晴れた日でも雨傘をさして

 お昼ご飯を食べると、また畑に行って草刈りなどの手入れをした。
 塚田先生とよしかずさんは、肥料を撒いたり、収穫もしていた。
 本当にやることは幾らでもある。
 でも、僕は楽しかった。
 萱も、楽しそうに次は何をすべきかを逐一、塚田先生に聞いていた。
 草を刈っていると、いつの間にか美瑛ちゃんが来ていた。

「こうやると、効率的に刈れるよ」
「え、あ、ありがとう」

 草の根元を持つと、勢いよく抜いて行く。
 正に、プロの手つきで次から次へと草を刈っていた。

「やっぱり、上手いねー」

 萱は自然に声を掛けると、真似て抜いて行く。
 僕たちは余計なことは話さずに、競争をするように草を刈り始めた。
 帽子を被っていても、直射日光は暑い。
 朝は、あんなに気持ち良かったのに。

「美瑛ちゃんは、どうして塚田先生の畑も手伝ってるんだ?」

 萱の質問に、僕も不思議に思っていた。
 自分の家の畑だけでも、仕事があるはずなのに。

「……楽しいから」
「え? 何が?」
「……塚さんの話」
「話?」

 美瑛ちゃんはこくんと頷いた。
 相変わらず、キャップに隠れて顔がよくわからないけど、話が楽しいってどういうこと?

「おおー、若い三人が頑張ってるなー。すごい刈り込んでくれたな。もう、いいぞ。今日は引き上げよう。美瑛ちゃんも一緒に、お茶飲もう」

 塚田先生に言われて、あらためて辺りを見回すと、来た時よりもかなりキレイになっていた。
 達成感……自分たちがこれだけ草を刈ったという事実に、疲労感も薄れていた。

🔸🔸🔸

 よしかずさんがさっき作ったブルーベリージャムを、美瑛ちゃんが作ってきたスコーンにつけて食べた。

「う、美味い! これなんていうパン?」
「……パンじゃなくてスコーン」
「スコーン?」

 萱がポロポロとスコーンの生地をこぼしながら、豪快に食べている。
 生地はホロホロしていて、ほのかにバターの甘みがする。
 ブルーベリージャムが加わるとホロホロからしっとりとした食感に変わって、僕も気がつくとすでに3個もお腹の中に消えていた。
 
「お前ら、食い意地張り過ぎだぞ!」
「そういう塚さんも、食べ過ぎだよ」

 美瑛ちゃんが用意したスコーン12個はあっという間に無くなった。
 果たして、美瑛ちゃんの口には入ったのだろうか?

「ごちそうさまでした。美味しかった」
「いつも、美瑛ちゃんありがとう」

 美瑛ちゃんは黙って頷くと、全員のお皿を持ってキッチンに行こうとする。

「いいよ、僕が洗うから」
「私が洗う。洗い物は慣れてるから」
「でも、美瑛ちゃんは作ってきてくれたんだから、僕がやる」

 ただ、お皿を洗うだけなのになぜか、僕は美瑛ちゃんと争っていた。

「広いんだから、二人でやれよ。どっちかが洗って、どっちかが拭けばいいだろ」

 塚田先生のもっともな意見を聞いて、僕たちはそれに従った。

「二人いるなら、俺は今回パスするなー」

 萱が呑気な声を出していた。
 美瑛ちゃんが洗い、僕が拭くことにした。

「……絵描いてるの?」
「え? ああ、絵? そう、どうして」
「塚さんが見せてくれた」
「マジ? 美瑛ちゃんにも見せてたんだ……なんでだよ」
「……どうしてどの絵も傘なの?」
「あ……」

 よしかずさんは、3枚の絵を見せてもらったと言った。
 塚田先生が選んだ絵は、全て傘を描いた絵だったということなのか?
 僕は、いつからか雨傘の絵を好んで描くようになった。
 
「……どうしてかな」
「自分でわからないの?」
「うん……」
「……私はわかるよ」
「へ?」

 美瑛ちゃんは、泡がついた皿をシンクに置くと、初めて僕に対して顔を向けた。

「傘で隠したいことがあるから、でしょ」

 僕は喉に何かが詰まるような、息苦しさを感じた。
 うまく飲み込めなくて、言葉を出すことができない。

「……私もそうだから」

 美瑛ちゃんの言葉にもっと息苦しくなっていた。
 水の勢いで、皿の上の泡が溶けて流れていく。
 
「また、絵見せてね」

 美瑛ちゃんは、水を止めると濡れた手をタオルで拭いてキッチンから出て行った。
 僕は水滴がついた積まれた皿をただ見つめていた。