雨が上がると、降る前よりも気温が上がり、僕は林に行くまでにかなりの汗をかいていた。
道はびしゃびしゃに濡れていて、長靴じゃないと到底歩けないほどだった。
僕はびしょ濡れになった帽子を手に取り、さっき美瑛ちゃんとここで話していたことが、既に遠い昔のように感じていた。
明日にはもうここを去らなければならない。
美瑛ちゃんにもう会えないと思うと、胸がギューっと締め付けられた。
まだ、知り合って一週間しか経ってないのに、二人で話せるようになって三日しか経ってないのに、僕の中では美瑛ちゃんの存在がどんどん大きくなっていた。
『ここで知り合って先があると思うか? 清里だよ? 遠距離とか無理、無理』
萱が言った言葉を反芻する。
確かに、東京と清里でどうしようというんだ。
まだ、僕たちは高校生だというのに。
美瑛ちゃんの冷たい手の感触がまだ残っている。
僕は未練がましくも、感触が残っている掌を見つめる。
「はー、なにアオハルやってんだよ!」
自分でツッコミを入れると、林から出てログハウスに戻り始めた。
好きなんだよな、これは……いや、似た境遇にただ共感しているだけなのかな……女の子の免疫がないから、共感を好きと勘違いしているのかな……
頭の中がそのことだけで占拠されている僕は、恥ずかしいほど思春期だった。
「島谷くん!」
いきなり声を掛けられて、顔を上げると、美瑛ちゃんが立っていた。
僕は心の準備ができていなくて、思わず後ずさりしていた。
「え、なんで? 後ずさりしてない?」
「え、い、いや。ビックリしちゃってさ」
頭の中を占拠していた人が、目の前に立っているなんて!
自然に話せていた自分は、もう今はいない。
挙動不審な自分が、ここにいる。
「雨が止んだから、クッキーを塚さんに持って行こうと思ってたの」
「あ、ああ。そっか。あれ美味しかった」
「……なんかヘン! 私がキャップ被ってるから?」
「え、ち、違うよ。まさか、ここで美瑛ちゃんに会うとは思ってなかったから」
いちいち、どもる自分が情けないけど、普通にできない……
美瑛ちゃんはキャップを脱ぐと、あの大きな目を細めて僕を見ている。
「な、何?」
「なにかがおかしい。さっきはあんなに色々話してくれたのに……私がヘンなこと言った?」
「言ってないよ! 美瑛ちゃんは何も悪くないよ……」
「そ。ならいいや。行こう」
僕らは並んで歩いた。
僕の前ではキャップを脱いでくれる。
僕には何の躊躇もなく、本当の美瑛ちゃんを見せてくれる。
僕はそんな美瑛ちゃんが……
「……好きだ」
「え?」
「僕は美瑛ちゃんが好きだ。僕に隠さず自分を見せてくれる美瑛ちゃんが好き」
気が付いたら口に出していた。
取り繕う暇もなく、自然と口から言葉が出ていた。
でも、全然ロマンチックじゃない!
