迷える透明な子羊。

涙で視界がボヤけて、うまく文字が読めない。

指を動かした。
彼方の本当の言葉をもっと知りたかった。

スクロールしていくうちに、私の頭の中に新しい景色が出てきた。
ずっと思い出さないように鍵をかけていた、2年前の記憶。

中学3年生の冬のこと。
あのときも教室はこんな空気だった。

私の隣の席だった優しい女の子。
ある日クラスの中心の女子が「あいつ、裏で男子の悪口言ってるよ」と言い始めた。

本当かどうかなんて、誰にも分からなかった。
証拠なんてどこにもなかった。

なのにみんながその子を無視し始めた。
バイ菌を見るみたいな目でクスクスと笑った。

私も怖かった。
その子に話しかけたら次は自分が同じ目に遭う。

『十愛も、あの子が悪いって思うよね?』
中心の女子にそう聞かれたとき、私は笑って頷いた。

「うん、だね」って本心じゃない言葉を口にした。

結局、その子は卒業までずっと1人ぼっちのままだった。
私は自分の保身のために友達を1人殺したんだ。

今の私は2年前と何も変わっちゃない。
傷つくのが怖いから。
透明なままでいたいから。

「もう、嫌……」
ベッドの上で、ボロボロと涙がこぼれる。

スマホの画面には、友達からの通知が相変わらずピコピコと音を鳴らす。

『明日、アイツの席の落書き誰が消すのかなw』
『そのまま置いとけばいいじゃんwなんで消すんいちいちwwばか?』

この画面の向こうにいるのは友達なんかじゃない。
いい人の仮面を被った、ただの怪物だ。

みんながそう言っているからって、それを自分の答えにしてしまっていいのか。
「は……いいわけ、ないじゃん……」

中学のときのあの子には、もう謝れない。
でも彼方は向こうで傷ついてる。
私のせいで絶望している。

誰の言葉でもない私の心がいま、なんて叫んでいるか。
もう……分かってるって。

スマホをベッドに放り投げる。
制服のリボンを外して私は部屋のドアを開けた。

お母さんの呼ぶ声がしたけれど振り返らなかった。
夜へ飛び出す。

走るなんて何年ぶりだろうな。
喉の奥に血の味がする。

今走らなきゃ、私は一生自分の足で歩けなくなる。

学校の校舎が見えてきた。
正門は閉まっている。

私はグラウンドの脇のフェンスにしがみついた。

スカートが引っかかるのも気にしないで、必死によじ登る。
着地したとき、手のひらに砂利が刺さって血が出た。

「彼方……!」
真っ暗なグラウンドに向かって叫んだ。

誰もいない。
やっぱりいるわけがない。

ハァ、ハァ、と自分の息の音が響く。

やっぱり遅すぎたんだ。
膝がガクガクと震えはじめた。

次の瞬間、暗闇の中に彼方が見えた。