晴れた日でも雨傘をさして

 美瑛ちゃんはスマホを僕に差し出した。
 僕は、美瑛ちゃんの隣に座りそのスマホを受け取る。
 画面には、制服を着たキレイな女の子のTikTokが流れていた。

「え、これは何?」
「……私」
「え! これ、美瑛ちゃんなの!」

 今まで生きてきた中で、一番といっていいほどの大きな声を出していた。
 動画に映っている女性アイドルのような整った顔と、思わず隣にいるキャップを深く被った美瑛ちゃんの顔とを交互に見比べる。
 こんなにキレイなのか……

「ヘンだと思わない?」
「え、な、なにが?」
「その動画。ずっと右側の顔しか映してないの」
「あ……確かに」

 右側の顔と、少し斜めにカメラに向いている顔のみ。
 真正面の顔は映っていない。
 それでも、キレイな顔に変わりはない。
 でも、この動画と美瑛ちゃんのさっき言った言葉と何が結びつくのかまるでわからなかった。

「すごく、キレイだね……」

 僕の言葉に、わかりやすいほど大きなため息を吐かれた。
 おもむろに、美瑛ちゃんは頑なに脱がなかったキャップを取ると、僕に顔を向けた。

「あ……」

 動画に映っていたよりも、もっとくっきりとした大きな瞳に、吸い込まれそうになる。
 でも……
 僕は視線を少し動かした。

「そう。左側のこめかみにあるでしょ」
「う、うん……」

 美瑛ちゃんの左側の眉の端には、小さな青い痣があった。
 どこのパーツも整っている中、その青い痣も小さいながらもくっきりと目に入る。
 それを隠したくて、キャップを被っていたのか……

「これはね、私のシンボルなの」
「へ?」
「全然恥ずかしくないし、むしろ私の個性のひとつなの」

 僕が思っていたことと違う言葉を吐かれた。

「でもね、皆が言うの。キレイにメイクすればその痣も消せるからとか、キレイな目鼻立ちしてるから、痣なんて気にならないわよとか。違うの、私は隠したくないの。この痣でいじめられたとしても、それも含めて私なの!」

 それは叫びのようだった。
 決して感情的にはなっていないのに、むしろ淡々と話しているのに、僕には悲鳴のように聞こえた。
 その悲鳴に、僕自身が共鳴してしまって、胸の奥がざわついている。

「……皆ね、善意で言ってくれてるの。その動画も、高校で文化祭のPR動画を撮影するから出てって言われて。でも、いざ撮るとなったら左側は撮らないからって。気を遣ってくれているの。わかってる。でも、私にとっては悪意としてしか受けとれないの……」

 本当の自分を理解してもらえない――だから隠す。
 そこに僕は共鳴してしまった。

「だから学校に行かなくなったの?」
「……疲れちゃった。ルッキズムっていう言葉を知って。これって私も当てはまるなって思って。そんなことで、自分の価値を決められたくないなって。でもいじめられてるわけでもないから、親には理解できないみたい」
「うん……わかるよ」

 僕と美瑛ちゃんとでは、事の発端は違うかもしれない。
 でも、『顔』というパーツひとつで自分を否定されたことは共通している。
 キャップを脱いで、顔を上げ、正面を見据えながら、はっきりと意思表示をする美瑛ちゃんが眩しく見えた。

「美瑛ちゃんは、カッコいいね」
「私が?」
「うん。自己否定しないし、自分自身をちゃんと持ってる。僕は、自分の気持ちを表現するのが下手だから」
「……でも、島谷くんは絵でちゃんと表現してるでしょ。私は理解したよ」
「……」

 美瑛ちゃんが、僕に顔を向けて微笑んだ。
 鼓動が早くなり、その音が美瑛ちゃんに聞こえるのではないかと内心焦っていた。
 でも、そのキレイな笑顔から目を離すことが出来なかった。