合理的な俺が、幼なじみを愛してしまった理由

 直ぐに勘づかれそうだが、大丈夫だ。あいつは、俺に甘いから。

 ……多分。

 キッチン用具も、どこにあるのか。皆目検討つかないため、一旦休憩しよう。

「まずは、糖分摂取だ。プリン、美味い」

 冷蔵庫から、プリンを取り出した。少しカラメルが苦いが、プリンの甘さで絶妙なハーモニーを奏でている。
 このプリン、高級なやつだろう。駅前で、限定品だと書いてあった。

 一個しかなかったから、自分の分は買わなかったのだろう。あいつは、甘いのは苦手だからな。
 もし買っていても、俺が食べることになった。考えてみたら、あいつに甘えてばかりだ。

 家事全般を担ってくれており、俺は上げ膳据え膳だ。やはり、本気で家事に取り組もう。
 まずは、腹ごしらえを終えてから。腹が減っては戦はできぬである。

「早くしないとな……スーパーに寄ってから……十数分で着くな…よしっ!」

 スマホの時計を見つめ、ボソボソと呟いた。あいつが帰ってくる前に、完成させる。
 腕まくりをし、冷蔵庫から食材を取り出す。野菜数種類と、お肉のパックだ。

 包丁とまな板を取り出し、ゆっくりと切っていく。手を切らないようにするのが、こんなに難しいとは思いもしなかった。
 世の料理をしている人たちは、本当に素晴らしい。料理動画で、キャベツのみじん切りを見たことがある。

 鮮やかで、エアーで真似をしたことがあった。伶依に「お前は包丁を握るな」と真面目な顔をされたな。
 中学生の時だから、流石に成長しているだろう。練習はしていないため、真偽は不明である。

「……ら……乱切りだ。これが! 俺は、一つレベルをアップした!」

 乱雑に切るから、乱切りである。違うと思うし、誰もツッコみをしてくれない。
 伶依がいれば、訂正してくれるだろう。俺は首を横に振り、思考を停止する。

 今回は、己の力のみで解決する。いつまでも、伶依の力に頼ってはいけない。
 ふざけるのは、これぐらいにしよう。あいつが帰ってくる前に、ミッションを終わらせよう。

「おかしい……しかし小林も言っていたな。気持ちだと……よしっ! 成功だ!」

 フライパンに油と、食材を入れていく。炒めるだけで、野菜炒めが完成する。
 野菜を炒めるから、その名前のはずだ。火傷しないように、気をつけて炒めていく。

 しかしできたものは、この世のものとは思えない野菜炒め? だった。
 自分で作っておいて、これは食べ物ではない。それだけは、絶対に分かる。

 本能で、食べてはいけないと分かる。何がいけなかったのか?
 塩コショウの味付けなのか? ところどころ焦げているからか?

 ふむ、これは迷宮入りである。有名な探偵でも、難事件になるな。
 ふざけるのはやめて、証拠隠滅するべきなのか? 俺は腕を組んで、思案する。

 分からないということだけが、分かった。このような表現をする日が来るとは、事実は小説よりも奇なりである。

「ただい……火傷とか、していないか」
「大丈夫だ。気持ちが篭っているからな」

 捨てるか悩んでいると、ドアがガチャッと開いた。伶依が入ってきて、目を丸くしている。
 スーパーの袋を持っており、目をぱちくりさせている。俺とキッチンの惨状を交互に、見ている。

 開口一番、俺の心配をしてくれた。やはり、伶依は優しいやつだ。
 その返答として、俺は自信満々に答える。腰に手を当て、ドヤ顔をした。

 伶依は、返答に困っているようだ。もう少し構っても、いいのだぞ。

「えっと、なぜ急に料理を? お前、効率的にとしか言わないじゃないか」
「それを言うなら、一緒に住めばいい。なぜ、アパートの隣を借りている。俺の日用品は、この部屋にあるのに」
「そもそもなぜ、当たり前のようにいるんだ。行くように連絡した俺も俺だが。今日だけの話じゃないぞ」
「俺の部屋の電球は勝手に切れているからだ。暗闇は論理的に考えて危険だ。よって、この部屋に緊急避難するのは至極当然の判断である」

 戸惑いながらも、声をかけてくれた。冷蔵庫に食材を入れつつ、配慮している。
 俺を傷つけないように、言葉を選んでいる。それが痛いほど伝わってきて、嬉しい。

 しかしその行為が、逆に傷つくこともある。伶依が俺のことだけを考えてくれているのは、悪くない。
 それはいいが、やはり一緒に住むべきだ。何を頑なに、拒んでいるのだ?

 週に五日は、この部屋で寝ているぞ。二部屋分、家賃や光熱費を払っている。
 それは非常に、非効率である。それをずっと、解いているのだが。

 こいつは、絶対に首を縦に振らない。そのため、強引に同じアパートにしたのだ。
 文句を言いつつも、世話を焼いてくれる。俺はメガネを上げて、口元を綻ばせた。

 電球は、そもそも買っていない。必要ないからだ。

「あー、はいはい。この危険物は、処理しような」
「うぐっ……小林の嘘つきめ。気持ちじゃないのか……伶依が、食べたいんじゃないのか」
「……なるほどな。気持ちは嬉しいよ。だけど、俺はお前の料理よりもお前が安全に暮らせるほうが嬉しいぞ」

 伶依は俺の作ったゲテモノを、ゴミ袋に入れていた。きっちりと密閉し、二重にしていた。
 そこまでする必要があるのか、理解不能である。危険物と言われてしまい、俺は不貞腐れた。

 頬を膨らませ、ソファに座る。両膝を抱えるが、かなりキツい。
 ボソボソと呟くが、伶依に聞こえる程度の声を維持した。

 伶依は少し思案した後、俺の元にやってきた。目の前にしゃがみこみ、頭を撫でてくれた。
 若干、子供扱いである。不服だが、気持ちのいいものである。

 俺は伶依に、頭を撫でられるのが好きだ。こいつの手は、昔から優しい。
 それ以上に、俺に対して甘い。それが何よりも、嬉しいのである。

「伶依、俺も何か」
「別にいいぞ〜テレビでも見てろ」
「そうか」

 伶依は小柄な体で、狭いキッチンを動き回っている。冷蔵庫を開け、食材を取り出す。
 振り返って、まな板を置く。鍋に火をかけ、その間に包丁を洗う。

 無駄がない。