合理的な俺が、幼なじみを愛してしまった理由

「兄貴に教わりました」

 数日後、講義中のことである。教授が、ニヤニヤしながら難問を突き付けてきた。
 ヤバい……この教授は、意地悪で有名である。長々と、生徒に無理難題をぶつけてくる。

 いつもなら、別にどうでもいい。しかし今日は、付き合っていたくない。
 この後、俺は重大な使命がある。一分一秒でも早く、あの場所に行かないといけない。

 俺の行動に、世界の命運がかかっている。そのため、俺は手を挙げ高らかに矛盾点を示した。
 すると教授は、苦虫を噛み潰したような顔をした。大学一年生が分かる問題ではない。

 しかし俺は、同じ専攻をし卒業した兄がいる。そのため、既に習っていたのだ。
 兄から、教授の鼻を明かしてやれ! と、お願いされたからな。

 これに関しては、黙っておこう。そんなことよりも、俺には何よりも大事なことがあるからな。
 早く昼にならないだろうか。伶依の弁当が食べたい。

 これは世界で一番、大事なことである。あいつの弁当を食べる、それ以上に大事なことはこの世界には存在しない。
 周りからは拍手されているが、俺には関係ない。お腹が鳴りそうなのを、必死に我慢しているからだ。

「伶依、腹減った」
「俺はお前の……まあ、いいや。座って」
「腹減った」
「お前は、ロボットか? あっ、先に言っておく。人間なのは、知っている」
「……弁当」

 講義が終わり、足早に中庭に向かう。外は秋晴れで、暖かい。
 熱くもなく、寒くもない。適度に風が吹いていて、外で食べるにはうってつけである。

 この天気なのに、午後には雨になるらしい。不思議だが、仕方ない。
 そんなことより、今は弁当が優先である。ベンチには、伶依が座っていた。

 後ろから抱きしめ、耳元で囁く。伶依の耳が赤いが、暑いのだろうか。
 座るように言われ、俺は人生で一番早く動いた。光の早さではないが、俺にとっては早い。

 そしてもう一度、大事なことを口にする。伶依の手元にある弁当箱を、凝視しながら。
 すると、呆れられてしまう。ボケようかと思ったが、先回りされてしまった。

 俺は唇を尖らせて、口を開けた。伶依は笑いながら、弁当箱を開いた。

「肉巻きだぞ。そんなに警戒しなくても、人参は入っていないぞ」
「……流石、伶依だ。俺の好みを完全に把握している。合理的だな」
「はいはい、食え食え」

 口に肉巻きを放り込まれたが、人参は入っていないな。警戒していると、伶依に頭を撫でられた。
 その手の感触が、やはり心地いい。なんか、鼓動が早くなってきた。

 急激に糖分を摂取し、体が悲鳴を上げているのか? そんなことがあるかどうかは、知らんが。
 周りから見られているが、これはやらんぞ。俺の弁当だ。

「そういえば、来週はお前の誕生日だよな。何がほしい?」
「肉」
「即答かよ」
「伶依が作ったものがいい」
「……分かったよ」

 黙々と食べていると、伶依はニコニコして見ていた。俺と同じ弁当を食べているが、人参が入っている。
 俺よりも、肉が少なく野菜が多い。俺に食べさせるために、少なくしているのだろうか。

 今までは、普通だと思っていた。しかし小林に言われてから、気になるようになった。
 誕生日の話をされ、思考が一気に肉になった。俺は昔から、肉が好きだ。

 考えてみたら、伶依は肉を食べることが少ないよな。もしかして、遠慮しているのか。
 だから、背が伸びなかったのか? そんなことを言うと、誕生日の肉がキャベツになりそうだ。

 そのため、言わない方が効率的である。伶依の作った物を食べられないのは、息ができないのと同じだ。
 思っていることを告げると、伶依は顔を真っ赤にしていた。両手で顔を覆い、耳まで真っ赤にしている。

 林檎みたいで、可愛いな。伶依の擦ってくれた林檎が、食べたいな。

「降りそうだな」

 講義が終わり、伶依との待ち合わせ場所へと向かう。窓の外を見ると、昼間の天気が嘘のようになっていた。
 今にも、降り出しそうになっている。傘のことが気になり、カバンを見る。

 中には、しっかりと折り畳み傘が入っている。伶依は、しっかりとした嫁である。
 俺が今朝、「雨降るのか……」と呟いたのを聞いていたのか。関心である。

 自分で持ってこい! というツッコみをされそうである。しかし伶依に任せたほうが、確実である。
 俺は効率重視のため、それがいい。伶依を発見したため、足早に向かう。

「……あれは、ただの愛想笑いだ」
「もらってやるよ」
「ほんと、上から目線だよね〜」
「楽しみだな」

 伶依を見つけたが、胸の奥がムカムカする。小林といるところを見ると、腹が立つ。
 別に二人は、悪くない。何も不適切なことは、一切合切していない。

 落ち度は何一つないはずだが、無性に不快な気持ちになる。
 壁に寄りかかり、両腕を組んでいる。なんなのだ……言いようのない、不快感だ。

 言葉が出てこず、同じ感想しか出ない。俺はもっと、頭がいいと思っていた。
 しかしなんか、無性に腹が立つ。小林から、何かをもらっている。

 それだけではなく、満面の笑みを浮かべている。俺以外に、そんな顔を向けるな。
 非常に、不愉快である。先ほどまでの、ウキウキ気分が大無しだ。

 外は俺の気持ちと同じで、雨が降っている。なぜだ、なんなのだ! この気持ちは!

「……人間は、興味のない相手にも笑うものだからな。だから……別に、なんでもない……ないはずだ」
「……涼平」
「なんだ」
「お前、嫉妬してる?」
「……違う」

 俺は我慢できず、伶依の腕を掴む。驚いたようで、目を丸くしている。
 こいつ、こんなに可愛かったのか? 顔を見たら、先程までのイライラが嘘のように引いていく。

 怜依の体温や香り、抱き心地の良さ。ふう〜やはり、この感触が心休まるのだ。
 それはそれとして、俺は思っていることをそのまま伝える。怜依は愛想笑いを、誰にもしてはいけない。

 早口で、まくし立てた。しかし何故か、嬉しそうに微笑んでいる。