キミの1番にはなれないと思ってたけど、


ついに体育祭まで、あと1日になった。

放課後の教室には、まだ何人か残っていた。

黒板には明日の予定が書かれていて、教室の後ろには完成したクラス旗が立てかけられている。

「……明日か」

誰かがそう呟いた。

「早くね?」

「いや、めっちゃ練習したじゃん」

「俺、もう筋肉痛確定だわ」


そんな声が飛び交う中、俺に配分された仕事は終わったため、帰ろうかと鞄に手をかけた。

すると、

「瀬良」

『ん?』

振り返ると、大きい箱が宙に浮いていた。

『え?!なに?!』

とこっちから見えてる面の向こう側を覗くと、深町がいた。

『なーんだ、深町か…ビックリしたぁ〜…』

「驚かせてごめんやねんけど、これ、一緒に持ってくれへん?」

よくよく見ると箱に長い足が生えているように見えるその姿はなかなかにシュールだった。

でもなにより決して小柄じゃない深町でも、

すっぽり隠れているのを見て、手伝わずにはいられなかった。


「もしかして…帰るとこやった?」

『いや!全然!いいよ』

「助かる」

箱の片側を持つ。

「せーの」

2人で持ち上げる。

思ったより重い。

『……これ何入ってんの?』

「知らん」

『知らないの?』

「俺もさっき通りかかった先生に頼まれただけやし」

『雑だなぁ』

「…否定はしないわ」

『しないんかい(笑)』

2人で笑いながら、指定された教室の隅まで運んだ。

…こうして深町と並んで何かをすることが、いつの間にか当たり前になっていた。


「明日、リレーやな」

『うん』

「緊張してる?」

『今は未だ。でも本番はヤバいと思う』

「ヤバいんか…そういえば、練習でも緊張してたもんな」

『あれはっ…!まあ…確かに…』


《深町と、だから》という言い訳は本人にはできるわけがなく、口を閉じた。

「でも」

深町は口角が上がっていたのが、真顔に戻りつつ、少しだけ間を置いて、

「…瀬良なら大丈夫やって」

『……』

また、それ。

その言葉を聞くだけで、胸の奥が少しだけ熱くなる。

『……根拠ないなぁ』

「あるって」

『どこに?』

「今までめっちゃ練習してきたやろ」

『…それだけ?』

「それで十分ちゃう?」

深町は当たり前みたいに言った。

「それに」

『ん?』

「俺もおるし」

『……心強いなぁ(笑)』


思った以上に喰らってしまい、

笑って返せたかどうか自信なかったが、深町は気にした様子もなく、

「ほんなら鞄とって帰ろ」

と荷物を置いた瞬間に教室に向かって先に歩き出す。

『……うん』

その背中を追いかける。

明日が体育祭だということより。

明日もまた、深町と一緒にいられるかな、ということだけが気になっていた。

*

そして、体育祭当日。

朝から校庭はいつもより騒がしかった。

クラスごとのテントには、赤と白の鉢巻きをつけたクラスメイトが入り混じっている。

グラウンドに並ぶ、色とりどりの旗。

もちろん生徒たちは普段とは違う体操服姿。


生徒会と実行委員だけは、判別しやすいように上着だけ色付きジャンパーを着ている。

生徒会は群青色、実行委員は黄色。

競技する時だけ脱ぐようだ。

ーー…

開会式が終わり、競技が始まる。

俺たちも、次々と競技に出ていく。

ちなみに、俺は赤組。

クラス対抗じゃない時は自然と赤組の子を応援するけど、

やっぱりクラスメイトなら敵の白組でも少し応援しちゃう気持ちもあったり。


笑ったり。

失敗して悔しがったり。

いつもの教室とは違うみんなの姿が、少し新鮮だった。


そしてーー…

「クラス対抗の二人三脚に出場する人は待機列に集まってください」

という放送部のアナウンスが聞こえ、

向かっていると、後ろから俺と同じく赤色の鉢巻きを頭につけた深町が話しかけてきた。

「よっ」

『お、よっ』

さっきまで生徒会の仕事で忙しそうにしていた深町はあんまりテントにはいなくて、

今日はちゃんと話すのは今が初めてだ。


『お疲れ様』

「ありがとう、なんとか頑張ってるわ」

『偉いなぁ…』

と感心していると、突然顔を覗き込まれて聞かれたのは。

「…今日こそ緊張してるな?」

『…してない』

「ほんま?」

『ほんま』

「顔固いけど(笑)」

『うるさ』

深町が笑う。

俺もつられて笑った。

ーー…

前の競技が終了し、

パンッ!

スターターピストルの音ともに1組目が争う。

いよいよ出番が迫ってきて、足を結ぶ。

俺らの前の組が出発した瞬間、スタート位置に並ぶ。


…昨日まで何度も練習した動作なのに。

本番になると、やっぱり少しだけ心臓が速くなる。


「瀬良」

『ん?』

「緊張したら俺がおること思い出してな?」

『……うん』

目が合う。

「大丈夫」

深町が笑った。

「瀬良なら」

ピストルが鳴った途端、駆け出した。

「せーの」

1歩。

2歩。

3歩。

足が合う。

昨日まで何度も練習した通り。

いや。

それ以上に、自然だった。

走る。

そのまま走る。

途中で少しよろけたけど、グッと腰を支えてくれてなんとか耐えて、その後も深町が歩幅を合わせてくれた。


俺らがゴールした瞬間、

「A組が1位通過です!」

というアナウンスとともに

次の組へバトンタッチした。


息を切らしながら顔を見合わせた。

「よっしゃ、うまくいったな!」

『うん!やったな!』

「よかった」

深町が笑う。

その笑顔を見ているだけで、胸がいっぱいになった。

練習の甲斐あって、A組である俺らがそのまま1位を貫き、終了した。