「おー、良く来たなー」
バスの終点で下車すると、真っ黒に日焼けした塚田先生がニコニコして立っていた。
ただでさえ、野性的だったのに黒くなり、無精ひげも濃くなって、とても学校の先生には見えなかった。
「こんにちは。よろしくお願いします」
僕と萱は深く頭を下げた。
「そんな、かしこまるな。ここでは、教師と生徒じゃないから。じゃあ、行こうか」
駐車場に向かうと、塚田先生は誰かに手を挙げた。
その人は小さなトラックの前に立っていた。
僕と萱は顔を合わせた。
「誰だろ?」
「すごく背が高いな……」
背の高い萱が言うほど、その人は白くて、細くて、ひょろりとしていた。
「よしかず! 悪いな」
「大丈夫です」
『よしかず』と呼ばれたその人は、塚田先生に対して満面の笑みを浮かべた。
「こ、こんにちは」
「いらっしゃい」
僕たちにも、同じような笑顔を向けてくれたことで、少し緊張がほぐれた。
「ウチの生徒の、島谷と萱。こいつは、俺と一緒に農作業しているラム・ガーヤッ」
「へ? ら、らむ?」
さっき、よしかずって言っていたのに?
っていうか、日本の人じゃないのか?
「はじめまして。僕は香港人です。ラム・ガーヤッは広東語の読み方で、漢字だと林に嘉という、えーと何と言いますか?」
「ああ、あまり日本では使わないけど、良いという意味の嘉賞とかに使われる漢字に、一、二、三の一と書いて、林嘉一。でも、訓読みで俺はよしかずって呼んでるんだよ」
「はぁー」
正直、僕は困惑していた。
香港の人で、塚田先生と一緒に農作業をしていて、とても日本語が上手で、初対面の僕たちに対してニコニコと笑顔を向けてくれていて。
あまりにも、多くの情報が一気に入ってきて、消化ができない。
でも、隣に立っている萱は何故かニコニコしている。
「你好! 我是萱高史。多多指教」
「你好、你好。うわー! すごい。塚さんの生徒さんは優秀ですね」
「萱、お前すごいな」
「でも、香港なら広東語だから微妙に違いますよね?」
「それもわかるんですね。今度教えます」
「多謝、多謝」
なんだか、三人で盛り上がっている中、僕はただ口を開けて見ているだけだった。
萱が学ぶことを好きなのは知っていたけど、まさか中国語までこんなに普通に口から出てくるとは。
僕はちょっと、面白くなかった。
「島谷はあの絵を描いた子だよ」
「え?」
「ああ、あの雨に濡れたあじさいと雨傘の絵ですね。僕は感動しました」
ストレスが溜まった衝動で描いた絵。
あじさいなのに、明るい色を使わずダークな色合いで塗り固めた絵。
暗くて、僕は好きじゃなかったけど塚田先生には褒めちぎられた。
「え、見たんですか?」
「俺がスマホで撮ったの覚えてるか? あれをよしかずに見せたんだ」
「いつか、本物見せてください」
「は、はい……」
先生以外にも褒められて、さっきまで拗ねていた気持ちが上向くなんて、自分の単純さに呆れた。
「じゃあ、行こうか。あ、軽トラは二人しか乗れないから、一人は俺と、一人はよしかずの方に乗ってくれ」
「俺がよしかずさんの方に乗ります。広東語教えて欲しいので」
「好、好」
「じゃ、島谷こっち乗って」
土の匂いがする助手席に乗ると、これから起きることに少し期待が膨らんだ。
バスの終点で下車すると、真っ黒に日焼けした塚田先生がニコニコして立っていた。
ただでさえ、野性的だったのに黒くなり、無精ひげも濃くなって、とても学校の先生には見えなかった。
「こんにちは。よろしくお願いします」
僕と萱は深く頭を下げた。
「そんな、かしこまるな。ここでは、教師と生徒じゃないから。じゃあ、行こうか」
駐車場に向かうと、塚田先生は誰かに手を挙げた。
その人は小さなトラックの前に立っていた。
僕と萱は顔を合わせた。
「誰だろ?」
「すごく背が高いな……」
背の高い萱が言うほど、その人は白くて、細くて、ひょろりとしていた。
「よしかず! 悪いな」
「大丈夫です」
『よしかず』と呼ばれたその人は、塚田先生に対して満面の笑みを浮かべた。
「こ、こんにちは」
「いらっしゃい」
僕たちにも、同じような笑顔を向けてくれたことで、少し緊張がほぐれた。
「ウチの生徒の、島谷と萱。こいつは、俺と一緒に農作業しているラム・ガーヤッ」
「へ? ら、らむ?」
さっき、よしかずって言っていたのに?
っていうか、日本の人じゃないのか?
「はじめまして。僕は香港人です。ラム・ガーヤッは広東語の読み方で、漢字だと林に嘉という、えーと何と言いますか?」
「ああ、あまり日本では使わないけど、良いという意味の嘉賞とかに使われる漢字に、一、二、三の一と書いて、林嘉一。でも、訓読みで俺はよしかずって呼んでるんだよ」
「はぁー」
正直、僕は困惑していた。
香港の人で、塚田先生と一緒に農作業をしていて、とても日本語が上手で、初対面の僕たちに対してニコニコと笑顔を向けてくれていて。
あまりにも、多くの情報が一気に入ってきて、消化ができない。
でも、隣に立っている萱は何故かニコニコしている。
「你好! 我是萱高史。多多指教」
「你好、你好。うわー! すごい。塚さんの生徒さんは優秀ですね」
「萱、お前すごいな」
「でも、香港なら広東語だから微妙に違いますよね?」
「それもわかるんですね。今度教えます」
「多謝、多謝」
なんだか、三人で盛り上がっている中、僕はただ口を開けて見ているだけだった。
萱が学ぶことを好きなのは知っていたけど、まさか中国語までこんなに普通に口から出てくるとは。
僕はちょっと、面白くなかった。
「島谷はあの絵を描いた子だよ」
「え?」
「ああ、あの雨に濡れたあじさいと雨傘の絵ですね。僕は感動しました」
ストレスが溜まった衝動で描いた絵。
あじさいなのに、明るい色を使わずダークな色合いで塗り固めた絵。
暗くて、僕は好きじゃなかったけど塚田先生には褒めちぎられた。
「え、見たんですか?」
「俺がスマホで撮ったの覚えてるか? あれをよしかずに見せたんだ」
「いつか、本物見せてください」
「は、はい……」
先生以外にも褒められて、さっきまで拗ねていた気持ちが上向くなんて、自分の単純さに呆れた。
「じゃあ、行こうか。あ、軽トラは二人しか乗れないから、一人は俺と、一人はよしかずの方に乗ってくれ」
「俺がよしかずさんの方に乗ります。広東語教えて欲しいので」
「好、好」
「じゃ、島谷こっち乗って」
土の匂いがする助手席に乗ると、これから起きることに少し期待が膨らんだ。



