眼鏡の位置を直し、胸の鼓動が速くなった。この笑顔を、誰にも見せたくない。
嫉妬していると言われたが、意味は分からない。だけどここにいたくないため、怜依を連れて足早に後にする。
「なあ、なんで不機嫌なんだ? 腹でも減ってんのか? ちょっと待てよ、すぐに何か作るから」
困惑しながらも、怜依の家に着いてきてくれた。雨に濡れてしまったが、今は問題ではない。
それよりも、重要なことがある。手を繋いでいたのだが、妙な気持ちになった。
手を繋ぐなど、造作もないことだ。それなのに、今は心臓がうるさい。
怜依は何も文句を言わなかったが、帰ってくるなり詰め寄ってくる。
なぜ、不機嫌なのか俺が知りたい。そうだ、怜依が小林に愛想を振りまいていたからだ。
しかも何か、もらっていた。それでだ、俺は悪くない。
「……そもそも、対人関係において好意の物品化――いわゆるプレゼントの受け渡しは、相手に過度な期待を抱かせるリスクがある」
「なんの話だ?」
「……小林から、何かもらっていただろ」
「ああ、これだろ。ほら、お前の好きなクッキーだ。作りすぎたからって」
俺はボソボソと、怜依の顔色を伺いながら口にした。自分でも、支離滅裂だとは分かっている。
しかしイライラするのは、仕方ない。俺を不安にさせた怜依が悪いんだ。
怜依がカバンから出したのは、クッキーだった。この前の最高に美味しかったのと、同じものだ。
それは、いいだろう。後で俺が、大事に食べよう。
だけど、妙な胸騒ぎがする。胸の奥が痛くて、気持ち悪くなってくる。
「小林のことが……その、なんでもない」
「なんだよ、言いたいことがあるなら言えよ」
「す……き、なんだろ……だとしても、恋人は非効率で……自分の時間を作れないからな」
「お前、もしかして」
クッキーの件は、俺の勘違いだ。無闇に怒ってしまい、俺らしくもない。
なぜか、昔から怜依が絡むと冷静でいられない。自分でも不思議なぐらい、おかしくなってしまうんだ。
怜依は、小林と一緒にいることが多い。まさかとは思うが、好きということはないだろうな。
あいつは、彼氏がいるぞ。不毛なことは、今直ぐにやめた方がいい。
これはあくまでも、友人としての意見だ。まただ、胸の奥がチクリとした。
怜依の顔をまともに見られずに、心臓がうるさい。声が震えているのが分かり、呼吸が苦しい。
最近の俺は、本当におかしい。特に怜依が絡むと、正気ではいられなくなる。
「っ……こ、こわ……くないっ……別に、これぐらい……俺は大学生で」
「……ふぅ〜」
「うにゃああああああ!?」
怜依が何かを言おうとすると、停電した。近くで雷が鳴ったようで、一次的なものだろう。
このアパートは、かなり古いからな。俺は怜依が怖いと思い、腕にしがみついた。
決して、俺が亜怖いからではない。そこは、最重要事項である。
俺が怜依の慰めるために、ボソボソと呟く。なぜか、体が震えるが雨で濡れたからだろう。
決して、怖いわけではない。そんな時だったーー怜依は、俺の耳に息を吹きかけてきた。
俺は自分でも驚くくらいに、大きな声を出してしまう。しかし雨のせいで、そこまでは響いていない気がする。
猛抗議しようとしたが、怜依は真面目な顔をしている。胸の奥が、トクんと鳴り響く。
雨音よりも、俺の心臓の方が大きいらしい。怜依が怖いだろうし、腕は離さないでやろう。
俺ってば、優しい男である。怜依の腕は、抱き心地がいいな。
「な、何するんだよ!」
「はは、ビびりすぎ。俺がいるから、怖くないぞ〜」
愛おしいものを見るような目で見られ、急激に恥ずかしくなった。
ただの幼なじみに、見せるような表情ではない。全身が沸騰するような感覚に、陥ってしまう。
直ぐに怜依は、いつもの笑顔になった。俺の頭を撫で、犬のようにわしゃわしゃしてくる。
子供扱いされているようで、気に食わない。しかし怜依が俺だけを見ているのは、優越感である。
