月は白くて。土は白くて。

 半月から満月。そしてまた半月までの間。
 子どもは早く眠る。早く起きるために。
 特に満月の日は、特別早く起きる。



 ふわはわ、とあくびを。
 気のない空気を、月に放つ。
 満月を、薄く。ぼんやりとした雲が包む。
 頭がぼうっと、そのまま浮かび上がりそう。
 私は足の膝から下に、ふわはわな布を巻く。
 エレクの毛で編まれた布の、端を折り込む。
 とーんとーんと二回跳ぶ。
 落ちない落ちない。
 頭は落ちてしまいそうだけれど。
 ふわはわ、ともう一度あくびを。
 悲しくはないのに、目には涙。
 私は涙を集めに行く。
 月の涙を。
 満月の下、ほのかに揺れる草原に。
 私は足を踏み入れる。
 カグヤ草。
 細く鋭く濡れた葉っぱを。
 エレクの毛でぬぐって行く。
 優しく、静かに、足に巻かれた布に。
 夜露が染み込み。重くなる。
 エレクの毛は水を含むと、何倍にも膨れる。
 雨が降ると、自分の毛に覆われちゃって。
 一歩も歩けなくなっちゃう。
 って、お母さんが言っていた。
 私はエレクを見たことがない。
 エレクは街にしかいない。
 村に来るのは、毛と肉だけ。
 でも、きっと、可愛い顔をしているんだ。
 と思う。
 ふう。
 足が重くなりすぎないうちに。
 家に帰る。
 カグヤ草の土は、踏み固めちゃいけない。
 だから、重くなる前に帰る。
 だから、これは、子どもの仕事。
 家に帰って、樽の中に布を入れる。
 ちゃぽんと。布なのに、水の音がする。
 私は、また、新しい布を足に巻いて。
 今日は、満月だから。
 かぐや草は、いっそう泣き虫だから。
 自分より、泣いちゃう子がいると。
 どんなに悲しくても、泣けなくなっちゃう。
 そんな時みたいに、私の目はもう冴えて。
 月にも、かかる雲はなくなり。
 眩しいくらいに輝いている。
 きらきらと、光る草たちの。
 涙を拭きに、また歩く。
 カグヤ草は、青くて白い。
 土の中から、塩を吸い出して。
 葉っぱの表面に、白く固める。
 月光合成。
 って、お母さんが言っていた。
 草木限界って。
 私の村の、この草原の先には。
 草木は一本も生えていない。
 あるのは、ただ。
 白。
 塩。
 それだけ。
 岩塩って、固くて重くて大きくて。
 そんなのがたくさんあって。
 お父さんは、それを切り出して。
 街に持っていく仕事をしている。
 塩の教会ってところがあって。
 そこで、お浄めの塩にするんだって。
 塩のあるところには、植物が育たなくて。
 だから、植物を食べるエレクは。
 私の村にはいない。
 でも、カグヤ草だけは。
 違う地でも生きていけるんだって。
 ふう。
 足が、また。重くなってきた。
 満月は、まだ。高い高い。
 家に帰って、樽の中に布を入れる。
 たぽん。
 ちょっと、重すぎた。
 そして、また、足に新しく巻く。
 一晩中。それを繰り返す。
 満月に吸い込まれそうになりながらも。 
 足は重く。地面に吸い付いていて。 

 夜明けの鐘が鳴ること。三度。
 何度も繰り返した、夜の散歩は終わり。
 私はくたくたになって、ベッドの中に。

「起きな。夜眠れなくなっちゃうでしょ」
 お母さんに起こされる。
 何かを夢見ていた気がする。
 けれど、覚えていない。
 お母さんと一緒にエレクの布を天日干し。
 干して洗って、干して洗って。
 塩は煮詰めて教会に。
 そうだ。街に行ってみたい。
 エレクの顔を見てみたい。
 手伝いが終わって、遅めの朝食。
 エレクのスープ。
 私はスープに、塩を。
 一振り、二振り、三振り。