合理的な俺が、幼なじみを愛してしまった理由

 俺が手伝えば、効率が上がる。俺が何かやろうとすると、笑顔で制止される。
 俺は伶依が見事な手さばきを披露している中、そわそわしていた。後ろで、行ったり来たりをしている。

 ワンルームのため、距離は短いが。そんなことは、重要ではない。
 俺だって、何かしたいのだ。洗い物は、完全に邪魔になる。

 伶依には、ペースというものがある。今だって、洗い物をしながら鍋の火加減を見ている。
 この匂いは、カレーだ。俺が食べられるように、甘口を用意してくれている。

 俺は邪魔にならないように、ソファに座る。穴が空くほど、伶依の背中を見つめる。
 これは決して、伶依を見たいわけではない。カレーが待ち遠しいだけである。

「ほら、いつまでも不貞腐れていないでこっちに来いよ」
「別に腹など、減っていない」
「よだれ垂れているぞ」
「そ、そんなことはない。そもそもよだれとは」
「理屈じゃ、腹は満たされないぞ」

 カレーができたようで、俺はそっぽを向く。理由は簡単である。
 ただのかまってちゃんというやつである。人生で一度は、やってみたい。

 イヤイヤ期みたいな、ものである。ところであれは、何歳ぐらいなのだろうか。
 それよりも、カレーがいい匂いだ。伶依に頭を撫でられるが、強がってみる。

 しかし優しい笑みを浮かべられ、揶揄われた。恥ずかしくなり、自分でも体温が上がっているのが分かる。
 正論を言われ、何も言えなくなる。こいつは俺を熟知しているため、勝てないようだ。

「……残すのは、倫理的に良くないからな」
「ほら、福神漬けもあるぞ」
「食べる」

 俺は満足したため、大人しくテーブルの前に座る。カレーの匂いに釣られて、やって来たわけではない。
 俺がスプーンを持つと、福神漬けを入れてくれた。お腹が空いて、力が出なくなると困るからな。

 俺の苦手な、人参が入っていない。大きめの肉が、ゴロゴロ入っている。
 やはり、伶依は俺の好みを熟知しているな。効率がいい。

 美味いが、気になってしまう。伶依の方には、満遍なく具材が入っている。
 俺のことを優先してくれるのは、嬉しい。しかし無理させてしまっているのではないか。

 伶依は昔から、俺のために行動してくれている。おもちゃも、お菓子も全てだ。
 遠慮しすぎて、申し訳ない。俺だって、何かしたい。

 だけど素直に、それを言う勇気がない。どうしたものか……カレーが美味い。

「ほら、慌てて食べるな。味噌汁あるぞ。猫舌だろ、冷ましておいたぞ」
「うむ、いい心がけだ」
「なんで、上からなんだよ。ほら、よく噛んで食べろ」

 伶依は、俺の手元の味噌汁を指差した。冷ましてくれているのは、効率がいい。
 ありがとうを言えず、上から目線で言ってしまう。今日ぐらいは、言葉で伝えるべきだろうか。

 悶々としていると、頭を撫でられた。その手の感触が心地よくて、悩みなどちっぽけだと感じる。
 どうして、こいつはこんなに優しいのだろうか。暖かい笑みを浮かべ、俺だけを見つめている。

「寒いから」
「……お前、飯食わせて撫でとけば機嫌治るから簡単だな」
「……っ、揶揄うなっ……!」
「猫みたいで、可愛いな」
「……っつ!」
「あはは、顔真っ赤〜」

 カレーを食べ終わり、俺は伶依の腕に抱きついた。この頃寒いため、暖を取る。
 こいつの香りも、体温も心地がいい。すると伶依は、俺を揶揄ってきた。

 頬を膨らませ、抗議しようとした。しかしいつも異常に優しい瞳で、俺の頭を撫でてくる。
 そのせいか、ふにゃあ〜となる。猫みたいと言われ、急激に恥ずかしくなった。

 しかし離れたくはないため、必死にしがみつく。更に揶揄われるが、このままがいい。
 さっきまで寒かったが、暑くなってきたな。情けなくも、伶依の服の裾をキュッと掴んでしまっていた。

「ったく、帰ったら洗濯物はカゴに入れろ。俺がいないと、何もできないんだから。俺がいつでもいると思うなよ」
「何を言っているんだ。俺たちは、一心同体だ。これから何十年と共に生きていく」
「……っつ! 何言ってんだよ……くそっ」
「? 変なやつだ」
「……人の気も知らないで……深い意味はない……きっと、愛玩動物のそれだ……うん……それ以外にはない……うん……そうだ……きっと」

 伶依が洗い物をしている中、俺はレポートを書いていた。期限までは、時間はある。
 しかし俺は、後回しにはしたくない。早く終わらせて、デザートを食べる。

 さっき、伶依はケーキを買ってきていた。苺が乗ったやつは、確実に俺のだ。
 鼻歌を口ずさんでいると、小言を言われた。伶依がいなくなる?

 こいつは、何を言っているんだ? 俺は手を止めて、首を傾げて顔を見る。
 俺たちは、一心同体だ。幼稚園で出会ってから、高校卒業まで一度もクラスが離れたことがない。

 大学では、学部は違う。しかしサークルも、お昼も同じである。
 できるだけ、講義時間も被るようにしている。俺たちが離れることなど、万に一つもない。

 俺の言葉に、何故か狼狽えている? 顔を真っ赤にして、何やら呟いている。
 何を言っているのか、さっぱりだ。顔が赤いのは、風邪がぶり返したのか?

 それなら、様子がおかしいのは納得だ。よしっ! ここは、俺が一肌脱ごうじゃないか!

「風邪か? 体を暖めて寝るんだ。お風呂を入れよう」
「自分が入りたいだけだろ」
「なぜわかる? エスパーなのか!」
「…………はあ」

 俺は立ち上がり、高らかに宣言。すると伶依は、真顔で俺の心を読んでくる。
 こやつ、エスパーというやつなのか! 俺の言葉に、本当に深いため息を漏らした。

 幸せが逃げていくと、聞いたことがあるぞ。まあ、でも嬉しそうだから良しとしよう。
 やはり、笑顔はいいものだ。俺意外に見せるのは、金輪際やめてほしいが。
 それでも、伶依の笑顔は何よりも美しい。自然と笑顔になるからな。

「該当箇所の注釈は、当時の印刷技術における誤植を前提としておらず、著者の意図とは真逆の解釈を生んでいます」
「……正解だ。一年生で、そこまで読めるのか」