「絵って、どれくらいで完成するものなんだ?」
部屋に戻ると萱に言われた。
さっきの、絵を完成して東京に戻るという先生の言葉が気になったのかな?
「うーん。色をつけてすべて完成させるには一ヶ月ぐらいかな……」
「じゃあ、この家を出るのは一ヶ月後ってことか?」
「え、いや、それは無いよ……」
一ヶ月もここに滞在することは想定していない。
じゃあ、いつ東京に戻るんだ、と問われても答えはない。
萱はスマホの画面を見ている。
「そっか……無いのか」
スマホから顔を上げると、萱は僕に顔を向けた。
その表情からは何も読み取れない。
いつも、ニヤけているか、少しエラそうに余裕ぶった顔をしているのに、今日に限っては、無表情のまま。
その瞳には、目の前にいる僕が映っているのかさえもわからない。
「……萱?」
僕は少し、怖くなっていた。
常にふざけているのに、どうしてそんなに無なのか……
「俺は家に帰りたくない。一ヶ月でも、二ヶ月でもここに居たい」
「な、何言ってるんだよ!」
さっきまで無表情だった萱が、振り絞るような声を出して、思いつめるような表情をした。
スマホを握る手にも力が入っているのがわかった。
僕は情けないほど、うろたえてしまった。
だって、こんなに切羽詰まった萱を見たことがなかったから。
「え、え、どうしたんだよ。何があるんだ、萱?」
「……お前が隠してるっていうから言ったまでだよ」
「隠してるって……親に連絡を入れないことと、帰りたくない理由ってこと?」
いきなり、萱は脱力したように仰向けに寝そべった。
「はーあ、面倒くさっ」
「な、なにが」
「全部。親も学校も勉強も、全部だよ!」
僕は萱が何かを隠している理由を知りたかった。
でも、いきなりの萱の告白に、上手くリアクションをとることが出来ない。
萱は、こんな風に投げやりなことを言う奴じゃなかったし、全て用意周到に準備して完璧にこなす性格だったから。
僕は、座ったまま、テーブルをどかして、仰向けになっている萱と対峙した。
「いざとなると、どう扱っていいか迷ってるだろ?」
「え……うん。萱がこんな風に投げやりなところ見たことなかったから。学校が嫌なのか?」
萱は仰向けのまま、ずっと天井を見ている。
僕も、萱の隣に仰向けになって寝そべった。
同じ天井を見ている。
ログハウス特有の入り組んだ木の梁が美しかった。
隅の方に蜘蛛の巣が張っているのを見つけた。
「勉強は好きだ。ディベートも好き。クラスの友達といるのも楽しい。でも、俺は期待されてない」
「そんなことないだろ? ディベートで全国2位に入った時に校長に呼ばれてたし、学校のサイトにも紹介されただろ。それに、相馬先輩にも認知されてたし。少なくとも僕と比べたら雲泥の差だよ」
「……お前にはウルさくても心配してくれる親がいるじゃん」
「え……」
「俺が今、どこで何してるかなんてウチの親は何にも気にしてないよ。だから、既に四日も家に帰ってないのに、何の連絡もこない」
「!」
そういうこと?
萱は唸るような、低い声で淡々と話している。
「どうして? 息子が家に帰ってないのに、そんなことある?」
「あるんだよ。親にとって大事なのは長男だけで、次男なんておまけみたいなもんだよ。誰にも言えなかった。いや、言いたくなかった。俺は親からも学校からも期待されている人間って思わせておきたかった。でも、言っちゃったな……」
僕は横にいる萱に顔を向けられなかった。
人のことなのに、自分のことのように胸が締め付けられている。
親の過干渉も、無関心も、結局、僕たちにとっては同じことだ。
「……だから僕の家出に乗っかったのか?」
「そう。俺が家出したらどんな反応すっかなーって思ったけど、想像通りだったよ」
「……そんな寂しいこと言うなよ」
僕は自分のこと以上に悲しくなって、目尻がじんわりと熱くなった。
部屋に戻ると萱に言われた。
さっきの、絵を完成して東京に戻るという先生の言葉が気になったのかな?
