キミの1番にはなれないと思ってたけど、


次の日の日曜。

昨日の疲れが残っていたこともあって、ずいぶん寝ていたようだ。

かといって、特に予定はない。

明日も休みだし、今日は何をしてもいい。

…逆に何をしたらいいのか分からない。


起きたてのボッーとする頭で、

昼近くになっていたことをスマホで確かめた瞬間、

ぽこん!と通知音が部屋中に鳴り響いた。


「っ…ビックリした…」

…あ、慧からメッセージ。


[今日、暇?]

[暇すぎるくらい]

[おお、それは良かった!飯行かん?]

[急だな]

[逆に俺らちゃんと待ち合わせしたことある?]

という返信に対して、

『まあ、確かに』

誰にも返事してもらえない相槌をひとりでして承諾の連絡とともに、

お母さんに、お昼食べてくる〜と声を掛けて、

出掛ける準備をした。

ー……

待ち合わせたファミレスに入ると、慧はいつものように何食わぬ顔でメニューを眺めていた。

『よっ』

「よー、お疲れ〜、昨日どうだった?」

『疲れた』

「おー感想それだけ?」

『めっっっちゃ疲れた』

「うん、一緒だな」

慧が笑う。

こういう何でもない会話をしていると、やっぱり落ち着く。


昨日のことも、少しずつ話した。

二人三脚で足がもつれたけどなんとか耐えて1位だったこと。

悔しかったリレーのこと。

クラスのこと。

『そういや、明日も休みなんだよね』

「そうなん?」

『土曜開催だったから振替』

「ああ」

慧が少し羨ましそうな顔をする。

「いいなぁ、実質ずっと休みじゃん」

『いやいや、お前らが昨日休んだ分、俺らちょー動いてたから!その分くらい休ませてよ』

「それもそうか」

『そういうことです』

「お疲れさん」

『なんか他人事だな』

「ま、しょせん他人事だしな」

『ひど』

思わず笑う。

昨日の体育祭で感じていた胸の重さも、今は少しだけ軽くなっていた。

慧といると、昔からこうだ。

*

中学の頃、俺はバスケ部の副キャプテンをしていた。

あるとき、マネージャーの子に告白されて、

「友達でいよう」と伝えた。


…それだけのことだったはずなのに。

その子に好意を寄せていた部員たちから妬まれて。


…いつの間にかひとりだけ浮いた存在になっていた。


「どうせお前なんて、いい顔してばっかりなくせに」


そう言われても、弁解する気にはなれなかった。

マネージャーは部活を辞めてしまったけれど、

俺まで途中で辞めるのは悔しくて。

引退までの半年間、何もないフリをして笑っていた。

そんな時期に、テスト勉強のために、久しぶりに会った慧は、やつれた俺を見ても何も聞かなかった。


……ただ、いつも通り隣にいてくれた。

あのときは、それがどんだけありがたかったことか。

しばらく経ってから、ようやく何があったのかを話した。


慧は少し黙ってから、

「……頑張ったな」

と微笑んでくれた。

あんなに優しい顔して笑う慧は後にも先にもあの時だけだった。

……正直、その一言だけで張りつめていたものが少しだけほどけた気がした。

……まあ、そのあとちょうど俺の卒業式の日が、慧の学校は休みだとわかって、

「殴り込みに行く」と言い出したときは、さすがに止めたけど。


でも結局、本当に来て(笑)

そいつらに

「うちの弦が大変お世話になりました。これからは金輪際お世話になりませんので!」

なんて言ってのけた、

そのときのかっこいい背中を、俺は今でも覚えている。


だから、慧といると楽なんだと思う。

何も説明しなくても、無理に笑わなくてもいい。

昔から、そういうやつだった。

だからこそ、つい口が軽くなる。

昨日のことを話しているうちに、また深町のことを思い出した。


慧には感謝しかなくて、足を向けて眠れない。

俺が一番しんどかった時期に、何も聞かずにそばにいてくれた。


……でも、なんでか、やっぱり。

深町に対する想いとは明らかに違う《好き》なんだよな。

きっとこれから先も、慧のことはずっと大切な友達なんだと思う。

……でも、深町は違う。

深町が笑っていると嬉しい。

もっと俺のことを見てほしいと思う。

俺も、もっと深町のことを知りたいと思う。

深町がする言動で一喜一憂してるのが楽しい、

これこそ《恋》なんだって実感できる。


…深町が今、誰を好きでも。

今は、そばにいられるだけでいい。

そう思いながら、俺は慧と他愛もない話を続けた。