学校の死神

「おっはよう! 雨花」
 
 美奈が元気に教室に入ってきた。
 明日から冬休みだ。
 
「なんか、いつも以上に元気だね?」
 
 雨花が笑いながらそう声をかけると、美奈は相変わらず幸せいっぱいな様子で口を開いた。
 
「うん! じ・つ・は、クリスマスに陽太とデートするんだー!」
 
「クリスマスかあ……」
 
 雨花はぼんやりとつぶやく。
 
「ねえ、せっかく部活も休みなんだから、雨花もデートしようよ! ラオと!」
 
「はあ? なに言って——」
 
 思わず大声を上げてしまい、周りから変な目で見られてしまった。
 雨花は慌てて声を潜める。
 
「なんで付き合ってもないのに、デートなの?」
 
「えー、まだ告ってないの? もうバシッと言っちゃいなよー」
 
 じれったそうにしている美奈に、雨花はブスッとうつむいて吐き捨てるように言った。
 
「無理だって」
 
「あ、もう好きなことは認めるんだ?」
 
 美奈は意地悪く笑う。
 
「あー、もう! なんで美奈って……はあ」
 
 雨花は苛立って溜息をついた。
 
「もう、雨花は少しは自分の気持ち伝えられる勇気、持ちなよ! そのうち離れちゃうかもよ?」
 
「そんなの、わかってるよ! それに……どうせもうすぐ、いなくなるし……」
 
 思わずそうつぶやいてしまった。
 
「……え? もしかして、ラオ、引っ越しちゃうの?」
 
「ああ! う、うん、そうそう!」
 
 雨花は焦ってそういうことにしておいた。
 不意に美奈が雨花に抱きつく。
 
「ごめん……なんも知らなくて……」
 
「や、いいよ」
 
「私、雨花に後悔してほしくなかったの……」
 
「……ありがとう、美奈。確かに、私って弱虫だからね」
 
 悲しげな表情の美奈に、雨花はにっこりと笑いかけた。


 
 放課後、いつものように雨花はラオを待っていた。
 
「よ、根岸!」
 
「あ、ラオ」
 
 雨花が振り向くと、ラオは大鎌を抱え直して、
 
「んじゃ行くか!」
 
 と歩き出した。
 しかし、雨花はその場に立ったまま拳を握りしめると、こう切り出した。
 
「ねえ、明日、ちょっと来てほしいところがあるんだけど……」
 
 ラオはきょとんとして振り返った。
 
「え? どこ? なんで?」
 
「いいから、とにかく明日——」



 
(——裏門のところで待ってるって言ったのに、遅いなあ……)
 
 雨花は寒さに震えながら、部活が終わってみんなが帰った後、一人で学校の裏門に残って待っていた。
 すっかり身体は冷え切り、木枯らしが吹いて白いマフラーがなびく。
 
「うぐっ!」
 
 グイッと不意に後からマフラーを引っ張られ、雨花は呻き声を上げた。
 
「あはは、すまん、すまん」
 
 後ろにラオが笑いながら立っていた。
 やっぱり制服姿だ。
 
「もう……まあ、とにかくついて来て!」
 
 雨花はこぼしかけた文句を呑み込んで、緊張しながら歩き出した。


 
 行き着いた先は——
 
「オレの家……?」
 
 ラオは茫然として立ち尽くしている。
 そんな彼に構わず、雨花は窓から中へ入った。
 そして振り向くと、未だ立ち尽くしたままのラオに声をかける。
 
「ラオも早く!」
 
「……やだ」
 
 ラオは表情を曇らせ、ポケットに手を突っ込んでそっぽを向いた。
 
「お願い! 知りたいでしょ? 本当のこと!」
 
「……本当のこと?」
 
 ラオは眉を潜めて、ゆっくりと窓の方へ近づいた。
 それでも、室内を直視できず、それ以上足を前に出せずにいるようだった。
 雨花がどうしたものかと、ラオの方へ身体を乗り出そうとすると、室内から声がした。
 
「ラオ……久しぶりやな」
 
 ラオは雨花の背後に目を向けて、その場で凍りついた。
 
「……兄ちゃん」
 
「根岸さん……やっぱり来てくれたんやな」
 
「はい、約束しましたから」
 
 ラオの兄は弟を真剣な眼差しで見つめた。
 
「ラオ……父さんを助けてやってくれ」
 
「父さん……? い、今更なに言っとるん——父さんは、オレを——殺そうと、したのに」
 
 ラオは、言葉を絞り出すのがやっとのようだ。
 つっかえながらも吐き捨てるようにそう言うと、兄から顔を背けてしまった。
 
「それはな、確かに父さんの心の弱さのせいもある……けど、それにつけ込んだ悪霊が、父さんをあそこまでおかしくさせたんや!」
 
「え?」
 
 兄の必死の訴えに、ラオは驚いて彼に視線を戻した。
 
「……それ、本当か?」


 
 ラオの兄は、雨花に話したことをラオにも話して聞かせた。
 話を聞き終えたラオは、動揺を隠せずにいる。
 
「辛いのはわかる。でも、父さんを助けてやれるのは、死神であるお前だけなんや……頼む」
 
「わかったけど……」
 
 ラオはうつむいて、固まったまま声を絞り出す。
 
「ちょっと……夕方まで待ってくれ。気持ちの整理したいし、どうせ、まだ死神になれんし……」
 
「わかった……絶対来いよ」


 
 二人は一旦空き家を後にした。
 雨花の家が近くなので、そこで夕方になるのを待つことにした。
 ラオはずっと押し黙ったまま、考え込んでいるようだった。
 雨花はかける言葉が見つからず、それを見守ることしかできなかった……。