学校の死神

 そして待ちに待った掃除の時間、雨花は授業中先生の話には耳も傾けずに考えていた質問を、頭の中で整理しながら音楽室に向かっていた。
 雨花は音楽室の前で一度立ち止まると、思い切ってドアを開けた。
 ラオはピアノの椅子の上に、ちょこんと腰かけていた。
 今日は音楽の授業があまりなかったようで、ほとんど目立った汚れはない。
 
「おー、来たか」
 
「うん」
 
 雨花はピアノの近くの机の上に座った。
 
「うーん、どこまで話したっけなぁ」
 
 ラオが頭を掻きながらそう言うと、雨花は思い切って疑念を口にした。
 
「あのさぁ……ごめん、私まだ死神とかよくわかんないし、正直ちょっとまだ信じられないかも……」
 
 ラオはやっぱりなというような顔をして、ふぅっと息を吐き出した。
 
「じゃあさ、今日部活終わった後、教室に来てみろよ」
 
「教室って二年B組?」
 
 二年B組は雨花たちのクラスだ。
 
「うん、そうそう、まぁ来たらわかるさ」
 
 ラオはそう言うと、ニッと笑った。



 
 放課後、雨花は既に二年B組の教室で、自分の席にぽつんと座っていた。
 
(なんかドキドキするような、ワクワクするような……)
 
 雨花は怖さ半分と好奇心半分で緊張していた。
 辺りは既に薄暗くなってきている。
 今日は曇り空だ。
 
「ふうー……」
 
 緊張を和らげるために、深く息を吐き出したそのとき、ポンと不意に肩を叩かれ雨花は飛び上がった。
 
「うわああ!」
 
「ははは、なにびびっとん?」
 
 振り向くとそこには昨日と同じ、死神姿のラオが巨大な鎌を担いで立っていた。
 
「脅かさないでよ!」
 
 憤慨する雨花を他所に、ラオは彼女に触れた手を握ったり開いたりして見つめた。
 
「やっぱりな……」
 
 その様子に眉を潜める雨花を見ながら、ラオはクスクスと笑った。
 
「お前、脅かし甲斐があるなあ」
 
 雨花は少しムッとしながら大鎌を指差した。
 
「それ、本物?」
 
 ラオは鎌の刃を撫でながらニヤリと笑う。
 
「もちろん」
 
 雨花はラオの格好を穴が開くほど観察した。
 
「へぇ……なんていうか……すごいね」
 
「これで信じるやろ?」
 
「う……ん」
 
 雨花はぎこちなくうなずいた。
 この姿だけなら信じられなかったかもしれないが、現に昨日悪霊から助けられたのだ。
 信じないわけにはいかない。
 それに、こんなデカい鎌を趣味で持ち歩く人もそうそういないだろう。
 まず警察に捕まる。
 ラオは急に咳払いをして口を開いた。
 
「よーし。じゃあ、信じてもらえたところで、お前に頼みがある」
 
「えっ……なに?」
 
 雨花は身構える。
 ラオは腕組みをするとこう切り出した。
 
「まあ、お前ももう、こんなに死神のことを知ってしまったわけやし、昨日オレ、お前のこと()()()()()()し? んで、やっぱ助けてもらった奴は、それなりに恩返しをする必要があると思うんだが?」
 
 ラオはそこで雨花を見ると、ニヤッと不敵な笑みを浮かべた。
 
「そういうわけで……お前、オレの死神の仕事を手伝え!」
 
「はあ?」
 
 突然のことに雨花はポカンと口を開けた。
 
「お前、猫だって恩返しするやろ!」
 
 ラオは何故か自信満々に胸を張る。
 
「いや、それはただの童話の世界でしょ? ていうか、手伝うってなにするの?」
 
「お前は結構、霊が近寄りやすいみたいなんよな、それに、昨日死神姿のオレも、霊の姿もはっきり視えてたよな?」
 
「確かに、あんなにはっきり視えたのは初めてだけど……でも、それってなにが関係あるの? いや、ちょっと待って——まさか、霊をおびき寄せるためとか言わないよね?」
 
「ま、そういうことになるな。やっぱり霊も視える奴に関わろうとしたり、利用しようとしたりするしな。でも、オレがちゃんと片付けるから大丈夫だって!」
 
 ラオはそう言うと、ニカッと笑いかけてくる。
 
「えー! なにそれ? 本当に大丈夫なの? なんか信用出来ないなあ……」
 
「大丈夫、大丈夫! 昨日も助けてやったじゃん!」
 
 雨花はうーんとしばらく頭を抱えて困り果てていたが、キラキラと笑顔を向けてくる彼を無下に出来ずに、渋々承諾した。
 
「なんかモヤモヤするけど……わかった。ホラーは嫌いじゃないし」
 
「よし! じゃあ、早速行くぞ!」
 
 ラオは嬉しそうにうなずくと、踵を返して教室のドアを開いた。
 
「ええ! いきなり?」