夕飯前に、萱が明日の清里から新宿行きの高速バスを予約した。
急にバタバタと決まってしまって、僕は色々と心残りだった。
農作業も、塚田先生、よしかずさんとの交流も、描きかけの絵も。
お互いの気持ちを確認し合った、美瑛ちゃんも。
たった一週間で、17年間生きてきた以上の様々な体験をしたけど、それでもまだやり残した気がしていた。
お母さんには、新宿に夕方5時には着くとLINEをした。
家に帰って、何を言われても僕は大丈夫な気がする。
これから、闘う相手は他にもいる。
親でビビっていたら、この先校長先生や、戸谷先生と戦えるわけがない。
「柚……」
「うん?」
「楽しかったなー。家出に誘ってくれてありがとな」
「なんだよ、あらたまって。僕は誘ってないぞ。勝手についてきただけだろ」
「そうだった」
萱は、どうするのだろう……
結局あれ以来、萱の親の話は聞いてない。
明日新宿に着いても、誰も迎えにはこないのかな。
そもそも、明日帰ることすら伝えてないように思えた。
僕は、常に余裕がある萱も好きだけど、親から見放されている事実を隠している萱が心配だった。
「萱は大丈夫か?」
「俺はいつもの通り、俺がやるべきことをやるだけだよ。明後日から予備校行くつもりだし。11月のディベート大会に向けて作戦練らなきゃだし……」
「忙しいね……」
「でも、塚田先生を復職させるべく闘いもその間にするからな」
「お、おお」
萱はにんまりと笑った。
萱がやるべきことをやることで自分を鼓舞しているのなら、僕はそれを見守り、応援しようと思った。
「よしかずさんに習った中国語を忘れないようにしないとなー」
「執迷不悔」
「あ? なにそれ」
「よしかずさんが教えてくれて四字熟語。頑固だけど、自分の信念を貫くって意味らしい。これ、僕たち全員にあてはまるよね」
僕は教えてもらった、漢字をスマホのメモ帳に書いて見せた。
「ふーん。いいね! どこかで使おうっと」
萱は中国語のノートに書き写した。
「学びの一週間だったなー。大学受験には役立たないけど、人間的な成長には大いに役立った」
「萱は、なんでもオーバーに言うなー」
「なんだよ、でもお前が一番成長したんじゃね?」
「は? なにが」
「だって、家出した先で彼女を見つけたってさあ、ベタ過ぎんだろ。アニメも少女漫画もビックリよ!」
「ウルさい!」
萱は腹を抱えて笑っていた。
恥ずかしいけど、でも自分でもビックリだ。
一階から、飯だぞーという塚田先生の声が聞こえた。
僕と萱は、最後の晩餐のために一階に降りた。
「長いようで短かった一週間だったけど、農作業を手伝ってもらって本当に助かった。お疲れさま。東京に戻ったら勉強の毎日だろうけど、頑張れ」
塚田先生の挨拶で、乾杯をした。
よしかずさんが作った野菜の具沢山のカレーに、緑黄色野菜のサラダには近所の酪農家さんが作っているチーズが、山ほど掛けてあった。
じゃがいもの冷たいスープに、デザートには美瑛ちゃんが速攻で作ったという牛乳プリンもあった。
先生、よしかずさん、美瑛ちゃんに、僕と萱。
全員揃って食べる食事もこれが最後だった。
僕は一口、一口、噛み締めるように味わった。
萱が、野菜の収穫の楽しさを話せば、よしかずさんが萱の中国語の習得力を褒め、美瑛ちゃんが東京の人がこんなに農作業に慣れるとは思わなかったと感想を言えば、塚田先生は一週間で健康優良児が二人作られたと、僕たちの日焼けをイジった。
僕は……
「家出というネガティブな行動をしましたけど、結果的に学びになったな、とさっき萱とも話してました。絶対に東京にいたら、こんな経験できなかったし。それに精神的にも強くなった気がします」
「確かにな。一日目で音を上げるかと思っていたけど、毎日早起きしてちゃんと働いてくれたのには感心したよ。やっぱり、勉強で努力してきてる子は何をやらせても努力するんだなって、俺らのほうも学びになったよ」
先生の言葉が胸にすっと入ってきた。
努力して得られたことは、この先絶対に無駄にはならないはず。
「すごく濃密な時間を過ごしたなと思ってます」
「そうか。それなら良かった」
「だから、先生のことは待ってます。僕たちと過ごした濃密な時間が、先生にとって無駄にならないことを祈ってます」
先生は、無言のまま頷いた。
結局、答えはもらってないけど、でも僕も萱も諦めるつもりはなかった。
だから、清里と東京と離れていても、ずっとコンタクトは取っていくつもりでいた。
よしかずさんという強い味方もいるし。
「なんか、いいね」