「暗闇とは、視界の情報量がゼロになり生物としての生存確率が著しく低下する極限状態である。……決して怖がっているわけではない」
「……涼平」
「……っつ!」
「小林のこと、好きとか言っていたよな。そんなわけないだろ。お前はいつも、変な方向に行く。しっかりと言うから、聞けよ」
こいつは、勘違いしているようだ。決して、俺は怖がってなどいない。
足が震えており、声も上擦っている。しかし決して、俺はビビリなどでは断じてない。
俺は怜依の腕にしがみつき、その場に座っている。怜依は俺のことを気にかけ、座布団を置いてくれた。
うむ、殊勝な心がけである。そんなことを考えていると、耳元で名前を呼ばれた。
熱っぽくて、色っぽかった。体がビクンと震え、体の奥から熱が広がっていく。
思わず顔を見ると、見たこともないぐらいに熱を孕んだ瞳で見つめられていた。
俺の頬を触り、真っ直ぐな瞳だった。逸らしたいのに、できない。
怜依の声と、俺の心臓の鼓動が重なる。そこで気がついてしまった。
俺の心臓の音だと思っていたが、怜依の音だった。
「お前さ……高校の時、なんで俺が同居断ったか本当に分かってないだろ」
「理解不能だった。二人で住んだほうが、効率がいいから」
「実家にいた頃みたいに、俺がずっと『ただの幼なじみ』でいられると思ってたのか?」
「お……さななじみ以外に何が」
怜依は俺の腕を剥がし、抱きついてきた。優しくて暖かい温もりを感じ、俺は思わず目を閉じた。
こいつの体温を感じながら、静かに声を聞く。やはり、こいつの声は癒される。
一緒に住みたくないのかと思ったが、そんなわけでもない。今もこうして、一緒にいるからな。
週に五日は、この部屋にいる。電球だって、本当は切れていない。
俺が緩めて、部屋に来る口実を作っている。こいつだって、本当は気づいているだろう。
俺の嘘なんて、こいつは直ぐに見抜くからな。効率がいいから、一緒に住んだ方がいい。
幼なじみ以外……他に、何があるんだ。妙な気持ちになるのは、抱きしめられているからだ。
嫉妬していると言われたが、意味は分からない。だけどここにいたくないため、怜依を連れて足早に後にする。
「なあ、なんで不機嫌なんだ? 腹でも減ってんのか? ちょっと待てよ、すぐに何か作るから」
困惑しながらも、怜依の家に着いてきてくれた。雨に濡れてしまったが、今は問題ではない。
それよりも、重要なことがある。手を繋いでいたのだが、妙な気持ちになった。
手を繋ぐなど、造作もないことだ。それなのに、今は心臓がうるさい。
怜依は何も文句を言わなかったが、帰ってくるなり詰め寄ってくる。
なぜ、不機嫌なのか俺が知りたい。そうだ、怜依が小林に愛想を振りまいていたからだ。
しかも何か、もらっていた。それでだ、俺は悪くない。
「……そもそも、対人関係において好意の物品化――いわゆるプレゼントの受け渡しは、相手に過度な期待を抱かせるリスクがある」
「なんの話だ?」
「……小林から、何かもらっていただろ」
「ああ、これだろ。ほら、お前の好きなクッキーだ。作りすぎたからって」
俺はボソボソと、怜依の顔色を伺いながら口にした。自分でも、支離滅裂だとは分かっている。
しかしイライラするのは、仕方ない。俺を不安にさせた怜依が悪いんだ。
怜依がカバンから出したのは、クッキーだった。この前の最高に美味しかったのと、同じものだ。
それは、いいだろう。後で俺が、大事に食べよう。
だけど、妙な胸騒ぎがする。胸の奥が痛くて、気持ち悪くなってくる。
「小林のことが……その、なんでもない」
「なんだよ、言いたいことがあるなら言えよ」
「す……き、なんだろ……だとしても、恋人は非効率で……自分の時間を作れないからな」
「お前、もしかして」
クッキーの件は、俺の勘違いだ。無闇に怒ってしまい、俺らしくもない。
なぜか、昔から怜依が絡むと冷静でいられない。自分でも不思議なぐらい、おかしくなってしまうんだ。