「うーん。色をつけてすべて完成させるには一ヶ月ぐらいかな……」
「じゃあ、この家を出るのは一ヶ月後ってことか?」
「え、いや、それは無いよ……」
一ヶ月もここに滞在することは想定していない。
じゃあ、いつ東京に戻るんだ、と問われても答えはない。
萱はスマホの画面を見ている。
「そっか……無いのか」
スマホから顔を上げると、萱は僕に顔を向けた。
その表情からは何も読み取れない。
いつも、ニヤけているか、少しエラそうに余裕ぶった顔をしているのに、今日に限っては、無表情のまま。
その瞳には、目の前にいる僕が映っているのかさえもわからない。
「……萱?」
僕は少し、怖くなっていた。
常にふざけているのに、どうしてそんなに無なのか……
「俺は家に帰りたくない。一ヶ月でも、二ヶ月でもここに居たい」
「な、何言ってるんだよ!」
さっきまで無表情だった萱が、振り絞るような声を出して、思いつめるような表情をした。
スマホを握る手にも力が入っているのがわかった。
僕は情けないほど、うろたえてしまった。
だって、こんなに切羽詰まった萱を見たことがなかったから。
「え、え、どうしたんだよ。何があるんだ、萱?」
「……お前が隠してるっていうから言ったまでだよ」
「隠してるって……親に連絡を入れないことと、帰りたくない理由ってこと?」
いきなり、萱は脱力したように仰向けに寝そべった。
「はーあ、面倒くさっ」
「な、なにが」
「全部。親も学校も勉強も、全部だよ!」
僕は萱が何かを隠している理由を知りたかった。
でも、いきなりの萱の告白に、上手くリアクションをとることが出来ない。
萱は、こんな風に投げやりなことを言う奴じゃなかったし、全て用意周到に準備して完璧にこなす性格だったから。
僕は、座ったまま、テーブルをどかして、仰向けになっている萱と対峙した。
「いざとなると、どう扱っていいか迷ってるだろ?」
「え……うん。萱がこんな風に投げやりなところ見たことなかったから。学校が嫌なのか?」
萱は仰向けのまま、ずっと天井を見ている。
僕も、萱の隣に仰向けになって寝そべった。
同じ天井を見ている。
ログハウス特有の入り組んだ木の梁が美しかった。
隅の方に蜘蛛の巣が張っているのを見つけた。
「勉強は好きだ。ディベートも好き。クラスの友達といるのも楽しい。でも、俺は期待されてない」
「そんなことないだろ? ディベートで全国2位に入った時に校長に呼ばれてたし、学校のサイトにも紹介されただろ。それに、相馬先輩にも認知されてたし。少なくとも僕と比べたら雲泥の差だよ」
「……お前にはウルさくても心配してくれる親がいるじゃん」
「え……」
「俺が今、どこで何してるかなんてウチの親は何にも気にしてないよ。だから、既に四日も家に帰ってないのに、何の連絡もこない」
「!」
そういうこと?
萱は唸るような、低い声で淡々と話している。
「どうして? 息子が家に帰ってないのに、そんなことある?」
「あるんだよ。親にとって大事なのは長男だけで、次男なんておまけみたいなもんだよ。誰にも言えなかった。いや、言いたくなかった。俺は親からも学校からも期待されている人間って思わせておきたかった。でも、言っちゃったな……」
僕は横にいる萱に顔を向けられなかった。
人のことなのに、自分のことのように胸が締め付けられている。
親の過干渉も、無関心も、結局、僕たちにとっては同じことだ。
「……だから僕の家出に乗っかったのか?」
「そう。俺が家出したらどんな反応すっかなーって思ったけど、想像通りだったよ」
「……そんな寂しいこと言うなよ」
僕は自分のこと以上に悲しくなって、目尻がじんわりと熱くなった。



