キミの1番にはなれないと思ってたけど、

ーーーーFukanachi Sideーーーー

模擬店でチョコバナナとミルクティー、アイスコーヒーを買った。

瀬良が居るはずの場所へ向かう。

その姿を捉えた瞬間、


……誰かと話してる。

女の子だった。

立ち止まって、声が聞こえる位置で物陰に隠れた。

別に、話しているだけなら何もおかしくない。

そう思った。

けれど、

人の声が重なる中で、その会話の一部だけが妙にはっきり聞こえた。


「めっちゃ好きなんだね?」

「……うん。そうだね…めっちゃ好きだわ」

胸の奥が、嫌な音を立てた気がした。

誰のことかなんて、聞かなくても分かってしまった。

……久世や。

そのあと、女の子が笑いながら去っていく。


俺は、何も聞かなかったフリをして瀬良の方へ歩いた。

『瀬良』

「……深町?」

瀬良が振り返る。

その顔を見た瞬間、さっきの会話が頭の中に蘇った。

「……お、おかえり」

『うん、ただいま、これ買ってきた』

「うわぁ!チョコバナナとミルクティー!最高の組み合わせ♪」

嬉しそうに受け取った瀬良を見て、

安堵が半分、モヤモヤな気持ちが半分のまま立ち尽くしていると、少し不思議そうに俺を見た。


「……どうした?」

『いや、』

なんでもない。

そう言えばいいだけなのに。

口から出たのは、別の言葉だった。

『さっき、誰と話してたん?』

「え?」

『女の子』

「ああ……」

瀬良の顔が、一瞬で変わった。

「……もしかして、聞いてた?!」

その反応を見た瞬間。

やっぱりそうなんや。

そう思った。


『……少しだけ』

「どこから?」

『……好きって言ってたとこ』

瀬良が固まる。

その顔を見て、胸の奥が苦しくなった。

きっと、久世のことを好きだと知られるのが恥ずかしいんやな…

そう思ってしまった。


顔を真っ赤にしながら頭を抱えている姿に問う。

『……瀬良』

「な、なに?」

『好きな人って、』

一度、言葉を止める。

それでも、もう聞かずにはいられなかった。


『久世…やんな?』

「……は?」

弦の目が丸くなる。

『……え、?』

「いや、こっちこそ、え?なんで久世?」

『だって……』



何年もずっと一緒にいて。

今日も。

思い知らされた距離感。

それに、さっき。

『……ずっと、そうやと思ってた』

「……」

『瀬良が好きな人』

瀬良が何か言おうとする。

けれど、言葉にならない。

俺も、続きが出てこなかった。

ただ、2人の間に妙な沈黙だけが残った。

やがて瀬良がぽつりと言った。


「……違うよ」

『え』

「俺が好きな人は……久世じゃない」

思考が止まる。

『……そっか』


それ以上は聞く勇気が出なくて。

ただ、困ったように俺を見てる。

その視線を受けているうちに。

まさか、という考えが浮かんだ。


…いや、

そんなはずない。

俺がそう都合のいい解釈をしたいだけだ。

そう自分に言い聞かせる。

けれど。


『……俺、なん?』

弦の目が大きく開いた。

それだけで、十分だった。


「……なんで?」

『なんでって』

ここまで来たら、もう誤魔化せなかった。


『俺……瀬良が好きやから』

「……え?」

『瀬良の好きな人、俺やったら良いなぁって』

瀬良が黙る。


俺も、もう何を言えばいいのか分からない。

けれど、少しずつ繋がっていく。

長谷部と俺。

久世と瀬良。

お互いが勝手に、相手の隣にいる誰かを見て。

自分はその次なんだと思っていた。


「……俺、長谷部のこと好きなんだと思ってた」

『俺は……久世だと思ってた』

「……そっか」

『うん』

しばらく、2人とも何も言わなかった。

それから弦が、少しだけ笑った。

「……俺ら、ずっと勘違いしてたんだな」

『……みたいやな』

今まで抱えていたものが、一気にほどけていくようだった。


長谷部が大切なのは、本当だ。

久世が大切なのも、本当なんだろう。

でも。

それと、好きという気持ちは別だった。


『……改めて言わせて』

瀬良を見る。

『俺……瀬良のこと、好き』

瀬良が息を呑むのを見て、フッと笑みが溢れた。


『いつからかは、正直分からんねん。

でも、瀬良が笑ってると嬉しかったし、

疲れてたら気になった。

誰かと一緒にいると、なんか落ち着かんかった』


1つずつ思い返す。

消しゴムを拾った日。

二人三脚の練習。

飴を渡したとき。

体育祭でバトンを渡した瞬間。

そして。

久世と一緒にいる瀬良を見たときの、あの気持ち。

全部、今なら分かる。


『……気付かんうちに好きやったんやと思う』

弦はしばらく俯いていた。

やがて顔を上げる。


「俺も」

『……え?』

「俺も、深町のことが好き」

今度こそ、言葉が出なかった。

弦は少し照れたように笑った。


「この気持ちが何なのかずっとわからなくて、」

『…うん』

「でも、深町が長谷部といると、なんか嫌だったし、」

「……」

「でも、長谷部は深町の大事な友達だから、俺がどうこう言えることじゃないって思ってた」

『……俺も』

「え?」

『久世』

「……ああ」

『同じやった』

2人で顔を見合わせる。

今まで何度もすれ違っていた理由が、ようやく分かった。


『……ほんま、遠回りしたな』

「ははっ、したね〜」

『もっと早く言ってくれたらよかったのに』

「それ、深町もじゃん」

『……確かに、でも先に言うたん俺やからな?』

「…ごめんて」

弦が笑う。

その笑顔を見て。


やっぱり、これが《好き》って気持ちなんだ、って改めて思った。

ずっと近くにいたのに。


1番近くにいることを、お互いに気づいていなかった。

文化祭の喧騒は、まだすぐそばにある。

それなのに。

今だけは、周りの音が少し遠く感じた。