晴れた日でも雨傘をさして

「お母さんたちが乗り込んでくるってどういうこと?」

 リビングには僕と萱、美瑛ちゃんしかいなかった。
 話し合いは宙ぶらりんのまま、塚田先生とよしかずさんは道の駅に行ってしまった。
 萱は、さっきまであんなに美瑛ちゃんを凝視していたのに、今は全く目を合わせられずに違う方向ばかり見ている。

「僕は家出してきたんだ。萱はその付き添い」
「俺も、便乗して家出したんだよ」
「家出? って何? 黙って居なくなること?」
「うん。まあ」
「小説の中でしか、聞いたことない……」

 そんなにイマドキじゃないのか?
 前時代的……よくお母さんが口にする言葉を思い出した。

「でも、結局先生に迷惑かけちゃって、今に至るって感じ」
「ふーん。いいね、家出。私もしてみたいかも」
「いや、それはオススメをしない。本来、家出ってあてもなく放浪することを意味するはずだけど、俺たちの場合は既に目的地が決まってからの強行だから、こんな快適な家出はありえないと思ってもらったほうがいい」
「う、うん。わかった」

 萱の論理的な解説がおかしくて、僕は声を出して笑ってしまった。
 家出を理路整然と話さなくても良くないか?

「なに、呑気に笑ってんだよ!」
「ごめん。美瑛ちゃんが萱の言い方に若干、引いてそうだったからさ」
「引いてないよ。面白いなーって。萱くん、頭良さそうだし」
「まあな~」

 萱が調子に乗ってる!
 地雷には興味がないって、美瑛ちゃんに対して距離を置いていたくせに、顔を見た途端このありさまかよ。
 僕は、萱に美瑛ちゃんを取られてしまうかもと、少し焦ってしまった。

「本当に明日帰っちゃうの?」
「うん。親が押しかけてきたらもっと先生に迷惑かけちゃうし、大事になるから」
「……美瑛ちゃんは柚と別れるのが寂しい?」
「萱! 何言ってんだよ!」

 萱がニヤニヤしながら、余裕ぶって僕をからかい始めた。
 いつものパターンでも、相手がいることで僕は落ち着かなくなった。

「寂しいよ……。でも、大丈夫」
「なにが?」
「島谷くんとだったら遠距離恋愛でも全然心配してないから」
「美瑛ちゃん!」

 僕は大きな声を出してしまった。
 遠距離恋愛って……確かにさっきお互いに好きって確認したけど……
 僕は手や額に一気に汗が滲んだ。
 嬉しい言葉なのに、どう処理していいか全然わからない。

「ほほー。美瑛ちゃんはスゴイなー。柚はウブだからさ、リードしていってやってよ」
「萱! 余計なこと言うなよ!」
「うん。もっと色々知りたいし」

 美瑛ちゃんは僕に満面の笑みを向けた。
 僕はこの笑顔を向けられる、ふさわしい人でありたいと、拳を握った。

「で、美瑛ちゃんは何に対して闘うんだ?」
「まずは、学校へ戻る。そのうえで、私の痣のことで何かを言われても、堂々と私がこうありたいと主張する。例え、そこで喧嘩になっていじめられるようになったとしても、隠れている自分よりも全然マシだと思うの。って、いざとなったら負けるかもしれないけど……」
「美瑛ちゃんが辛くなったら、柚が駆けつけるから大丈夫だよ。な、柚」
「僕が先に言おうと思ったのに! うん。たった4時間だよ。高速バスに乗ってすぐに行くから」
「……私が行くかも」
「え?」
「島谷くんに会いたくなって、私が東京に行っちゃうかもね」
「ヒョー! 出ました! 会いたくなっちゃう!」

 萱の冷やかしで、僕も美瑛ちゃんも恥ずかしさを誤魔化すために三人で爆笑してしまった。
 アオハルっていいな……
 まだまだ、不安なことがあるけど、今だけこの瞬間をギュっと抱きしめていた。