美瑛ちゃんが小さな声を発した。
急にバタバタと決まってしまって、僕は色々と心残りだった。
農作業も、塚田先生、よしかずさんとの交流も、描きかけの絵も。
お互いの気持ちを確認し合った、美瑛ちゃんも。
たった一週間で、17年間生きてきた以上の様々な体験をしたけど、それでもまだやり残した気がしていた。
お母さんには、新宿に夕方5時には着くとLINEをした。
家に帰って、何を言われても僕は大丈夫な気がする。
これから、闘う相手は他にもいる。
親でビビっていたら、この先校長先生や、戸谷先生と戦えるわけがない。
「柚……」
「うん?」
「楽しかったなー。家出に誘ってくれてありがとな」
「なんだよ、あらたまって。僕は誘ってないぞ。勝手についてきただけだろ」
「そうだった」
萱は、どうするのだろう……
結局あれ以来、萱の親の話は聞いてない。
明日新宿に着いても、誰も迎えにはこないのかな。
そもそも、明日帰ることすら伝えてないように思えた。
僕は、常に余裕がある萱も好きだけど、親から見放されている事実を隠している萱が心配だった。
「萱は大丈夫か?」
「俺はいつもの通り、俺がやるべきことをやるだけだよ。明後日から予備校行くつもりだし。11月のディベート大会に向けて作戦練らなきゃだし……」
「忙しいね……」
「でも、塚田先生を復職させるべく闘いもその間にするからな」
「お、おお」
萱はにんまりと笑った。
萱がやるべきことをやることで自分を鼓舞しているのなら、僕はそれを見守り、応援しようと思った。
「よしかずさんに習った中国語を忘れないようにしないとなー」
「執迷不悔」
「あ? なにそれ」
「よしかずさんが教えてくれて四字熟語。頑固だけど、自分の信念を貫くって意味らしい。これ、僕たち全員にあてはまるよね」
僕は教えてもらった、漢字をスマホのメモ帳に書いて見せた。
「ふーん。いいね! どこかで使おうっと」
萱は中国語のノートに書き写した。
「学びの一週間だったなー。大学受験には役立たないけど、人間的な成長には大いに役立った」
「萱は、なんでもオーバーに言うなー」
「なんだよ、でもお前が一番成長したんじゃね?」
「は? なにが」
「だって、家出した先で彼女を見つけたってさあ、ベタ過ぎんだろ。アニメも少女漫画もビックリよ!」
「ウルさい!」
萱は腹を抱えて笑っていた。
恥ずかしいけど、でも自分でもビックリだ。
一階から、飯だぞーという塚田先生の声が聞こえた。
僕と萱は、最後の晩餐のために一階に降りた。
「長いようで短かった一週間だったけど、農作業を手伝ってもらって本当に助かった。お疲れさま。東京に戻ったら勉強の毎日だろうけど、頑張れ」
塚田先生の挨拶で、乾杯をした。
よしかずさんが作った野菜の具沢山のカレーに、緑黄色野菜のサラダには近所の酪農家さんが作っているチーズが、山ほど掛けてあった。
じゃがいもの冷たいスープに、デザートには美瑛ちゃんが速攻で作ったという牛乳プリンもあった。
先生、よしかずさん、美瑛ちゃんに、僕と萱。
全員揃って食べる食事もこれが最後だった。
僕は一口、一口、噛み締めるように味わった。
萱が、野菜の収穫の楽しさを話せば、よしかずさんが萱の中国語の習得力を褒め、美瑛ちゃんが東京の人がこんなに農作業に慣れるとは思わなかったと感想を言えば、塚田先生は一週間で健康優良児が二人作られたと、僕たちの日焼けをイジった。
僕は……
「家出というネガティブな行動をしましたけど、結果的に学びになったな、とさっき萱とも話してました。絶対に東京にいたら、こんな経験できなかったし。それに精神的にも強くなった気がします」
「確かにな。一日目で音を上げるかと思っていたけど、毎日早起きしてちゃんと働いてくれたのには感心したよ。やっぱり、勉強で努力してきてる子は何をやらせても努力するんだなって、俺らのほうも学びになったよ」
先生の言葉が胸にすっと入ってきた。
努力して得られたことは、この先絶対に無駄にはならないはず。
「すごく濃密な時間を過ごしたなと思ってます」
「そうか。それなら良かった」
「だから、先生のことは待ってます。僕たちと過ごした濃密な時間が、先生にとって無駄にならないことを祈ってます」
先生は、無言のまま頷いた。
結局、答えはもらってないけど、でも僕も萱も諦めるつもりはなかった。
だから、清里と東京と離れていても、ずっとコンタクトは取っていくつもりでいた。
よしかずさんという強い味方もいるし。
「なんか、いいね」
美瑛ちゃんが小さな声を発した。



