キミの1番にはなれないと思ってたけど、


体育祭から、2週間ほど経った。

ちなみに、あれから恋はこれといって発展せず、

友情だけは順調に育みながら、平穏な日々を過ごしていた。

季節はすっかり夏になっていて、

今日も蝉の音が鳴り止まない、騒がしい道を通って、鷹見高校の校門をくぐった。



いよいよ、文化祭当日を迎えたのだ。

3人で最寄り駅に待ち合わせて、2人が先に来ていたものの、真っ先に深町が目に入った。

…私服姿を見た時は緊張したなぁ。

たまたま会ったファミレスの時とは、

やっぱり待ち合わせしたドキドキ感も相まって、状況が違くて。

そんなことを振り返っていると。


入るなり、色とりどりの装飾や勧誘のための看板、コスプレをした男子学生たちが目に入った。

「うわ、すご」

「めっちゃ人すごいな」

「毎年こんな感じなん?」

『去年もこんな感じだったよ(笑)』

「やっぱりそうなんか」

『うん、だから1人参戦は結構気まずかったからマジ来てくれて助かってる』

「そっか、それは良かった〜、な?深町」

と長谷部は深町に肩を組んだが、本人は何故か嫌がって拒否した(笑)

拒否され、行き場を失った手をそのまま自分の頭に乗せ、

長谷部が辺りを見回していると、少し先から久世が手を振っていた。


「おーい、こっち!」

『慧!』

思わず駆け寄ったら、2人も小走りでついてきてくれたようだ。

「来てくれてよかった。今日は結構回れると思う」

「ほんま?俺、自分以外の文化祭って初めてかも」

「マジ?じゃあ案内しがいあるな」

久世はそう言って、校内の案内図兼ねたパンフレットを広げた。


「まずこっちが1年の出し物。体育館でまとめて展示してて、2年はこの辺。

3年はここら辺かな、結構クオリティ高いよ。あと中庭でステージやってる」

「めっちゃ詳しいな」

「そりゃ自分の学校だし」

「それもそうか」

深町が笑う。

その隣で、長谷部も当たり前みたいに笑っていた。

2人が並んでいるのを見るのは、これで何度目だろう。

けれど。

今日は、そんなことを考えるために来たわけじゃない。

せっかくの文化祭なんだから、普通に楽しめばいい。


「環、これ見て」

長谷部に呼ばれて深町が顔を向ける。

「なんやこれ」

「お化け屋敷だって」

「……俺、そういうんええわ」

「怖いん?」

「怖ない」

「じゃあ行こうぜ」

「なんでそうなるん」

2人で言い合っている姿を見て、思わず笑う。

『深町、顔に出てる』

「何が?」

『絶対入りたくないって顔』

「……瀬良まで言うん」

『だって分かりやすいもん』

不貞腐れた様子に自然と口元が緩んだ。



こうして4人でいるのは、思っていたより楽しかった。

出し物を見たり、模擬店で食べ物を買ったり。

慧が校内の細かい場所まで案内してくれるたび、長谷部は楽しそうに相槌を打っていた。

深町はその横で真顔で頷いたり、ちょっと表情が動くのが面白くて。

自分に向けられた表情ではなく、俯瞰して見れることはあんまりなくて、

その様子を見ているうちに、いつの間にか時間が過ぎていった。



昼を少し過ぎた頃。

長谷部がスマホを確認した。

「あ、植松から連絡きた」

「当番終わったん?」

「うん、ちょっと会ってくるわ」

『俺らも行こうか?』

「いや、すぐ終わると思うし大丈夫。全然気にせず回ってていいから」

『分かった』

長谷部が人混みの向こうへ消えていく。

それを見送ったところで、慧も時計を確認した。

「俺もそろそろ当番の時間だ」

『そっか』

「1時間くらいしたら戻れると思う」

『じゃあ終わったら連絡して』

「了解。じゃあまた後で」

慧が校舎の方へ戻っていく。

気づけば、さっきまで4人だったのに、俺と深町だけになっていた。


「……2人になったな」

『そうだな』

校庭にあったベンチに腰を下ろそうとしたが、

深町は座らず、

「なんか飲み物とかデザート買ってくる」

『俺も行くよ』

「いや、大丈夫。瀬良、ここで待ってて」

『分かった』

深町はそう言って、人の流れの中へ消えていった。

1人になったベンチで、なんとなく周りを見渡す。


文化祭独特のざわめき。

笑い声。

呼び込みの声。

その中に、さっきまで聞こえていた深町の声だけがない。


……早く戻ってこないかな。

そんなことを思った、そのときだった。


ベンチに手をついて目を瞑って顔を上げていると、恐らく後ろから声をかけられた。

「あの」

『……はい?』

目を開けて振り返る。


知らない女の子が立っていた。

「あ、ごめんなさい。さっき久世くんと一緒にいましたよね?」

『久世?』

「はい。あ、私、志賀(シガ) 有希(ユウキ)っていうんですけど」

『ああ……瀬良です…』

一応礼儀として名乗り返したものの。

名前を聞いても、まだ誰なのか分からない。

そんな俺の反応を見て、志賀さんは少し慌てたように続けた。

「えっと、私、久世くんのことが気になってて」

『……え?』

「電車の時間がいつも一緒なんです。

制服でここの学校なのは分かってたから前から話してみたいなって思ってたんだけど……、

話しかける勇気が出なくて…」

『そうなんだ』

「文化祭も友達に背中押されて来て…、名前もさっき知ったくらいなんだけど」

少し照れたように笑う。

「セラくん、久世くんと仲良さそうだったから。

良かったら、協力してもらえませんか?」

『協力って……』

「私のこと、久世くんにそれとなく伝えてもらえたりとか……」


少し迷った。

けれど。

俺自身、今まさに同じように、好きな人のことで悩んでいる。

だからこそ、なんとなく言いたいことが分かった。


『俺も好きな人いるから、気持ちは分かるけど』

「え?」

『誰かに協力してもらうより、自分からその想い伝えた方がいいんじゃないかな』

「……」

『本人にも、その方がちゃんと気持ちが伝わると思うし』

志賀さんはしばらく黙って、それから小さく笑った。

「確かに」

『うん』

「私、ちょっと卑怯だったかも」

『いや!それはっ、そんなことないと思うけど』

「いや、やっぱり自分で行ってくる」

志賀さんは少しだけ背筋を伸ばした。


「当たって、挫けてくる」

『……頑張って、あ!知ってたらごめんだけどクラスは2組だから!』

「ありがとう!教えてくれて!」

『いやいや、全然』

志賀さんはそのまま行こうとして、ふと振り返った。


「でも、その人のこと、めっちゃ好きなんだね?」

『え?』

思わず聞き返す。

「だって、なんか想いが溢れてたというか」

『……』

誰のことを考えていたのかなんて、考えるまでもなかった。

『……まあ』

少しだけ恥ずかしくなって、頭を掻きながら視線を逸らす。


『うん。そうだね…めっちゃ好きだわ』

「きゃー!応援するね!」

『ちょっ、声大きいって……!』

慌てて辺りを見る。

その様子を見て、志賀さんが笑った。


「じゃあ、頑張ってね!」

『うん。そっちも』

手を振って、志賀さんと別れる。

……なんか、すごい人だったな。

そう思いながら、また目を瞑った。