怜依は、小林と一緒にいることが多い。まさかとは思うが、好きということはないだろうな。
あいつは、彼氏がいるぞ。不毛なことは、今直ぐにやめた方がいい。
これはあくまでも、友人としての意見だ。まただ、胸の奥がチクリとした。
怜依の顔をまともに見られずに、心臓がうるさい。声が震えているのが分かり、呼吸が苦しい。
最近の俺は、本当におかしい。特に怜依が絡むと、正気ではいられなくなる。
「っ……こ、こわ……くないっ……別に、これぐらい……俺は大学生で」
「……ふぅ〜」
「うにゃああああああ!?」
怜依が何かを言おうとすると、停電した。近くで雷が鳴ったようで、一次的なものだろう。
このアパートは、かなり古いからな。俺は怜依が怖いと思い、腕にしがみついた。
決して、俺が亜怖いからではない。そこは、最重要事項である。
俺が怜依の慰めるために、ボソボソと呟く。なぜか、体が震えるが雨で濡れたからだろう。
決して、怖いわけではない。そんな時だったーー怜依は、俺の耳に息を吹きかけてきた。
俺は自分でも驚くくらいに、大きな声を出してしまう。しかし雨のせいで、そこまでは響いていない気がする。
猛抗議しようとしたが、怜依は真面目な顔をしている。胸の奥が、トクんと鳴り響く。
雨音よりも、俺の心臓の方が大きいらしい。怜依が怖いだろうし、腕は離さないでやろう。
俺ってば、優しい男である。怜依の腕は、抱き心地がいいな。
「な、何するんだよ!」
「はは、ビびりすぎ。俺がいるから、怖くないぞ〜」
愛おしいものを見るような目で見られ、急激に恥ずかしくなった。
ただの幼なじみに、見せるような表情ではない。全身が沸騰するような感覚に、陥ってしまう。
直ぐに怜依は、いつもの笑顔になった。俺の頭を撫で、犬のようにわしゃわしゃしてくる。
子供扱いされているようで、気に食わない。しかし怜依が俺だけを見ているのは、優越感である。
「暗闇とは、視界の情報量がゼロになり生物としての生存確率が著しく低下する極限状態である。……決して怖がっているわけではない」
「……涼平」
「……っつ!」
「小林のこと、好きとか言っていたよな。そんなわけないだろ。お前はいつも、変な方向に行く。しっかりと言うから、聞けよ」
こいつは、勘違いしているようだ。決して、俺は怖がってなどいない。
足が震えており、声も上擦っている。しかし決して、俺はビビリなどでは断じてない。
俺は怜依の腕にしがみつき、その場に座っている。怜依は俺のことを気にかけ、座布団を置いてくれた。
うむ、殊勝な心がけである。そんなことを考えていると、耳元で名前を呼ばれた。
熱っぽくて、色っぽかった。体がビクンと震え、体の奥から熱が広がっていく。
思わず顔を見ると、見たこともないぐらいに熱を孕んだ瞳で見つめられていた。
俺の頬を触り、真っ直ぐな瞳だった。逸らしたいのに、できない。
怜依の声と、俺の心臓の鼓動が重なる。そこで気がついてしまった。
俺の心臓の音だと思っていたが、怜依の音だった。
「お前さ……高校の時、なんで俺が同居断ったか本当に分かってないだろ」
「理解不能だった。二人で住んだほうが、効率がいいから」
「実家にいた頃みたいに、俺がずっと『ただの幼なじみ』でいられると思ってたのか?」
「お……さななじみ以外に何が」
怜依は俺の腕を剥がし、抱きついてきた。優しくて暖かい温もりを感じ、俺は思わず目を閉じた。
こいつの体温を感じながら、静かに声を聞く。やはり、こいつの声は癒される。
一緒に住みたくないのかと思ったが、そんなわけでもない。今もこうして、一緒にいるからな。
週に五日は、この部屋にいる。電球だって、本当は切れていない。
俺が緩めて、部屋に来る口実を作っている。こいつだって、本当は気づいているだろう。
俺の嘘なんて、こいつは直ぐに見抜くからな。効率がいいから、一緒に住んだ方がいい。
幼なじみ以外……他に、何があるんだ。妙な気持ちになるのは、抱きしめられているからだ。



