二人三脚の練習が始まってからは、もっと瀬良を見るようになった。
右足が少し遅れる。
何度見ても同じだった。
『右足出すとき、ちょっと遅れるな』
「よく分かるな」
『そら見るやろ、ペアやし』
そう答えたけれど。
本当は、ペアだからだけじゃない。
ずっと見ていたから分かった。
俺が何か言うと、瀬良は戸惑った顔をする。
それから、少し笑う。
……またや。
その顔。
ずるいやろ。
何で俺の言ったことに、そんな嬉しそうな顔するん。
慌てて目を逸らす。
……瀬良が見てない隙を狙って、もう1回その顔をコッソリ見ようと試みたことは内緒。
前髪が乱れていれば、直したくなった。
そういえば。
そんなことも、何度もあった。
それに、見ているおかげなのか、
疲れているときも、なんとなく分かった。
いつもより口数が少ない。
ぼんやりしている。
そういう小さな違いが、なぜか目についた。
だから、声をかけたくなった。
元気がなさそうなら、元気になってほしいと思った。
そして。
あのときも。
『俺のこと見て』
二人三脚の練習中、どさくさに紛れて、そんなことを言った。
あのときは、何も考えずに口にしていた。
でも。
今思い返すと。
「……」
思わず片手で口元を覆った。
……俺、何言ってんねん。
恥ずかし。
よくあんなこと普通に言えたな。
瀬良も瀬良で、普通に聞いてたし。
……何とも思わんかったんかな。
それはそれで、ちょっと嫌やな。
自分でもよく分からない感情に、少しだけ眉を寄せる。
*
そして、体育祭前のバトン練習。
『瀬良なら大丈夫』
そう言って、頭に手を置いた。
そのとき。
「その自信どこから来んの?」
手の隙間から、瀬良が俺を見上げた。
……近。
一瞬、息が止まった。
なんや、その顔。
上目遣いって。
そんなの、意識するに決まってる。
「なんとなく?」
何でもないふりをして返す。
『適当じゃん』
「ふはっ」
思わず笑ってしまって、そのまま髪をぐしゃぐしゃと撫でた。
笑ってしまったのをごまかすのも相まって乱した髪の毛はすごいことになっていて、
『あ、すごいことになってるな』
『誰かさんがしたんですけど』
わざとらしく頬を膨らませる姿を見て、
思わず、かわいいと言いそうになった。
『ごめんごめん』
笑いながら、乱れた髪を直してやる。
指先が髪に触れる。
そのまま、少しだけ手を止めた。
……俺。
何してんねやろ。
頭を撫でて。
髪まで直して。
でも。
嫌じゃない。
むしろ。
もう少し、このままでいたい。
そう思った。
今考えれば。
あの頃にはもう。
普通の友達とは少し違う感情を、抱いていたのかもしれない。

