キミの1番にはなれないと思ってたけど、


夏休みに入ってすぐ。

俺たちは初めて2人で出かけた。

いわゆる、初デート。

……なんて言葉を使うだけで、未だに少し恥ずかしさが勝る。


どこへ行くかも、何をするかも。

前の日から2人で悩んだりして。

でも結局、駅で待ち合わせをして、街をブラブラ歩いて、ランチして。

特別なことをしたわけじゃない。

それでも、

隣に深町がいるだけで、こんなにもいつもと違う1日になるんだって気付かされた。

*

あの初デートから数日が経った。

その間にも何度か会ったけど、いまだに友達の時とは明らかに違う距離感に戸惑っていた。

でも嫌じゃない。

…こんなことを考えてしまうくらい恋愛にうつつを抜かしているのがバレたのか、

お母さんに半ば強制的に、

「外で勉強でもしてきたら?」と追い出され、仕方なく図書館に行った。


すると、バッタリ田中さんに出会った。

お互いに勉強した後に、

1回切り上げてランチに誘われたのでついていくと、まくし立てられるように問い詰められた。


「で?」

『……うん?』

「夏休み!会ってんでしょ」

『まぁ…そうね』

「え、じゃあ…最初から聞きましょうか」

『なんの?(笑)』

「初デートに決まってんでしょ」

『……なんでそんな楽しそうなの』

「だって気になるじゃん」

田中さんは笑っている。


俺は少しだけ照れながら、あの日のことを話した。

待ち合わせたときのこと。

何を食べるかで少し迷ったら、選択肢を聞かれて、それぞれ頼んでくれて、分け合ったこと。

帰り道、くだらない話をして笑ったこと。

そして。

初めて、深町と手を繋いだこと。


「……そっか、いいね…」

『ふふ、恥ず』

「え、てかさ、今さらなんだけど、瀬良ってなんで深町のこと、好きになったの?」

『今さらだな』

「いやぁだって、理由は前に聞いたけど、きっかけってなんだったのかなって」

『んー……』

少し考える。

『落とした消しゴム拾ってくれたんだけどさ、なんか前にも見たことあんなって既視感あって』

「え、それで!?」

『俺らさ、中学の試験会場で会ってたんだよ』

「え!なにそれ、ロマンティック!」

『そうか?まぁ、で、そっからなんとなく見るようになったのがきっかけかな』

「へぇ、、ドラマみたい……あれ?」

田中さんが目を丸くする。

「それ、深町知ってんの?」

『ああ、こないだ言ったよ』

「うわ!反応は?」

『言われるまで気づいてなかったらしい』

「えーー!」

田中さんが思わず笑う。

「うわぁ〜それでこそ深町だわ〜。最後まで裏切らないな〜」

『なんだよ、それ(笑)』

「だって、あの深町だよ?」

『どの深町だよ(笑)」


「まぁ…でも、なんかいいね」

『……何が?』

「だってさ、最初は消しゴム拾ってもらっただけだったんでしょ?」

『うん』

「それがこんなことになるんだもん」

田中さんが、少し嬉しそうに笑った。

「人生、何があるか分かんないね」

『……ほんとだな』


そう答えると、田中さんがフッと笑う。

いつもの明るい笑顔とは少し違っていた。

どこか、晴れたような顔。

「なんかさ」

『…うん』

「瀬良たち見てたら、好きって良いなって、改めて思ったよ」

『……』

「なんか…恋っていいね」

そう言って笑った田中さんを見て。

俺も自然と笑っていた。


深町を好きにならなかったら。

きっと、田中さんともこんなふうに仲良くなることはなかった。

あのとき、席替えをして。

消しゴムを拾ってもらって。

少しずつ深町と話すようになって。

まさか、こんなところまで繋がっていくなんて。

あの頃の俺は、想像もしていなかった。


でも。

こうしてできた縁を、

これからも大切に繋いでいけたらいい。

心から、そう思った。



あ、余談だけど、佐藤にはあえて報告しなかった。

だってアイツ、慧とは違って、多分、もう随分前から気付いてる。

体育祭のときから、俺たちのことをよく見ていたから。

夏休み入る前の、付き合ってすぐの昼休みだって。

俺と深町が並んで、廊下の窓際にもたれながら話していると、教室に居る佐藤と目が合った。

佐藤は一瞬だけ俺たちを見て。

ニヤッと笑った。

それだけ。

何も言わない。

俺も、何も言わなかった。

でも、それで十分だった。



この恋を通して。

俺はいろんなことを知った。

好きな人ができること。

誰かを大切に思うこと。

そして。

大切なモノは、ひとつじゃないってこと。

恋だけじゃない。

友達だって。

気づかないうちに、俺のことを見てくれていた人たちだって。

全部、俺にとって大切なモノだった。

だから。

これから先も。

この人たちとの時間を、大切にしていきたい。



放課後に一緒に帰りながら、そんなことを考えていると。

隣から、そっと手が伸びてきた。

指先が触れる。

少し驚いて顔を上げると、深町がこちらを見ていた。

何も言わない。

ただ、少しだけ照れたように、空いてる手で頭を掻いて。それから下向いて笑った。

そのまま、俺の手を握った。

俺も握り返す。

目が合う。

そして。

2人で、笑った。

あの夏。

俺は、恋をした。

恋だけじゃない、大切なモノをたくさん見つけながら。