アニメや漫画で見るような、キュンキュンするようなシチュエーションからはかけ離れていた。
だから、怖くて隣にいる美瑛ちゃんに顔を向けることが出来なかった。
美瑛ちゃんの反応はない。
僕の言葉は、宙を彷徨っていた。
「……明日、東京に帰るんだ。だから、後悔したくなくて言っちゃったけど、気にしないで」
「気にする!」
「え?」
「明日帰るなんて聞いてないし……もう会えないのにそんな告白されたらどうしたらいいかわかんない!」
「そ、そうだよね……」
僕は相手の気持ちも考えずに、自分が伝えたい気持ちを押し付けていただけだった。
これが恋愛初心者の僕だ。
「……さようならの代わりなの?」
「何が?」
「好きって。私のことを好きって」
「え、いや、そうじゃなくて……。好きだから好きって言ったんだ。ごめん」
「さようならは言いたくない」
「そっか……」
美瑛ちゃんの足が止まった。
もうログハウスは目の前だ。
「……私も好き。島谷くんのこと好き」
「え!」
そう言うと、美瑛ちゃんはあの俊足でログハウスまで一気に走って行った。
ひとり残された僕は、美瑛ちゃんの言葉を噛み締めていた。
道はびしゃびしゃに濡れていて、長靴じゃないと到底歩けないほどだった。
僕はびしょ濡れになった帽子を手に取り、さっき美瑛ちゃんとここで話していたことが、既に遠い昔のように感じていた。
明日にはもうここを去らなければならない。
美瑛ちゃんにもう会えないと思うと、胸がギューっと締め付けられた。
まだ、知り合って一週間しか経ってないのに、二人で話せるようになって三日しか経ってないのに、僕の中では美瑛ちゃんの存在がどんどん大きくなっていた。
『ここで知り合って先があると思うか? 清里だよ? 遠距離とか無理、無理』
萱が言った言葉を反芻する。
確かに、東京と清里でどうしようというんだ。
まだ、僕たちは高校生だというのに。
美瑛ちゃんの冷たい手の感触がまだ残っている。
僕は未練がましくも、感触が残っている掌を見つめる。
「はー、なにアオハルやってんだよ!」
自分でツッコミを入れると、林から出てログハウスに戻り始めた。
好きなんだよな、これは……いや、似た境遇にただ共感しているだけなのかな……女の子の免疫がないから、共感を好きと勘違いしているのかな……
頭の中がそのことだけで占拠されている僕は、恥ずかしいほど思春期だった。
「島谷くん!」
いきなり声を掛けられて、顔を上げると、美瑛ちゃんが立っていた。
僕は心の準備ができていなくて、思わず後ずさりしていた。
「え、なんで? 後ずさりしてない?」
「え、い、いや。ビックリしちゃってさ」
頭の中を占拠していた人が、目の前に立っているなんて!
自然に話せていた自分は、もう今はいない。
挙動不審な自分が、ここにいる。
「雨が止んだから、クッキーを塚さんに持って行こうと思ってたの」
「あ、ああ。そっか。あれ美味しかった」
「……なんかヘン! 私がキャップ被ってるから?」
「え、ち、違うよ。まさか、ここで美瑛ちゃんに会うとは思ってなかったから」
いちいち、どもる自分が情けないけど、普通にできない……
美瑛ちゃんはキャップを脱ぐと、あの大きな目を細めて僕を見ている。
「な、何?」
「なにかがおかしい。さっきはあんなに色々話してくれたのに……私がヘンなこと言った?」
「言ってないよ! 美瑛ちゃんは何も悪くないよ……」
「そ。ならいいや。行こう」
僕らは並んで歩いた。
僕の前ではキャップを脱いでくれる。
僕には何の躊躇もなく、本当の美瑛ちゃんを見せてくれる。
僕はそんな美瑛ちゃんが……
「……好きだ」
「え?」
「僕は美瑛ちゃんが好きだ。僕に隠さず自分を見せてくれる美瑛ちゃんが好き」
気が付いたら口に出していた。
取り繕う暇もなく、自然と口から言葉が出ていた。
でも、全然ロマンチックじゃない!
アニメや漫画で見るような、キュンキュンするようなシチュエーションからはかけ離れていた。
だから、怖くて隣にいる美瑛ちゃんに顔を向けることが出来なかった。
美瑛ちゃんの反応はない。
僕の言葉は、宙を彷徨っていた。
「……明日、東京に帰るんだ。だから、後悔したくなくて言っちゃったけど、気にしないで」
「気にする!」
「え?」
「明日帰るなんて聞いてないし……もう会えないのにそんな告白されたらどうしたらいいかわかんない!」
「そ、そうだよね……」
僕は相手の気持ちも考えずに、自分が伝えたい気持ちを押し付けていただけだった。
これが恋愛初心者の僕だ。
「……さようならの代わりなの?」
「何が?」
「好きって。私のことを好きって」
「え、いや、そうじゃなくて……。好きだから好きって言ったんだ。ごめん」
「さようならは言いたくない」
「そっか……」
美瑛ちゃんの足が止まった。
もうログハウスは目の前だ。
「……私も好き。島谷くんのこと好き」
「え!」
そう言うと、美瑛ちゃんはあの俊足でログハウスまで一気に走って行った。
ひとり残された僕は、美瑛ちゃんの言葉を噛み締めていた。



