迷える透明な子羊。

またスマホが鳴っている。
画面を見なくても中身は決まってる。

誰かの幸せですアピール。
SNSを開いたら、案の定クラスの女子のストーリーが目に飛び込んだ。

『彼氏できた。まじイケメンすぎて無理泣いたww』
画面の先で、お揃いのキーホルダーがついたスクバの写真。

「……はいはい、おめでと」
呟きながらなんとなくでハートをタップする。

別にムカついているわけでもない。
ただの……作業。

私、十愛(とあ)は17歳。
どこにでもいる普通の高校2年生。

最近の私のSNSは、本当にこればっかり。
「彼氏できた」とか「今度デート」とかいう、中身のない話ばっか。
教室でも同じだ。

休み時間になると、みんなで囲んで「どこ行くの?」と、おかしくなったかのように盛り上がっている。
私はその輪のいちばん端っこにいつも居て、話を合わせるために「羨ましい」と小さな声で笑ってみせる。

胸が痛んでくる。
なんて言うんだろう、この置いてけぼり感。
みんなが女子高生の普通っていう乗りものに乗って先へ行ってしまうのに、私だけが追いつけなくて、ぽつんと残されているみたいな感覚。

正直、彼氏が欲しいのかどうか自分ではよくわからない。
だけど、周りと同じようにうるさくできない自分がすごく変に思えてくる。

そんな私の唯一の逃げ場所が、放課後のグラウンドだ。
教室の窓から身を乗り出して私は下を見下ろす。

グラウンドをひたすら走っている男の子。
陸上部のエース、彼方だ。
ただまっすぐ前だけを見て走っている。

限界まで自分を追い込んでいるあの顔。
文字だけの幸せなんかよりも、彼のほうがずっと本物に見えた。

彼方は私のことなんて知らないはず。
話したこともない。
だけど私は、彼が走るその時間に勝手に救われていた。