そこまで思い返して。
俺はずっと、瀬良のことを見ていた。
何をしているのか。
どんな顔をしているのか。
疲れてないか心配になる。
何を言えば笑うのか。
気づけば、そんなことばかり知っていた。
それに……
瀬良には、ふと言葉をかけたくなる。
俺の発言に驚いたり。
戸惑ったり。
嬉しそうに笑ったり。
そんな姿を見るのも好きだった。
可愛いと思う。
でも。
それだけじゃない。
元気がないなら、元気になってほしい。
疲れているなら、何かしてやりたい。
緊張しているなら、大丈夫だと言ってやりたい。
俺の言葉ひとつで瀬良が少しでも安心するなら。
何度でも言ってやりたい。
……これって。
友達にも、あることなんやろうか。
『なあ、長谷部』
「ん?」
『いきなりやけど』
「うん」
どう聞けばいいのか分からなくて、少し考える。
『自分の言ったこととか、
したことに一喜一憂してるの見て……
可愛いなって思ったり』
長谷部が、いつの間にか届いたチョコパフェを食べていたスプーンの動きを止めた。
「……うん?」
『ちょっと疲れてそうやったら、声かけたくなったり。
元気なさそうやったら、元気になってほしいなって思ったりするのって』
少しだけ言葉に詰まる。
『……友達にも、あるよな?』
数秒。
目を丸くした長谷部が黙った。
それから、ニヤッと笑う。
「それはよくある『これは友達の話なんだけどな』ってやつですか〜?」
『いや』
「ん?」
『俺の話』
「……」
ふざけていた長谷部の笑顔が止まった。
「え、マジ?」
『マジ』
「……お前が?」
『俺が』
「……」
そんなに驚くことか。
長谷部はしばらく俺の顔を見ていたけれど、やがて少しだけ真面目な顔になった。
「俺が断定していいのか分かんないけど、」
『うん』
「それは……友達としてじゃなくて、恋愛感情じゃないのかな」
『……』
恋愛感情。
その言葉が、妙にすんなり胸に落ちた。
驚かなかった。
否定したいとも思わなかった。
むしろ。
今までバラバラだったものが、一気にひとつになった気がした。
目で追ってしまうこと。
笑った顔が見たくなること。
可愛いと思うこと。
もっと一緒にいたいと思うこと。
他の誰かと一緒にいると、少しだけ面白くないこと。
元気でいてほしいと思うこと。
俺の言葉で笑ってくれたら、嬉しいこと。
全部。
そういうことやったんや。
『……ああ』
声が漏れた。
「何?」
『いや』
一度、息を吐く。
それから。
自分の中で確かめるように思った。
俺。
瀬良のこと、好きなんや。
そう思った瞬間。
今までのことが、全部少し違って見えた。
その答えを知った今だからこそ。
あの日、彼を見たときのことも思い出した。
『幼馴染』
そう聞いたとき、
【……めっちゃ顔綺麗な子やったよな】なんて言った。
ただ思ったことを口にしただけだと思っていた。
でも、本当は違った。
瀬良と、どれくらい仲がいいのか。
俺の知らない瀬良を、どれくらい知っているのか。
気になって仕方なかった。
今なら分かる。
あの頃から、俺はもう嫉妬していた。
「そういや瀬良、今日誰かと飯行ってるらしい」
長谷部の言葉に、深町は顔を上げた。
誰と?という疑問は一旦置いといて、
『……え、いつの間に連絡先交換したん?』
「え、昨日。
環くんにお友達できたって聞いてホッとしたのよ、
だから情報共有のために?」
『……なんやそれ』
椅子にもたれかかって脱力した様子の俺に、
「ちなみに誰かはわかんなーい、
さっき名前挙がったから昼飯誘ったんだけど、先約があるってフラれちゃった〜」
と気になってた答えを全部言ってくれた。
でも。
思い当たる節がある。
ケイくん……だっけ、
胸の奥が、少しだけ重くなる。
彼は、瀬良の昔からの友達だ。
俺が知らない時間を、ずっと一緒に過ごしてきた。
俺よりずっと前から、瀬良の隣にいる。
……そら、敵わんよな。
そして。
昨日の体育祭で、長谷部が俺を連れて走っていったときの瀬良の顔が、ふと浮かんだ。
もしかしたら。
瀬良も、同じようなことを考えていたのかもしれない。
でも。
もしそうだったとしても。
瀬良にとって一番近いのは、俺じゃない。
何も言わなくても分かるような関係もないし。
きっと、敵わない。
……俺は、良くて2番目なんやろな。
そう思うと、少しだけ胸が痛んだ。
でも。
不思議と、嫌じゃなかった。
2番目でも。
瀬良のそばにいられるなら。
俺は、それでいい。
少なくとも、今は。

