。
美瑛ちゃんが楽しそうに笑っているのを見ると、僕の心の中がほんわかと温かくなった。
「……物理的に距離が離れても、絶対に寂しい思いはさせないから」
「……うん。私も柚くんのことずっと思ってるから」
美瑛ちゃんは僕と手を繋いだ。
冷たいと思っていた美瑛ちゃんの手が、今日は温かかった。
「美瑛ちゃんの手があったかい」
「柚くんの気持ちが伝わったからかな」
照れくさくなって、互いの顔を見られずに、二人で下を向いた。
明日別れたら、僕はすぐに会いたくなるだろう。
だから、今だけはずっと美瑛ちゃんと手を繋いでいたかった。
「何?」
「後は俺がやっておくから、美瑛ちゃんと最後の別れをしてこい」
「え、な、何言ってるんだよ」
「だって、ずっとソファで待ってるぞ」
「え、えー?」
僕は知っていながら、わざと気づいていないふりをしていた。
夕飯を一緒に食べても、美瑛ちゃんはテーブルの上を片付けるとすぐに家に帰っていたから、今日に限って残っているのが珍しいとは思っていた。
でも、こういうことに慣れていない僕は、どうしたらいいのか本当にわからなかった。
「恋愛初心者のお前に、上級者の俺がアドバイスをしてやる。今は盛り上がってるから、離れても大丈夫だと思ってるかもしれないが、人の心は移ろいやすい。だから、本気で好きだという意思表示をしておけ。美瑛ちゃんなしでは生きていけないぐらいアピールしておけ」
「そ、そんなこと……お前に言われなくても……」
エラそうに言われて頭に来つつ、自分の声がフェードアウトしていく。
確かに、この先物理的な距離が、心の距離にも影響をきたす恐れは十分考えられる。
ずっと両思いでいられるかの確証はない。
でも、僕はずっと好きでいられる自信はあった。
「っていうか、恋愛ってそんなに理路整然と考えなきゃいけないことなのか? もっと理性よりも感情が動くものなんじゃないのか?」
「だったら、それで推し進めろよ。俺はただ、お前が悶々と考えていることを表面に出してやったまでだ」
どこまでも、理性で片付けようとする萱にイライラしながらも、この面倒なアドバイスがなければ確かに、僕は待っている美瑛ちゃんの横に座ることさえ躊躇しただろう。
「わかった。ありがと」
「素直でよろしい」
満足そうな顔をして、萱は食器を片付けた。
僕は、キッチンから出ると美瑛ちゃんがいるリビングに向かった。
僕が近づくと、美瑛ちゃんはスマホから顔を上げて口角を上げた。
美瑛ちゃんの横に座り、気づかれないように小さく息を吐いた。
「LINEも交換したし、一応住所も聞いたし、連絡は取れるよね」
「うん。大丈夫だよ。東京に来ることがあったら即連絡して」
「毎日LINEするかも……」
「うん」
「そのうち電話に変えるかも……」
「うん」
「気づいたらビデオ通話してるかも……」
「うん」
「いきなり、柚くんの家のインターホンを鳴らしてるかも……」
「えっ!」
「やっと反応したー」
「え、え、どういうこと」
美瑛ちゃんは呆れた表情をすると、顔を左右に振った。
「私って面倒くさいかな? 私ばっかり柚くんに連絡したいみたいじゃない?」
「そんなことないよ! 僕はその……どうしたらいいかわからなくて。でも、多分僕のほうが美瑛ちゃんのことを好きだと思う」
「私のほうが好きだよ」
「僕だよ!」
「私!」
お互いに顔を見合わせると、吹き出してしまった。
好きを競い合ってどうするんだ。
悲しい別れのはずが、ヘンな方向へ流れていく。
美瑛ちゃんが楽しそうに笑っているのを見ると、僕の心の中がほんわかと温かくなった。
「……物理的に距離が離れても、絶対に寂しい思いはさせないから」
「……うん。私も柚くんのことずっと思ってるから」
美瑛ちゃんは僕と手を繋いだ。
冷たいと思っていた美瑛ちゃんの手が、今日は温かかった。
「美瑛ちゃんの手があったかい」
「柚くんの気持ちが伝わったからかな」
照れくさくなって、互いの顔を見られずに、二人で下を向いた。
明日別れたら、僕はすぐに会いたくなるだろう。
だから、今だけはずっと美瑛ちゃんと手を繋いでいたかった。



